4.22.珍しい魔物
子供たちが火を通した肉は、まだ少し生焼けである部分もあったが、食べられないことは無かった。
小さな子供たちも、焼いた肉の魅力に憑り付かれたらしく、食べる速度が異常に早い。
焦らずとも、魔法箱にはまだ沢山あるのに……。
ニアにもその料理を食べてもらった。
まだ体調は良くないが、食事ができない程ではないらしい。
それが唯一の救いだろう。
食べてくれたことに安心した俺も、その肉を貰う。
とは言っても、俺は体がデカいので普通のサイを一頭だけ頂いた。
この量を料理するとなると、子供たちに負担がかかるからな。
料理を食べてもらうのは、ニアだけで充分である。
ニアは料理を食べ終えると、またすぐに眠ってしまった。
起きているのは辛いのだろう。
次起きた時は、少しくらい楽になっているといいな。
小さい子供たちは、料理を食べると眠たくなってしまったのか、すぐに小屋に戻って寝始めたようだ。
しっかりと小屋に入って寝てくれるので、あまり世話がかからない。
子供の面倒を見ているレインは、小さな子供たちと一緒に小屋に入っていった。
皆が皆、生活を支えてくれている。
子供たちは狩りを経験したので、どこか自身に満ち溢れていた。
これであれば、俺たちが居なくても狩りをすることが出来そうだ。
すると、ベンツが帰って来た。
数匹の獲物をいっぺんに咥えている様だ。
だが、子供たちが狩った獲物に比べれば小さすぎる。
それを見て、子供たちは自信満々に先程あったことを説明し始めた。
『すごいでしょー!』
『へー! やるじゃん!』
『ベンツ兄ちゃんは何狩って来たの?』
『これは、内緒』
子供たちはそれを物欲しそうに見ていたが、ベンツはすぐにそれを咥えて俺のいる場所までやって来た。
何を狩ったのだろうかと思い見てみると、そこには見覚えのある動物がいた。
『あ! お前それ……』
『ふふん。僕の足は速くなったからね。こいつらを狩るのも僕だけで十分みたいだ』
そう言って、ベンツは咥えていた動物を離し、地面に置く。
置かれたのは、魔力総量を増やすことのできる魔物……。
昔、リンドにあげたあの足の速い魔物だった。
それが二匹だ。
なかなか見つからない魔物だし、条件が揃わないと出現すらしない。
変な魔物だが、ベンツはそれを一匹で狩って来た様だ。
やけに帰ってこないなと思ったら、そう言う事だったのか。
『よく見つけたな……』
『まぁね。これだったらニアの回復も速いかなって思ったんだ』
『気付けにはなるな。ありがとうベンツ。助かったよ』
『いいよいいよ。でも、一匹はオール兄ちゃんが食べてね』
『はいはい……』
まぁ、今のニアはこれを一匹食べきるのも難しそうだしな。
残っているのは俺が食べるか……。
回復魔法も使ってしまったし、魔力総量が減っていないとも限らない。
全くその感じはしないんだけどね。
俺は一匹咥えて、一口で食べてしまう。
俺の大きさからすれば、この魔物は飴玉の様な物だ。
腹に入った感じはするが、満腹には程遠い。
だが、食べたと同時に体の奥からすーっと冷たい物が込みあがってくるのが分かった。
寒気とか、鳥肌とかそう言ったものではない。
心地いい……。
そんな冷たさだった。
しかし、その冷たさはすぐに消えてしまう。
体に異常がないか調べてみるが、特にそういった物は見受けられない。
魔力が上がったとか、そんな感じもしなかった。
魔力総量の増加は、体では確認しにくい物なのだろう。
『どう?』
『よく分からんな。増えたような……? 感じはしたけど……』
『ま、兄ちゃんはまだ魔力総量減ってないからね。分かんないのも無理ないか』
『かもな。ベンツ、そろそろ皆の所に行け。病気が移っちゃいけないからな』
『分かった。兄ちゃんも気を付けてね』
『おう』
一度ニアを見てから、ベンツは小屋を後にした。
俺は獲物を尻尾で持ってきて、隣に置いておく。
ニアが起きたら食べさせよう。
これに病を治す力があるかどうかは分からないが、それでも食べないよりはましだ。
折角狩ってきてくれたんだからな。
そう言えば……。
ニアって何の病気にかかってるんだろうか。
それが分かれば解決策も思いつくかもしれないけど、流石に動物の病気までは知らない。
薬とかがあればいいんだけどね……。
普通の風邪ならいいんだけど……。
んー、俺たちは誰も病気にかからなかったからなぁ。
こういう事は全く分からん。
ああ、ロード爺ちゃんならなんか知ってたかもな。
聞いとけばよかったぜ。
……お?
ちょっと待てよ?
『ベンツ! ベーンツ!!』
俺が叫んだ瞬間、ベンツが一瞬で帰って来た。
何事かと言った表情でベンツは叫ぶ。
『どうしたの!? ニアの状態が悪化した!? 敵襲!?』
『あ、すまん。聞きたい事があったんだ落ち着け』
『嘘でしょ?』
ごめんなさい……。
いや、俺も今さっき気が付いたことだからちょっと興奮してしまったんだ……。
じゃなくて!
『ベンツ、お前これ何処で狩って来た?』
そう言って、俺は爪で魔物をつつく。
ベンツは呆れた表情をしながら、座ってから教えてくれた。
『これはここから南西に行った場所で見つけたよ。快晴で、風がなく、動物の気配が少なかったから、まさかと思って見に行ってみたらいたんだよ』
この魔物が出現する条件は完璧に揃っていた。
という事は……。
『ベンツ、その条件が揃う所は殆どない。そしてそれは、俺たちが前にいた縄張りの一部でもあった』
この魔物が発生する条件とぴったりの場所が、以前いた縄張りにはあった。
だがそれはほんの一部。
他の場所では動物が多く、自然も豊かだった。
もしかすると、こいつが狩れる場所に近い場所は、縄張りにすることのできる条件が揃っている可能性が高い。
俺はその可能性を信じて、ベンツに問うたのだ。
『……あ、そうか。……ああ! そうか!! そうだよそうだよ! 可能性はある!』
『行く場所は決まったな!』
『じゃ、じゃあ僕その周辺見てくるよ! 暫く帰らないかもしれないけど大丈夫かな?』
『ガンマに任せてから行ってくれ。レインが水を出してくれるから、小さい子供たちの事も問題ない。それに、子供たちはもう狩りもできるから安心していい。この周辺にはまだ獲物はいるだろう?』
『うん、大丈夫。ここも狩場として使えそうなくらいいはいると思うよ』
完璧じゃないか。
気が付かないうちにいい場所まで来ていたようだ。
やっと旅の終わりが見えて来たぞ!
……父さんはこの場所を知っていたんだろうな。
ありがとう。
本当に、感謝するよ。
『よし! 頼むぞベンツ!』
『うん! じゃあガンマにここを任せてから行ってくるよ!』
ベンツは踵を返して外に走っていく。
向こうの状況を確認してきてくれるのは本当にありがたい。
ニアが回復する前には、仮拠点が決定するだろう。
『んー……うるさい……』
『……ごめん……』
ちょっとはしゃぎ過ぎました……。
すんません。




