5.5.殺しやしない
確か……リーダーの成り変わりは、相手リーダーの肉を食う事だったはずだ。
だから俺になぜ殺さないのかと問うたのだろう。
どの道リーダーは変わらなければならない。
それを委ねなければならないのだから、致し方のない事だろう。
だが、俺は同族を見つけてそいつらを殺すなんてことはしたくない。
数を減らしてどうするというのだ。
意味がないではないか。
『殺さねぇよ何言ってんだお前』
『!? なん、なんだど……っ!?』
俺の発言を聞いた狼たちは、驚いた表情で俺を見る。
確かに、この種族としての理は完全に無視していることになるだろう。
今までになかったことだ。
まぁ俺は無視するんですけどねっ!
『殺ざなげれば、肉を食わなげれば、ごいづらのリーダーにはなれん!』
『じゃあお前が引き続きすればいいじゃねぇか。俺に従ってはくれるんだろう? さっきそう言ってたし』
『お、俺だぢは今まで数々の同族を殺じでぎだ。成り代わり、導ぐ為に。ぞれを覆ぞうど言うのが』
『じゃあそれは俺の代で終了な。これからは俺がルールだっ!』
一度は言ってみたかった台詞ぅ~!
完全に決まっただろう!
ていうか、俺にしたがってくれるって言うんだったら、それでいいじゃん。
無理にリーダーを一匹にする必要なんてないじゃんねぇ。
俺からしてみれば、リーダーが何匹いようとも、それは大将格ってだけで、総大将じゃないから別にいいと思っている。
俺だけで群れを指揮できるなんて思ってないしな。
こうして優秀なリーダーが何匹かいてくれた方が、俺は楽ができるのだ。
しかし……まだ狼たちは納得していないらしい。
『おい兄さん……。それはどうなんだ?』
『ん? 構わないだろう?』
『いや、だけど……。んー。ま、まぁ兄さんがいいなら俺たちは従うけどよ……』
子供たちはあまり理解していない様だ。
だが、ガンマはやはりあまり納得はしていないらしい。
俺が決めた事だから従うと言っているしな。
それは向こうの狼たちも同じの様だ。
困惑している様子が見て取れる。
だが、その中の数匹はどこか安堵している様だ。
今まで群れを引っ張って来たリーダーを、殺されずに済んでいるのだから、そいつとしてはこのままでいて欲しいのだろう。
んー、だが全員に納得してもらっていないというのは……。
なんだかなぁ。
やっぱりイレギュラーなんだろうね。
今までにない事だし、仕方がない事だとは思うけど。
『だ、だが……』
『お前も死にたくはないんだろう?』
『っ!』
戦いもしないのに殺されるなんて、俺は絶対にしたくない。
それはこいつらも同じだろう。
『裏切る可能性もあるのだぞ!』
『あー。そん時はそん時だ。俺にお前らを従わせるだけの資格がなかったってだけだろ』
『……変わっているな……お前ば……』
『俺は俺が求めるリーダーに成るだけ。ついてくるかどうかはお前ら次第……かな?』
今はそれで良い。
それに、俺はそこまで凄い奴でもないし、皆を従わせる程の力なんてない。
皆に助けられて、俺はここまで来ているのだ。
無理にリーダー権を奪って従わせるのは、なんだか違う。
ちらっとガンマを見てみると、溜息をついているようではあったが、それ以降は特に否定するような動きや表情は見せなかった。
とりあえず納得してくれた……という事でいいのだろうか。
俺の視線に気が付いたのか、ガンマは俺に声をかけた。
『俺が前に言ってたこと忘れてたよ。すまん兄さん』
『いいさいいさ』
『兄さんらしいリーダーの考えだ。そう考えれば、悪くない』
うん、納得はしてくれたようだな。
有難い事だ。
後は……こいつらだが……。
そう思って見てみると、後ろにいる狼たちはそれで満足しているようだ。
だが、未だにリーダーは考えを改めてはいないらしい。
俺やガンマ、そして仲間の反応に酷く困惑している。
『決まらないか?』
『ぐっ……んんんん……』
ぐぐっと何かを堪えている。
譲れない物があるのだろう。
だが、俺はそれが何かわからない。
『何か、気に入らない事があるのか?』
『……俺ば……! リーダーになる為に敵のリーダーを何度も殺じだ! 俺だげが……俺だげが生ぎ延びでいいわげがない……!』
今までにも何度か戦って来たのか……。
にしては数が少ないな。
まぁ、今それを聞くのは野暮だろう。
だが、このズルーズナーは何度もリーダーと戦った事があるのであれば、それ相応の実力を持っているはずだ。
やはり俺はそんな優秀な味方を殺したくはない。
しかし、このままではこいつは納得しそうにないな。
では……こうするか。
『じゃあよ、ズルーズナー』
『……ズルーズナーだ』
『…………? ん?』
『ずまん。俺ば声がごんなのだがらな。自分の名前もまどもに言えないんだ』
『……スルースナー?』
『ぞうだ』
わっかりにくいわ!
初見で名前を言えるわけがねぇ……。
って話が逸れた!
『よし、スルースナー。戦って決めるか』
『!?』
『俺が勝ったらお前は殺さない。お前が勝てば、俺の肉を食うがいい。負けたほうに決定権は無いからな!』
『……ぞれなら、良いだろう……』
良し納得してくれた!
じゃ、さっさと終わらせますか。




