4.28.主の不在
森がざわめくなんて言葉、なかなか言わないだろうけど、今はその言葉が相応しい。
風が強く吹き始め、草木が激しく揺れる。
そして、森の様々な場所から動物や魔物の声らしきものが聞こえ始めた。
空気が何だか重たくなったように感じるのだ。
『な、なんだ……?』
『うわぁ……まじか』
『兄ちゃん、ちょっとまずいかも』
え?
え??
また本能で理解してるとかそう言う奴っすか。
俺わかんないっすよ……。
ベンツは俺が理解できていないという事に気が付いたのか、一度ため息を吐いてから教えてくれた。
ごめんて。
『兄ちゃんが今倒したこいつ……ヌシだったっぽいね』
『山のヌシか?』
『そう』
今のが山のヌシかぁ……。
あんまり強くなかったなぁ。
あれ?
俺たちが住んでいた場所にはヌシ居なかったよな?
なんでだ?
『あそこは山じゃなくて森だからね』
……違いが絶妙過ぎるんだが。
森にはヌシが居なくて、山にはヌシがいるんですね。
俺一回もそんなこと聞いたことないぞ!
本能ってすごい便利ですよね俺も欲しい!
まぁ、ここは山と森があるからヌシがいるのね。
とりあえずそれは分かった。
で?
『ヌシが死ぬ事によって何が起きるんだ?』
『……ヌシの座を巡って争いが起きるんだよ』
………………。
あれ?
俺、今たった一匹殺しただけで、結構危ない状況を作り出してしまったのではないか?
これからこの森中、山中でヌシの座を巡って動物や魔物が暴れ始めるって事だろう?
あかんやん!
やばいじゃないか!
『ま、まじか……』
『おい、兄さん。悩んでる暇はなさそうだぜ』
ガンマがそう言い、臨戦態勢に入る。
周囲を見渡してみると、何かに囲まれているという事が分かった。
匂いも音もしなかった。
ガンマに言われるまで、全く気が付かなかったぞ。
匂いがないという事は、何かの魔法で匂いを隠しているのだろうか。
だが近づいてくる音もしなかったというのは妙な話だ。
これだけの数の敵が周囲を囲んでくるのであれば、音の一つや二つ聞こえても不思議ではない。
すると、草むらから敵が姿を現し始めた。
その姿は……土で作ったウサギの様な物だ。
『! 土魔法か!』
これは見たことがある。
デルタが使っていた土魔法と闇魔法の複合魔法だ。
やはり俺たち以外にも複合魔法を使う敵はいるよな!
この魔法には水が有効だ。
全部溶かしてやる。
『水魔法、水狼』
敵の数は全部で二十四体。
俺はその半分の十二体の水狼を作って応戦する。
幸い、敵の魔法はとても小さいので、水狼の大きさであれば簡単に食べてしまうことが出来るはずだ。
水狼の体の中で無力化する。
俺は水狼を操り、その土ウサギに襲い掛からせた。
土ウサギは抵抗こそしようとしていた物の、すぐに水狼に飲み込まれる。
全てのみ込んだのを確認した俺は、水狼の体の中で渦を発生させた。
洗濯機ですね。
土ウサギはいとも簡単に崩れ去ってしまった。
それを確認してから、俺は水狼を解除する。
『こんなもんか』
『見つけた!!』
ベンツが一瞬で消えていった。
何かを発見したのだろう。
大方見当はついているが。
『後はベンツに任せておけば大丈夫だな』
『ああ。とりあえず、俺たちは安全な場所を探そう。こんな状況で安全な場所なんてないかもしれないがな』
『むぅ……。あ、そうだ。ガンマ』
『ん?』
聞いていないことを思い出したので、ベンツの代わりにガンマに聞くことにした。
結構大切な案件だ。
『ヌシになるための条件ってなんだ?』
『何で知らないの』
『それ前にもベンツに言われた』
知らねぇもんは知らねぇの!
俺お前たちみたいに本能で理解するなんてのできないから!
魔法はなんとなくわかったけどさ……。
『えーっと……。とりあえずかかってくる敵全部倒したらいいよ』
『わぁおアバウトぉ』
やること自体はそれでいいんだろうけどさ?
違うじゃん?
俺の聞きたいことそれじゃないんだよ。
条件を教えて欲しいんだって。
もっと噛み砕いて教えてくれ。
そう言ったが、返ってくる内容は殆ど同じだった。
よし、ベンツが帰ってきたらベンツに聞こう。
とりあえず先にやる事は、住処の確保だ。
出来れば防衛に適している場所が良いのだが……さて、何処かにあるだろうか……。




