5.11.最初の敵
急いでそちらまで走っていくと、敵のすぐ近くまで来ているという事が匂いで分かった。
今は集中している暇がないので、それくらいの事しかわからない。
匂いからして、シャロとニアが対峙していたようだ。
だが、ベンツは既に駆けつけていたらしく、交戦しているという事がわかる。
今この場所からでも、雷が激しく弾けているのが見て取れた。
恐らくあれはベンツの雷魔法だろう。
それを見たと同時に、奥からシャロとニアが走って来た。
『無事か!』
『大丈夫! 俺たちのこと子供だからって油断したみたい!』
『私が拘束してやったわ!』
たくましいなおい。
まぁ怪我がないのであれば無問題!
『よく足止めした! お前らは帰って子供たちを守れ!』
『俺たちも戦えるぞ!』
『それは俺たちに任せろ。今は敵の情報を皆に伝えるんだ! 急げ!』
『むっ! そう言う事なら!』
『わかったー!』
二匹はそれに納得したようで、すぐに駆けて行ってくれた。
とりあえずこれで不安要素は無くなった。
子供たちを守りながら戦うのは、俺ではまだ無理かもしれないからな。
あ、俺が敵の情報聞くの忘れた。
……まぁいいか。
俺は実際に自分の目で見て確認しよう。
走りながら、もう一度匂いで相手の数を割り出していく。
ベンツが高速で移動している為、ちょっとわかりにくいが……。
どうやら四匹に囲まれているようだ。
あの速度のベンツが押しきれないとなると、少し厄介な魔法を持っているかもしれないな。
早い所合流して加勢しよう。
すぐに走ってベンツが戦っているところまで急行する。
距離的にはすぐに近くだったため、十秒程走れば戦っているベンツと敵の姿が見て取れた。
だが、相手も俺が来るのが分かっていたらしい。
俺が顔を出した瞬間、魔法が何発か飛んできた。
『おっと……』
精度はあまり良くないようで、幾つかはあらぬ方向に飛び、二つが俺の元へと飛んできた。
だが、それもあまり速い攻撃ではない。
すっと身を屈めば、簡単に回避できるものだ。
飛んできた魔法は雷魔法。
敵は雷魔法を得意としているらしい。
そして、俺はその魔法に見覚えがあった。
『! 雷弾か!』
雷の弾丸。
数を作れる代わりに、その速度は遅い物だが……。
あれはばらけさせればばらけさせる程脅威となる魔法だ。
一つが弾けると、呼応するように雷弾が弾け、幾つもの雷の糸が張られる。
流石にそれを受けてしまえば、しばらく動けなくなってしまうだろう。
俺はすぐに土魔法で雷弾の道を塞いだ。
バヂヂヂヂッという音が方々から聞こえてくる。
雷弾の一つが弾け、全てが一度繋がったようだ。
壁の後ろで光が点滅している。
とりあえず俺は難を逃れた。
ベンツはどうだと思い、そちらの方に顔を向けてみると、ベンツは空中でその雷弾の糸を躱している。
身軽ですね……。
雷弾はベンツが着地したと同時に全て消滅してしまった。
すると、俺の隣にベンツが現れる。
『兄ちゃん気を付けてね。この雷魔法、結構強力だよ』
『見りゃわかるわ……』
雷魔法は放出した後、供給がなければどんどん弱化していくものだ。
だが、先程の雷弾は一切の弱化を見せなかった。
普通は小さくなっていくはずなのだが、大きさが変わらなかったのだ。
密度が濃いのだろうか?
適性のある種族は違うなぁ。
さて、敵さんは一体どんな奴なんだ?
そう思い、ようやく俺は敵に目を向ける。
そこには……頭に一本の角を生やした狼が四匹、並んでいた。
その角からは常に雷がバチバチと弾けており、全員が灰色の毛並みをしている。
だが、雷魔法の影響からか、その毛はあり得ないくらい逆立っていた。
例えるなら静電気で髪が持ち上がっている様な感じだ。
……こいつは見たことあるなぁ……。
懐かしや寄生生物。
今度は寄生されてない奴とご対面……。




