6.18.予想
さて、姿を見せたはいいが、どうやって人間の情報を得ようか?
少年は俺の言葉を理解できないようなので、また絵でも描いて説明してみようかな。
でも面倒くさいしかっこ悪いから嫌だなぁ。
先程元気よく挨拶してきた少年は、パタパタと近づいてきた。
怖い物は無いのかとツッコミを入れたくはなるが、まぁ今のところこいつに危害を与えるつもりは毛頭ない。
貴重な情報源だからな。
情報収集の為に接触したって説明すれば、ガンマだって何も言えなくなるはずだ。
だがもう少し考えてから出てきた方がよかったなぁ。
どうやって聞けばいいか全く分からん。
でも隠れたままだとどっか行っちゃうかもしれなかったしな。
またいつ現れるかもわからない少年なのだ。
聞けるときに聞いておきたい。
「あれ、今日はあの子いないんですか?」
その問いに俺は頷く。
早々簡単に子供を人間の前に連れてこれるわけがないのだ。
まぁセレナは連れて行けとうるさかったがなぁ……。
今もベンツたちが宥めているかもしれない。
だがあいつが大人になるまでに人間の恐ろしさを伝えておかないと、単独で人間の里に突っ走っていきそうな勢いはあった。
そうなるまでに何とか説得しておかないといけないな。
子供の内からそう言う教育はしておいた方が良いかもしれない。
何かあってからでは遅いからなぁ。
また帰ったらベンツと相談してみよう。
親の言う事を素直に聞いてくれる子供たちだといいのだが……。
「あ、これどうぞ」
少年はそう言って、バスケットを手渡してくれた。
俺にこれ渡されても、小さすぎて咥えれないので闇の糸で回収することにする。
目視で中身を確認してみるが、やはりこの中にはサンドウィッチが入っていた。
このバスケットと食料。
これを作れる職人と、豊富な食材を作れるだけの環境はあるようだ。
随分と裕福な里なのかもしれないな。
うん、こういった形で人間の里を把握していくのがいいかもしれないな。
と言うよりこれしかないわけだが。
そこで少年の服装を見てみる。
綺麗な短剣と何かの毛皮で作られたレザー装備。
胸には小さめのプレートがはめ込まれており、ベルトを使って位置調整などができるようだ。
あの時の人間もこういった武装をしていたな。
これよりももっとまともな奴だったが、人間の里は武器を作れるまでには発展している。
まぁ、自衛の為ではあるのだろうけど、そうでない奴らも居るよな。
組織的に動いている奴らもいるはずだ。
そう言えば初めて出会った人間はすぐに逃げて行った。
あれは戦闘を得意とする人間とは違うのだろうか?
まぁ何にせよ、人間の文明は発展している。
多分ファンタジー小説とかで出てくる奴と同じくらいの文明レベルがあるのだろう。
実際に見てはいないので予想でしかないが。
「それ子供狼に食べさせてあげてください」
いやこれ持って帰ったら仲間に怒られるわ。
後で適当な場所に捨てておこう……。
悪いな。
まぁ毒とかは入っていないみたいだし、食べても問題はない。
けど人間が作った物を食べさせるわけにはいかないよなぁ。
ていうかこの少年、これを渡すためだけにこんな所まで来ていたのか?
人間の里までは随分と距離があるように思えるが……。
「あのー……聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
マジで肝っ玉座ってんなこの少年。
ていうかもう俺が怖くないってか……。
体格差めっちゃあると思うんだけどなぁ。
ま、俺から話しかけることもできないし、座ってこいつが聞きたがっている事を聞いてみるとしよう。
とりあえず頷いて話を聞いてみることにする。
少年は少しだけ申し訳なさそうにしながら、質問をしてきた。
「テクシオ王国にいたエンリルって……貴方の事ですか……?」
それを聞いて、俺は牙をむかずにはいられなかった。




