5.10.遠吠え
スルースナーたちが仲間になって一週間が経った。
生活は軌道に乗り始め、何不自由なく過ごせている。
スルースナーの群れは未だに隣の洞穴で寝てもらっているが、アリアにだけは子供たちが懐いたようで、よく遊んでいる姿を目にする。
流石母親。
子供の扱いには慣れている様だ。
シャロたちはまだ警戒しているが、ちょっとずつ距離は小さくなっているように感じられる。
狩り以外では話をしないが、狩りでは様々なことを教えてもらっているらしい。
俺も教えてもらいたいですぅ。
生活は安定してきたとはいえ、やはり獲物が毎日獲れるという訳ではない。
そう言う時は俺が保管している獲物を取り出して皆に与える。
だが獲物が獲れるときは獲れるので、それをまた無限箱にいれてという繰り返し。
今の所、食事に困るような事は無い。
冬の事もあるしな……。
出来るだけ蓄えは欲しい所だ。
そして、小さな子供たち全員が魔法を使えるようになった。
少し時間がかかってしまったが、使えるようになってよかった。
レイは炎と水の複合魔法である氷魔法を得意とする。
だが、炎と水は単体で使えないらしい。
それがなぜかは分からないが、氷魔法だけでも強いので問題ないだろう。
リッツは炎と雷に適性があった。
灰色の毛並みの子だ。
複合魔法は使えない様だが、これから教えていけばいい。
だが雷と炎か……。
何かあるだろうか……?
ヒラは、驚くことに光と回復魔法に適性があった。
まだ適性が分かっただけで、魔法は行使できないらしい。
光魔法はちょっと特別だからな。
またニアと一緒に教えてやろう。
バッシュは身体能力強化の魔法と闇魔法に適性があったらしい。
なんだかバルガンと似ているな。
もしかしたらそう言う魔法を使えるかもしれない。
あいつを思い出しながら、教えてみることにしよう。
ドロは水と土に適性があった。
だが、この子も単体では魔法を使えないらしい。
はて、なんでだろうか……。
何か特別な要素を持っているかもしれないな。
最後にウェイス。
この子は風魔法を二つ持っていた。
父さんと似ている。
もしかしたら全く同じ魔法を使えるかもしれない。
俺が知っている風魔法を全て伝授してやることにしよう。
小さい子供たちは大体こんな感じだ。
シャロたちも新しい魔法を作ったり考えたりしているようだが、教えてくれない。
そう言うお年頃なんでしょうか。
まぁこっそり見てやるけどな!
そして、スルースナーなのだが……。
彼は確かに俺たちに従ってくれている。
負けたのだから仕方がないと言う感じではあるが、だんだん納得もしてくれているようだった。
だが、あの魔法は余りよろしくない。
命を削って使う魔法だ。
なので、危険すぎるからあまり使うなと言っておいた。
しかし、それには反論してきた。
『俺ばごの魔法で命を奪っだ。自分の魔法で死ぬのであれば、ぞればぞれでいい』
との事……。
これはスルースナー自身の問題なのだろう。
俺はそれ以上の事を言うのはやめた。
だが、必要以上には使わないようにだけは徹底させておく。
それにはスルースナーも納得してくれたようだ。
まぁ、あれですよ。
命大事に行きましょうって事です。
そんな簡単に逝かれても、俺が困っちゃう。
頼むからもうちょい長く生きて。
と、まぁこれが今の群れの状況。
ギスギスする感じもなく、普通に過ごすことが出来ています。
何回か狩りをしている最中に、襲われたことがあったらしいが、それもすぐに討伐できたとの事。
ベンツ曰く、そろそろ強い力を持った敵が、本格的にヌシの座を巡って戦闘を仕掛けてくる頃合いらしい。
戦いも終盤って事なんですね。
だけど、山から生き物の気配が無くなっていく様子が全くない。
これは何でなんだろうか。
動物と魔物の違い?
いや、よくわからんけど、食べる物に困っていない。
なんかしっかりとした違いが分かればすっきりするんだけどなー。
今まで狩って来たのは全て動物だったか……?
いや、それっぽいってだけで実は全て魔物だったとかあるんじゃね?
あのストローみたいな口してる奴は絶対に魔物だろうけど……。
分かりにくいよねー。
「ゥオオーーーー」
『!』
仲間の遠吠えが聞こえた。
洞窟の中でゆっくりしていた俺は、その声を聞いて外に出る。
外にはアリアと小さな子供たちが待機していた。
『どっちから聞こえた?』
『北です』
『わかった。アリアは子供たちを連れて中に入ってくれ。炎魔法は洞窟では絶対に使うな。いいな?』
『わかりました』
アリアに指示を飛ばし、洞窟の中に子供たちを入れさせる。
何故ここまで強く言うのかというと、先程の遠吠えの意味が『襲撃』であったからだ。
何処かで仲間が襲われているのだろう。
俺はすぐに身体能力強化の魔法と雷魔法を使って、音のした方角へと駆けだす。
本気で走ったのは久しぶりだが、もつれる様な事もなく素早い動きで走ることが出来た。
ベンツには敵わないだろうが、それでも相当な速度だ。
油断するとこけそうである。
先程の声で、周囲に散らばっている仲間もこちらに来てくれるはずだ。
ベンツは既に到着しているだろう。
だが数が分からない以上、早く合流した方が良い。
俺は走る速度を上げた。




