6.20.さくせんかいぎっ!
オールが出て行ってから数分後の事。
そこにいたのはベンツとガンマの子供たち。
セレナ、マーチ、ジムニー、セダン、そしてシグマとラムダだ。
六匹は外に出て、輪になって何かを話し合っていた。
喚き散らしていたセレナだったが、リーダーであるオールが行ってしまったことで今日のところは諦めることにして、次の作戦を練る為にこうして全員を招集したのである。
しかしセレナ以外の五匹にとっては何のことやらさっぱりわからない状況。
呼び出された理由は単に遊ぶためだと思い込んでいる。
『ということで、さくせんかいぎをする!』
『……どういうことで?』
『遊ばないの?』
『さくせんかいぎってなーに?』
オールやベンツたちが集まる集会の真似事をしてセレナは仕切ろうとしたが、残念ながら失敗に終わってしまった。
そう言うセレナも作戦会議とは一体何なのかを理解しきっているわけではないが、話し合って何かをするという事までは分かっている。
よく聞き耳を立てているので内容自体は何度も聞いているのだ。
しかしオールたちの会話は子供にとって難しい話ばかりなので、セレナには内容を全て理解はできていない。
だが同じようにすれば大丈夫だろうと思い、こうして何の考えもなしに皆を集結させた。
そしてセレナにはどうしてもやりたいことがあった。
それを成功させるために、皆の協力を仰ぐ。
『どうやったらリーダーの背中に気が付かれずに乗れるかな?』
セレナの口にした言葉に、他の子供たちはぽかんとしていた。
何を言っているのかよくわからなかったからだ。
暫くの沈黙が続いたが、その言葉にジムニーが呆れ気味に言う。
『何言ってんの……?』
他の子供たちも同意見だったようで、全員がうんうんと頷いている。
『無理じゃない? 三狐さんもいるし……』
『僕たちまだ父さんみたいに魔法も使えないし』
『そうだぜー。ラムダとジムニーの言う通りだぞ』
ジムニーに続き、ガンマの子供のシグマとラムダも否定的な意見を言う。
シグマは父親の口調を真似ているようで、まだ拙いが子供が使うと少し違和感を覚える喋り口調だ。
弟のラムダはそれとは全く反対で少し大人しい。
三匹の考えは全く同じだ。
殆ど一緒にいる三狐の存在に加え、全てにおいて多才なオールの背中に気が付かれずに乗り込もうなど、無理難題にも程がある。
普通に気が付かれて摘み降ろされるのがオチだろう。
魔法がどのようなものか理解すらしていないのだから、気配を消したり気が付かれない様にしたりと言った技術など今の子供たちにはないのだ。
『だから何かないか聞いてるんでしょー!』
『って言ってもなぁ……。セダンは何かあるかぁー?』
『僕もわかんない』
『だよなぁー』
そんなやり取りを小柄なマーチは首を忙しなく動かして聞いていた。
会話に入る余地がないとでも言いたげにワタワタとしている。
あまり協力的ではない子供たちの意見を聞いて、セレナは耳を垂らしてしょんぼりしていた。
だがこれは協力できそうにない。
会話もそこそこに、子供たちはセレナとマーチを残して好きなことをしに遊びに行ってしまった。
残ったマーチは落ち込んでいるセレナを見て何か声を掛けなければと考えてはいたが、引っ込み思案な性格がそれを妨げていた。
(ど、どどどどうしよう……)
とりあえず隣にちょこんと座って待つことにした。
何もせずに離れる事などできるはずもない。
マーチなりの気遣いだが、もう少し何かできないのかとまた思考を巡らせる。
そこでふと、気になった事があった。
『せ、セレナは……どうしてそんなことしようと思ったの……?』
目的を聞いていなかったので、とりあえず聞いてみた。
すると、セレナはぼそぼそと教えてくれた。
『あの時助けてくれた……動物? 魔物? 生物? に会いたいの』
『ん、んん?』
聞いたはいいけど何を言っているか良く分からない。
だがセレナは、何かに会いたいという事だけは分かった。
その存在が何かは不明だが……。
『え、えっと……。それで、リーダーの背中に隠れて……乗り込みたい……の?』
『だってリーダーもお父さんも連れて行ってくれないんだもん。リーダーは今日も行ってるみたいだし、ずるい』
『んんー……なるほど……』
セレナが命の危機に見舞われた事は全員が知っている。
そのせいで三狐で遊ぶことができなくなった。
だがセレナが向こうに行った時にあった出来事は全く聞いていない。
知っているのはセレナとオール、ベンツだけなのだろう。
『な、なんで連れて行ってくれないんだろうね……』
『そう言えば……何でだろう?』
それから二匹でその理由を考えてみるが、分かるはずもなく首を傾げるだけで終わってしまった。
とりあえず作戦会議はここで終わりにして、またいい作戦が見つかった時に協力を仰ぐことにする。
『ま、まずは……お父さんやリーダーに話を聞いてみよう?』
『大丈夫かな? それ聞いて会えなくなったりしないかな?』
『それは、わ、分からないけど……。私たちだけじゃ行けないし……』
『ううー……。そうだよねぇ……』
なんだか遊ぶ気にもなれず、とりあえず母親の元に戻る二匹。
そんな二匹の会話を、遠くから聞き耳を立てて聞いていたベンツは、やれやれどうしたものかと溜息をついたのだった。
『兄ちゃんと相談だな……』




