5.36.転生竜
急に大きな声で笑い始めた竜に、俺と狐たちは耳を抑えてへたり込む。
流石体がデカいだけあって、その声も大きい。
これじゃ話すらまともに聞けなさそうだ。
何か耳を保護する魔法がない物か。
とりあえず闇の糸で耳塞いどこう……。
『はっはっはっは! あーおかしいわ~!』
『……っ!? メス!?』
ようやく違う言葉を発したので、この竜がメスだという事が分かった。
てっきりオスだろうなと思っていた俺は、少し驚いてしまった。
とりあえず、笑うのは止めてくれたので、これからは話を聞くことが出来そうだ。
さて、何から話したものかと考えていると、竜の方が先に話をしてくれた。
『貴方たち誰? ふふふふっ。狐と狼が一緒にいるなんて面白くて笑っちゃったわ』
『そ、そう言うね……。俺はオールだ。こいつらは……まぁ覚えなくていい』
『『『ちょっと!』』』
『仲が良いのね~』
いや、そう言うわけじゃないんだけどなぁ……。
まぁいいや。
とりあえず、こいつはリーダーに興味がないんだったよな。
それで、他の竜はこいつがリーダーになる物だとばかり思っていたから、争いも起きなかった。
だがしかし、こいつがリーダーになるのを放棄したので、他の竜がリーダーをめぐって争いが起きているってのが今の現状。
半分以上こいつのせい……。
だけど、まぁ俺も当時はリーダーとか考えてなかったしな。
その気持ちはなんとなくわかる。
だがそのせいでこっちにまで被害が及ぶのは御免こうむりたい。
何とか説得できるだろうか?
『とりあえずお前の名前は?』
『私? 私はリューサー。見ての通りのドラゴンよ。でも私たちの捕食対象が自らここに来るなんて、一体何があったのかしら?』
『捕食される気は無いからな?』
『別に要らないわ。貴方小さいし。肉を食べるのも私は好きじゃないのよ』
そんな竜いるんだ……。
まぁ……なんていうか……。
こいつ竜のくせに小奇麗なんだよなぁ。
周囲を見てみても、なんか割と掃除とかされてるっぽいし、寝床も結構しっかりしてる。
几帳面なのだろうか?
それとも潔癖?
ま、そんな事は今どうでもいいか。
とにかく竜の群れを何とか鎮めてもらわないと……。
『あー。とりあえず、俺がここに来た理由を話てもいいか?』
『私もそれが聞きたいわ』
『今、この群れってリーダーを巡って争ってるんだろ? その影響で、こっちにまで被害が出てくるって話を聞いてな。お前に何とかして欲しいんだが』
それを俺が言った瞬間、リューサーは目を閉じで大きなため息をついた。
心底面倒だと言う感じだ。
どんだけ嫌なのよ。
『いやよ面倒くさい。私暴れるのって好きじゃないもの……。好きでこんな体になったわけじゃないし……』
『ん? それはどういう意味だ?』
『こっちの話よ。貴方に言っても分からないわ。誰に話しても何も変わらなかった。私の仲間はいるけど、私の仲間は何処にもいない』
仲間はいるけど、仲間はいない?
すんごい遠まわしな言い方だな……。
仲間はいるってのは、他の竜の事だろうな。
多分だけど。
でも、仲間はいないって……?
どういうことだろう。
仲間はいるけど、仲間はいない……いるけどいない……。
……あれ?
それって俺にも当てはまるくね?
確かに俺は狼という同じ種族の仲間はいる。
だが、同じ前世の記憶を持っている仲間はいない。
まぁ俺、元人間だしな。
そう言う意味で言ったのだろうか……?
でも確証ないしな。
言いたがっているって感じでもないし……とりあえず少し揺さぶってみるか。
『前世の記憶でもあんのか?』
『あら、よくわかったわね。初めてよ~言ってもないのにそんな事言って来た……や……つ……』
リューサーは何かに気が付いたようで、俺の方にゆっくりと顔を向けた。
まさか……と言った様子である。
狐たちは俺たちが何を話しているのかよくわかっていないようで、ずっと首を傾げていた。
どうやらこいつらは違うっぽいな。
『貴方、オールだったわよね』
『そうだが……』
『貴方も……前世の記憶があるのかしら……?』
『もってことは、お前もか……。ま、不本意だけどな』
それを聞いて、リューサーは一気に俺へと顔を近づける。
狐はそれに驚いて、ついに背中から転げ落ちてしまった。
だがそんなことは気にもしないリューサーは、すぐに俺に質問を投げかける。
『貴方の前世は何!? 私は人間で日本人!』
『お前もかよ!!』
そりゃ争い嫌うわけだよ!!




