1.12.お爺ちゃん狼
結果から言いましょう。
俺はオートから呆れられました。
それは一体全体どういうことなのか。
『なんだその威力は……』
『……ええ……』
俺は初めて覚えた魔法、風刃を使い、その威力向上に努めていた。
だがしかしどうだろう。
俺が魔力を体の中に貯めて、それを放つと、草が斬れて岩が斬れたと思ったら、それよりも向こうに一気に飛んでいって崖が抉れた。
これがオートに呆れられた理由である。
どうやら威力がありすぎたらしい。
それは俺でも理解できた。
『……俺が教えられることはなさそうだ……』
『ええー! 他の技とか! ないの!?』
『阿呆! 他のを教えたらこの辺一帯なくなる!』
『うそん!』
なんてことだ……。
でも、一番簡単な風刃でこの威力であれば、もっと難しくて強い魔法を使おうものなら、確かに地形は無事ではいられないだろう。
ここは潔く諦めることにする。
『しょぼーん……』
『……だが使う時があるかもしれん。技の名前だけ教えておくから、もしもの時はイメージだけでそれを作り出せ』
『おお!』
オートが知っている魔法の数はあまり多くはなかった。
というより、まだ隠していると思われるが、少しでも教えてくれるのはありがたい。
教えてくれた魔法は四つだ。
竜巻、台風、つむじ風、風圧。
全部イメージが固まっている物だったので、使おうと思えばすぐにでも使えそうなものばかりだった。
風圧以外の魔法は、使うと確かにやばそうだ……。
『というか……オールはもう魔法の特訓しなくていいんじゃないか……?』
『て、手加減の方法覚えたい……』
『あ、そうだな』
他の魔法も覚えたいし、もしかすると自分に丁度いい魔法が見つかるかもしれない。
風の魔法を覚えた俺は、お爺ちゃん狼の所に行って、魔法を教えてもらいに行くのだった。
あ、やっべ!
そういや言葉通じねぇ!
◆
お爺ちゃん狼は土と闇属性の魔法が使える。
俺はとりあえず、魔法を見せてもらうために、伝わるかわからなかったが教えてくれと頼んだ。
すると、俺の言いたいことが伝わったようで、魔法を見せてもらうことが出来た。
本当ならオートから全部教えてもらうのがいいのだろうが、やはり適性を持っている狼から教えてもらったほうがいいだろう。
と、いう事で見せてもらったのだが……。
お爺ちゃんやばい。
何がやばいって土魔法がやばいんです。
お爺ちゃん狼は、伏せをしたまま軽く手で地面を叩く。
すると、地面の地形が一部大きく変形し、台が作られてその上に玉座のような物が出来る。
その玉座は狼が座るための物のようで、周囲にはあり得ないくらい細かい装飾が施されていた。
お爺ちゃん狼が台の階段を上り、その玉座に歩いてぺたりと座る。
どやぁ……といった表情が見ているだけで読み取れた。
だがこれは本当にすごいと思う。
これだけ細かい装飾が作れるのであれば、戦闘にも十分に使えるはずだ。
流石……長生きしているだけある。
『でも……これ人工物だよね……。どうして知ってるの?』
「ワフワフ……」
『あ、そうなんだ』
どうやら、昔はここを拠点にはしていなかったらしく、廃墟のような場所を拠点にしていたらしい。
これはそれを模して作ったのだという。
こうしてみると、オートより群れの長っぽい。
オートに比べて小さいし、毛も立っていないというのに、何故かそう思えた。
すると、お爺ちゃん狼はまた土魔法を使って周囲を彩り始めた。
新しい芽を生やし、それを成長させて一面の芝生を作る。
樹木は大きく成長し、芝生にはいくつもの花が咲き誇った。
土だけで作り出した玉座の台に、木の根が巻き付いていき、それからまた草木の芽が生えて緑が広がっていく。
お爺ちゃん狼が一つ遠吠えをすると、大きく成長した樹木に花が咲き、それから果実が実る。
果実はすぐに熟し、ポトリと落ちるのだが、その下に黒い闇が広がって果実を回収していく。
闇はお爺ちゃん狼の座っている所にも出現し、回収した果実が、闇からぽとぽとと落ちてきて、積み上げられていった。
『す、すげぇ!!』
土魔法は土と樹木たちを操ることが出来、闇魔法はワープのような技を使うことが出来るようだ。
全然危なくないし、遊び程度の魔法を見せてくれたのだが、それだけでもその魔法のすごさが理解できた。
「わふ」
お爺ちゃん狼は、俺にこちらにおいでと言った。
俺はすぐに階段を上がって、お爺ちゃん狼の隣に座る。
『……こう見えても昔の長だったのじゃよ?』
『!? わー!? お爺ちゃんが喋った! なんでぇ!?』
『ほほほほ。お前がわしのことを少しでも長だと思ってくれたからじゃよ』
家族だけしか喋れないと思っていた俺は、お爺ちゃん狼が喋ったことに非常に驚いた。
お爺ちゃん狼は闇魔法で回収した果実を、俺に勧めてくる。
その後、自分も果実を一つ取り、食べ始めた。
それを真似して、俺も食べる。
桃みたいな味がして、とてもみずみずしい。
『美味しい!』
『そうだろう? わしも食べやすくて好きなんじゃ~……』
そのまま二匹でその果実を食べる。
お爺ちゃん狼は、群れが餓死しそうになった時、この能力で助けたことがあったそうだ。
それから群れの仲間が慕ってくれ始め、力こそ弱かったが、一時期は群れの長を務めていたらしい。
意外とすごい狼だったんだ……。
『そういえば……長だと認めると喋れるようになるの?』
『うむ、例外はあるがの。長はほとんどの者と会話が出来るんじゃ』
『へ~!』
という事は……オートは全員と喋れるのだろうか。
あ、だとしたら……。
『お爺ちゃんはもう喋れないの?』
『そうじゃのぉ……。今しっかりと話せるのは、婆さんとオートだけじゃの。ああ、オールもいたか』
という事は……もう、長だと慕ってくれていた狼たちはいなくなってしまったのだろうか。
俺が子供だから、詳しく話す事はしなかったのだろう。
他の仲間は……多分もうこの群れにはいない。
お爺ちゃん狼は、優しそうな目線をこちらに向けるが、やはり少し寂しそうだった。
『そういえば、オートから魔法を教えてもらうんじゃなかったのかい?』
『もう終わっちゃった』
『となると……わしから教えれるものももうないのぉ。見せた物で全部じゃ』
『十分だよ!』
あれだけ見せてもらえば十分だ。
俺は土魔法と闇魔法で、何が出来るかを知れればそれだけでいい。
これだけでどういう風に魔法を使えればいいかわかる。
次はお婆ちゃん狼の所に行くことにする。
だがその前に……。
『おいしい』
『気に入ったようじゃの』
これは全部食べますっ!
デリシャス!




