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プロローグ
ある日、空からクジラが降ってきた。
しかし、それはただのクジラの形をした水だったようで、
アスファルトの上に体を打ちつけたときには、
もうクジラの形はなく、
そのかわりに透き通った色の水が弾け飛んだ。
ひとつひとつの雫が、
意思をもって進んでいるかのように、
空を飛んでいるかのように。
しかし、
翼もないその雫は、
ずっと空を飛べることもなく、
虹色の輝きを見せながら、
シンクロのように、
他の雫と息を合わせて、
地面に落ちた。
その瞬間、
今までの美しい景色は消え、
混乱と凶器に満ちた現実世界へ、
戻されてしまった。
それを目撃した人はこう言う。
「クジラのようなものが落ちてきたときは、当然驚いた。しかし、それが水となり、粒となり、ときには虹となり...。一瞬のようで、永遠のような。世界の終わりだとも思ったが、それ以上に、一つの感情が飛び出た。」
「もしも、」
「もしも叶うのならば、」
「もう一度見てみたい、と。」