6.3.集合
一匹ずつ現れる狼をしっかりと確認していく。
シャロ。
黒と灰色の毛並みを持つ、ガンマに次ぐ実力狼。
この一年で炎魔法の加減を完璧に調整できるようになり、その最大火力は俺の炎上牢獄を上回る。
普段は皆の兄貴分として、リーダーらしい振舞をしている様だ。
俺としても任せられる子がいるのであれば大いに助かる。
『オール兄ちゃんごめん、ちょっと遅れた』
『一番乗りだから気にしなくてもいいぞ?』
『え、そうなの?』
以前と変わらない喋り口調。
だが少し真面目過ぎる所がたまに瑕だろうか?
時間なんて別に気にしないんだけどね。
人間社会じゃあるまいし。
でもまた大きな戦いがあるかもしれない。
いつどんな時でも、こうしていてくれる存在は有難いと思う。
次に来たのはヴェイルガだった。
雷魔法を身に纏って、いつの間にか座っている。
突っ走ってきたのが丸わかりではあるが、何故だか誇らしげだ。
『一番乗りは僕です!』
『『嘘つけ』』
『はい、二番乗りです……』
シャロに言われただけなのであれば、そのまま一番を言い通すのだろうが、俺に言われるとやはり弱いらしい。
ヴェイルガは一角狼の元リーダー。
今でこそリーダーらしい行いをしているのだが、まだ子供らしさが抜けない。
まぁそれがこいつでもあるし、分かり易いからいいんだけどね。
一角狼は明るい灰色の毛並みをしているので見分けがつきにくい時があるが、こいつらは角の大きさで判断できる。
少し小柄の長い角を持つ一角狼はヴェイルガの特徴だ。
その後に来たのは淡い水色の毛並みを持つレイ。
専用の洞窟からひょこっと顔を覗かせてから、トテトテとこちらにゆっくりとしたペースで歩いていく。
レイは兄妹の中でも一番の実力狼になっている。
なのでこうした会議にはいつも出席してもらうことにしたのだ。
リーダー格が増えると俺の仕事も楽になるからな。
子供を愛でられるというのが一番の理由ではあるが。
『この辺でいいの?』
『悪いけどもう少し離れて……。冷たい』
『分かったの』
季節は春であるため、レイは常に周囲を冷やしている。
だが他の狼にとっては非常に寒いらしいので、こうして距離を取ってもらう事もしばしばだ。
レイ自身もその事には気が付いているようなので、気を悪くしたりはしない。
シャロに言われて数歩下がった所で、少しだけ冷気を緩めてくれる。
少しひんやりする程度の風が流れてくる程度に収まったので、とりあえずはこれで良しとした。
次は三匹一緒に現れた。
ベンツとガンマ、そしてスルースナーだ。
群れの中でも屈指の強さを持つ狼たちだ。
誰がリーダーになっても文句は言われない程に強いだろう。
黒色の毛を持つベンツは、昔よりも速くなり、もう目では追うことができない。
俺が闇魔法を四つ複合している所を見ていた様で、それを真似して雷魔法の重ね掛けが出来るようになったようだ。
それにより、以前の速度よりももっと素早い速度で走ることができるようになった。
ドンという大きな音を鳴らして走るので、さながら本当の雷のようだ。
ガンマは灰色の毛並みだ。
こいつの本気の打撃は未だに見たことが無いが、身体能力強化の魔法だけでよくもまぁここまでのし上がった物だと思う。
一度も炎魔法を使っている所は見たことがないのが残念だが、それを使えばもっと強くなるはずだ。
だがトラウマがあるらしいので、やはり使う気はないのだという。
残念だ。
こいつは俺の次にデカいのかな?
この一年でまた大きく成長して、大体五メートルくらいになったのだろうか。
俺が八メートルなので、本当に結構でかい。
『兄ちゃん、今日はこれで全員?』
『そうなる』
『腹減ったから手短に頼むぜ』
『……ガンマざん。恐らぐぞれを今がら話ずのでばないでじょうが』
『えっ?』
ガンマに指摘したスルースナーは、今でもリーダーの称号を保持している狼だ。
なので実質この群れには二匹のリーダーがいることになるのだが、もう部下みたいなものになっている。
これは俺がリーダーを奪う事をしなかったから成されているだけの物。
あの状況で殺し合いとかしたくなかったしな。
スルースナーとしてはなんかプライドがあったみたいだけど、もう俺も忘れました。
ただ、今は俺の群れに協力してくれているという形となっている。
まぁこいつらとしてはもう俺をリーダーとしている様だけどね。
黒と白い線が何本も入っているのがスルースナーの毛並みだ。
黒い髪の毛に白髪が多く混じっている様な感じだな。
しっかしこいつの能力は本当に怖い。
自分の骨格を変形させて戦い、体中から骨を突き出させる。
持っている回復魔法でその傷を癒しながら戦うので、魔力消費はとんでもないのだろうが、接近してからの不意打ちによる攻撃で数々の敵を倒した実績を持っているのだ。
近距離戦は是非とも避けたい相手だな。
スルースナーも修行をして、骨格変形の速度を極限まで高めた様だ。
今では一瞬で戦闘態勢に入れるようになっていた。
だが昔、喉を変形させてしまって声がしゃがれてしまっている。
聞き取れないことは無いが、こればかりはどうしても治らないのだという。
俺の回復魔法で試してみたが、そもそもの骨格の変形によって引き起こされているようなので、どうにもならなかった。
残念だ。
とりあえずこれで呼び出した全員が終結した。
俺たちの群れ屈指の強者だ。
そして背中に乗っている三狐。
こいつらも本当に良い仕事をしてくれている。
『じゃ、作戦会議を始めるぞ。議題は食料問題ね』




