5.40.遊ばれる狐
住処に帰ってくる間に、ベンツには随分と怒られてしまった。
まぁ確かにあの軍を退けてから、竜に会いに行くなんて思ってもみなかっただろうからな。
それは確かに説明不足だった。
反省反省。
だけどそれも全部狐のせいです。
この三匹があんなこと言わなければ、俺は普通に帰ってましたよ。
当り前じゃないですかっ。
まぁ、あいつらが懇願してきた感じになってるのが面白かったけどさ。
そして今現在。
狐たちは遊ばれていました。
『『『ニギャアアアアア!』』』
『あはははは!』
『わーーい!』
『それーい!』
レイたちに完全におもちゃにされていますね。
狐たちのフォルムは随分と丸い。
コロコロと転がってボールの代わりになってしまっている様だ。
丁度いいから揉まれて貰っておこう。
子供たちも楽しそうだからな。
良いこと良い事。
ていうか割と懐かれやすいんだな、狐って。
完全に捕食対象なんだけどなぁ。
面白い絵面だ。
『おーい、その辺にしとけー』
『『『オールざまああああ!』』』
『遊ぶなら外でな』
『『『オール様!!?』』』
だって洞窟の中で遊ばれると、寝ている子が可愛そうじゃないか。
狩りの後はみんな疲れてるからな。
食事を取った後は寝る狼が多い。
狐で遊んでいた子供は、元気な声で『はーい』と言いながら、転がして狐を外に運んでいった。
『『『ああああぁぁ……』』』
抵抗むなしく、狐三匹は外に転がされていく。
それに加勢するかのように、他の子供たちも外に出て行ったようだ。
元気があって大変よろしい。
兎にも角にも、やることは終わった。
竜との契約も結んだし、魔物の軍も倒した。
掃除もしたので、あの辺の匂いは直に薄まっていくことだろう。
まさか既に俺がヌシだったというのには驚きだったが……。
ていうかこんなにあっさりとなれるもんなんですね。
全く気が付かなかったよ。
てか竜に合わない場合はどうやって自分が山のヌシだって気が付くことが出来るのだろう……。
……あれか。
また本能とかそう言う奴か!
いい加減にしてくれよマジで。
俺にもわかるように何か体に変化があってもいいじゃんかよー!
は、嘆くだけ嘆いたので俺は寝ます。
色々あったからな。
眠いのだ。
『オール様』
寝ようとしていた俺の所に、スルースナーとメイラムが来た様だ。
首を上げてそちらを見てみると、二匹は座っている。
『なんだ?』
『いえ、あの狐でずが……。何処で見つけだのですが?』
狐ってあの三匹の事だよな。
あれは確か……。
『俺が魔物の軍を殲滅した後、いつの間にか背中に乗ってたんだ。あの狐について何か知っているのか?』
あいつら、今の段階では結構謎が多いんだよな。
性格は良いみたいだし、あんまり好戦的ではない。
子供たちの遊ばれているのが証拠である。
だが、実際にどこから来たのかと言われると、よくわからないというのが本音。
匂いにも引っ掛からなかったし、音もしなかった。
何なら背中に乗っているという感触も感じられなかったのだ。
不思議、というより不気味と言った方が良いかもしれないな。
あの性格に惑わされてよくわからなかったけど。
スルースナーとメイラムは、お互いに顔を見合わせてから頷き、俺にまた視線を向けた。
『あの狐でずが、恐らぐ三狐だと思いまず』
『ん? ミコ? ……みこ?』
三匹の狐って書いてミコかな?
字面的には合っているが……一体どんな存在なのだろう。
『三狐ば憑依どいう形で、一体の生物に力を貸ずど教えられだごどがありまず。俺の父親の母が、三狐に憑りづがれでいだど聞いでいましだ』
『ほえー……』
『俺と……スルースナーの能力は、その母様から教えていただいた……物です』
あーなるほど。
だからお前ら複合魔法使えるのね。
それを子供の頃から叩き込まれてたら、自然と覚えるだろうしな。
えーと、話を聞いている限りだと、そんなに悪影響はないのかな?
って俺憑依されてんのか!?
あの野郎!!
『オール様ば体に何が変わっだ事ばありまぜんが?』
『? いや、特にそう言った物はないが……』
『三狐ば力を与える代わりに、魔力を吸い取るのでず。父親の母は、それに耐えれず死んでじまいまじだが……』
『れありー?』
害悪ぅ……。
なんて奴らだよマジで。
でも俺の魔力総量は沢山あるっぽいし、魔力を抜かれたのに気が付かないくらい程度しか抜かれていない気がする。
沢山抜かれていたら気が付くしな。
その辺は問題ないだろう。
何かがきっかけで、魔力を吸い取る量が変わる可能性はあるだろうが、その辺はしっかりとあいつらに聞いておいた方がよさそうだ。
勝手に憑依して勝手に魔力吸い取るとか考えられん。
全く、お仕置きが必要だ。
『重要な話を有難う。あいつらが帰ってきたら話をしてみるよ』
『無事で何より……。オール様の……魔力であれば……。そう簡単には……抜かれないでしょうがね』
『確がに。でば俺だぢばごれにで』
『おう』
そう言って、二匹は外に出て行ってしまった。
まぁメイラムの言う通り、気にする事でもないかもしれないけどな。
そう言う話はしっかりとしておいてもらわないと、使いたいときに魔力が使えないなんてことになったら惨事になる。
とりあえず狐たちを呼ぼうとしたが、まだ外で揉まれているようなので、それまでは放置しておくことにしよう。
……。
寝よう……。




