6.28.送る
いつもの場所に到着した。
俺は背中に乗せていた少年を降ろし、座らせる。
だが少し飛ばし過ぎてしまったようだ。
目を回してしまっており、座らずに寝転んでしまった。
うーん、あの時は瀕死だったから感覚とかそんなものはなかったんだろうなぁ。
しかし、この場所で会い続けるのは危険極まりない。
またいつあいつが出てくるか分かったものではないからな。
結局見つからなかったし、匂いでも追えなかった。
あの時追おうと思えば追えたのだろうが、そんな余裕はなかったしな。
仕方がない。
何とか安全な場所で会うことができないだろうか……?
じゃないと人間の情報が断たれてしまう。
それは何とか避けたい所。
『んー……』
「うう……。やっと落ち着いた……」
『おっ』
どうやら回復はした様だ。
だが手の動きを何度も確認をしている。
違和感があるようで体を見ているが、外傷はないのだよ。
メイラムから話を聞いたが、あの毒は非常に強力で特殊だったようだ。
お陰で一日ではなく二日もの時間を解毒に有してしまった。
だが命が助かっただけマシだろう。
しかし解毒したと言っても後遺症は残ってしまったらしい。
大幅な魔力総量の減少、これである。
あの時メイラムも言っていたが、少年の体を蝕んでいた毒は魔力組織を崩壊させる毒。
もう少し分かり易く言うと魔力回路かな。
それを破壊してしまう毒だったようだ。
軽度の崩壊であれば修復は可能だったようだが、メイラムが治療に当たった時には半分以上の魔力回路が崩壊していたらしい。
他の組織を崩壊させるのを防ぎつつ、解毒をしなければならないという繊細な作業が求められたため、予定よりも長い時間がかかってしまったのだ。
今少年が違和感を感じているのはまさにそれだろうな。
魔力総量の減少によって体内に貯めれる魔力が減ったのだ。
今までとは違う感覚に戸惑うのも無理はない。
その事には気が付いていなさそうだがな。
とりあえず……ここにはもう来ないように説明しておかないといけない。
トントン、と足を踏み鳴らし、爪でバツ印を書いてみる。
その意味はすぐに分かったようで、少年はコクコクと頷いた。
「僕、死にかけてますしね……。同じ場所はマズいですよね……」
『当たり前だ』
「ええと……あ、そうだ! フェンリルさん、何かして欲しい事とかありますか!」
え、して欲しい事?
急にそんなこと言われてもなぁ。
まぁ今は誰にも他言しない様にしてくれれば問題ないかな。
そして、今からさっさと帰ってもしかしたら結成されているかもしれない捜査隊を解散させてきてくれマジで。
お前がいなくなった二日間、向こうでは大騒ぎになっているだろうからな。
とにかく早く帰ってくれた方が助かる。
『あ、そうだ』
俺は土狼を作り出す。
それに少年を乗せて走らせれば、比較的早く着くことができるだろう。
この土狼は向こうに置いておけば……いいんじゃね?
上手くいくかどうかは分からんが、まぁこれは少年の裁量に任せるとしよう。
よし、これで忍び込むことができれば人間の情報も集めることができる。
こいつは壊されても全く問題ないしな。
あー壊されてもあれだし、もう一体くらい作っておこう。
またあのダークエルフが襲い掛かってきても敵わないからな。
「うわぁ……」
『よし』
「うわっ!」
土狼の鼻で少年を持ち上げ、背中に座らせる。
毛が無いので乗り心地は最悪だろうがまぁ我慢して欲しい。
『しっかり掴まっとけよ』
「え!? これ動くんですか!」
なんか少年、さっきから叫んでばっかだな。
まぁそうさせてるのは俺なんだろうけど。
とりあえず少年に二体の土狼を付けて置き、ヴェイルガから聞いた人間の里の方角へと向かわせていく。
暫くは土狼の操作で忙しくなる。
視界共有は棲み処に戻ってからにするとしよう。
『さて、上手くいけばいいな』




