2.2.索敵
俺が担当している区画に到着した。
まずは相手の数を知らなければならない。
そこで、頼りにされたのが俺だ。
『オール。敵の数はわかるか』
『やってみる』
俺は集中してそこ一帯の匂いを嗅ぎ取り、頭の中に地図を作っていく。
これは集中しないとできないので、目をつぶっての作業となる。
今回は風下にいる為、匂いが運ばれてきて状況がつかみやすい。
それに、周囲に味方もいるので集中できる。
仲間って本当に頼りになる存在だ。
暫くしてこの辺りの地図を頭に叩き込んだのだが、どうやら近くにはもう狼がいない様だった。
俺と同じく一度退散して報告をしに行ったのだろうか。
『この辺りにはもういないみたい』
『では待つとしよう』
……え?
探しに行くんじゃなくて待つんですか?
数を把握したいのにどうして?
『探しに行かないの?』
『下手に動いて俺たちの存在がバレるより、相手が来てくれるのを待つ方が利口だ。お前の鼻があれば、数を把握するのはこちらの方が速いしな』
随分期待されているようだ……。
だけどこれ結構集中しないとできないんですけど……。
え、もしかしてこれ常時やっていろって言ってるんですか?
……嘘でしょ?
オートから待機命令が下ったので、他の狼たちは休み始めた。
俺は休めないというのになんという奴らだ。
少しは何かしてくれたっていいと思う。
と、いうことで……俺だけ仕事をするという状況になってしまったのですが……とりあえず頑張りたいと思います……。
スンスン……。
◆
どれだけの時間こうしているのだろうか。
俺はずーっと集中して、索敵をしていた。
もう日が傾いており、夕日が見える時間帯に差し掛かってきている。
あれから飲まず食わずで待機しているため、俺はすでに腹が減っていた。
他の狼たちも、同じ境遇にいるはずなのだが……結構元気だ。
まぁ元気なのは良いことなのだが……。
これから喧嘩するぜって時なのに、なんでこうも緊張感がないのだろうか。
初めての経験であるはずのベンツとガンマもくつろいでいる。
それほど自信があるのだろうか?
まぁガンマは確かに緊張とかしなさそうだよね。
『……!』
俺の嗅覚探知に、あの狼の匂いが混じった。
どうやら暗くなり始めるのを待っていたらしい。
それで夜に攻めてくるつもりだったのだろう。
俺の動きに気が付いたオートが、すぐに声をかけてくる。
『オール。来たか』
『来たよ。数は十四』
『俺たちの倍か』
オートがのそりと立ち上がる。
それに気が付いた群れも立ち上がって戦闘態勢を整えた。
毛を逆立たせ、牙をむき出しにする。
相手の位置も全員に教えた後、すぐに駆け出して相手に向かって行く。
『お父さん作戦はある?』
『目の前の敵を叩け。お前たちならやれる』
『うぉっしゃー! 頑張るぜー!!』
作戦もくそもねぇじゃねぇか!
ガンマは良いな簡単な頭で!
『べ、ベンツ……』
『……うん。僕たちは最後に突撃しようっか……』
『ああ、そういうね』
この会話だけで作戦が作れる俺とベンツ。
機動力の高さを利用した作戦だ。
俺とベンツは同じ魔法を使うことが出来るので、それを考えてみればすぐにベンツの言いたいことは理解できる。
第一陣はオートたちに任せ、俺とベンツはその後に突撃する部隊として距離を置く。
オートに一度見られたが、特に何も言われることは無かった。
もしかすると、オートは好きにやってみろと言っているのかもしれないな。
初めての実戦……だし、連携とかは多分すぐには出来ない。
主にガンマはな……。
『父さん! 俺先に行っていい!?』
『いいぞ』
『よっしゃあ! 身体能力強化ぁ!』
ガンマに赤い電撃のような物が走り、毛が逆立つ。
筋肉が膨張したように大きくなり、ガンマは一気に地面を蹴って跳躍する。
ガンマの移動手段は跳躍。
足を速く動かして走っていく俺やベンツと違い、ガンマは一蹴りで移動をする。
なので着地するまで方向を変換することが出来ない。
故に……。
『っておおい! ガンマぁ! 位置ちょっとずれてるー!』
『なんだってえぇぇ……』
ガンマの声が遠くなっていった。
どうやら俺の声は届かなかったらしい。
こっちの方が数が少ないというのに、何を先走って行ってしまっているのだ……。
てかお父さんもなんで許可出したん?
まだ他の狼たちは匂いを辿れていない。
ガンマがどこまで飛んでいったのかわからないが、まぁ……大丈夫だろう……。
『やっぱガンマって馬鹿だよね』
『言うなよ……弟だろ』
ベンツの言う事に否定はしない俺でした。
まぁ事実なので!
◆
Side―ガンマ―
空中で相手を探すため、目を凝らして地上を見る。
匂いはまだ把握できない。
先程兄さんが何か言っていたようだが、あまり聞こえなかったのが悔やまれる。
兄さんの事だから、何か重要なことを言っていたはずだ。
それは一体何だろうか。
恐らく戦闘に役立つ何かだ。
一体兄さんが何を伝えたかったのかを、空中で探す。
『あ』
そこで相手の匂いが漂って来た。
場所をはっきりと把握し、その方向を向く。
一体どれくらい離れているのだろうか。
そこで、兄さんが伝えたかったことを俺は瞬時に理解することが出来た。
『目測見誤ったー!!!!』
俺は、飛んでいく位置を間違えたのだ。
着地するまで移動することが出来ない俺は、そのまま地面へと降り立つのを待つことにした。
実際、それ以外にすることがないのだ。
このままだと、始めに接敵するのはお父さんだろうなと考えながら、俺は森の中へと降り立ったのだった。