4.4.順調な旅
歩き始めて数時間。
特にこれといったこともなく安全に進むことが出来ている。
今いる場所は、足元が水に浸かっているような場所で、俗にいう湿地帯と呼ばれている場所だ。
森の中にある湿地帯の様で、山から流れてくる水がここに溜まっている。
平地で歩きやすいのだが、足にまとわりつく藻や水が少しうっとおしい。
本当は獲物がいてくれたらいいのだが、残念ながらここは湿地帯。
魚はいるがお肉はいない。
最終手段は魚に頼ることになってしまうだろうが……。
それは何とかして避けたいなぁ。
獲り方知らないし。
ていうかこの湿地帯……結構ぬかるみますねぇ。
足がもう汚いです。
ああ……俺の綺麗な足が……。
白色だから余計目立つのですよ。
何処か落ち着ける場所があったら綺麗に洗い流しましょうね。
他の皆は割と元気だ。
初めての湿地帯という事ではしゃぎまわっている。
だが、ガンマだけはこのぬかるむ感触が嫌いなようだ。
終始嫌な顔をしながら先頭を歩いている。
他の子たちは別に気にしていないらしい。
だが少しはしゃぎすぎて体中に泥が付いてしまっている。
この子たちも後で綺麗に洗い流すことにしよう。
『気持ちわりぃ……』
『湿地帯だからな。水気が多いんだ』
『俺、ここには住みたくねぇなぁ』
『それは同意』
そもそも食べ物がないのでここに住むというのはあり得ない。
だが、実際は動物がいないという訳ではない。
いるにはいるのだが、その全てが小動物なのだ。
俺たちが食べる量にしては、明らかに少なすぎる。
ていうかそもそも寝るところがあるかすらも怪しい。
こういう所ってなんか毒とかありそうじゃん?
怖いじゃん?
俺、毒とかそう言う匂いとか嗅いだことないからわかんないんだよね。
多分俺以外の狼たちは、本能でこれはやばい物だっていうのが分かると思うんだけど……。
その時は頼ることにしましょうか。
『うわーい!』
『きゃー!』
子供たちはばっちゃばっちゃと水を弾き飛ばしながら遊んでいる。
まぁ、楽しいのであれば何よりだな。
旅をするにも楽しんでいかないと、これからが持たないだろう。
『おーい。楽しむのはいいが、絶対に離れるなよー』
『『『『『はーい!』』』』』
『よくこんなところで遊べるなぁ……』
『ガンマはダメっぽいな』
『おう。早くここ抜けたいぜ……』
休憩するにも、ここまで水浸しな所では休むに休めないだろう。
これはもう少し歩いていかなければならなさそうだ。
そこで、ふと先頭のガンマがこちらを振り返る。
嫌気な顔でこちらを見たのだが、次の瞬間顔をほころばせた。
『……兄さんそれ……ふふふ……』
『ああ、これな……』
ガンマの見た先は、俺の頭の上。
そこに何があるのかというと……。
子供たちが六匹、団子になって乗っかっていた。
どうやら高い所から景色を見たい様で、俺の体をよじよじと登ってきたのだ。
小さい体でよくやるなぁと思っていたが、結局頭の上に来たと言う所で落ち着いたので、そこで固定してやっている。
別に重くはないので問題はない。
と言うより可愛いので許している。
まぁ半分寝てるけどな。
『体がでかいと、いい寝床になるな』
『はははは、確かにそうだ』
毛も長くなったし、暖かそうにしている。
頭の毛まで長くなってるんだもんなぁ。
元から長毛種である俺たちだったけど、今の俺はその三倍くらいの毛の量だ。
足元の毛は切った方が良いなぁ。
かっこいいけど。
『……おっ?』
遠くの方を見てみると、湿地帯が終わっている。
そこから奥は普通の丘だ。
今度はそこを進むことになるだろう。
ガンマもそれを見たようで、ようやくかぁ、という風に一度ため息をついた。
あそこで上がったら一度休憩にしよう。
体中泥だらけの子供たちもいるしな……。
しっかりと洗ってやるぞ。
『おーい。あそこまで行ったら少し休憩にするぞー』
『はーい!』
『分かった!』
お、頭の上の子供たちも起きたみたいだな。
水でも飲ませるとしようか。




