第1話
気がついたら、巨大な魔方陣の上に立っていた。
薄暗い部屋の中で、どれ程の広さなのかも分からない。足元に描かれた魔方陣の線だけが淡く光っていた。その光も、徐々に弱くなっていく。
1分も経たないうちに光は無くなり、完全な暗闇になった。
「こ、ここは?」
何が起こっているのか、全く分からなかった。
大学の講義を受けている時に居眠りをした。そこまではしっかりと覚えている。夢でも見ているのだろうか。
足元はおろか、手元も見えない。歩こうとしても、先に地面があるのかさえ分からないので、その場で立ちすくんでいた。
しばらくそうしていると、不意に遠くで小さな灯りがついた。ロウソクの火くらいの小さな灯りが等間隔で1つずつ順番についていく。
壁に付けられた燭台の明かりで、部屋の広さがようやく分かった。小中学校の体育館くらいの広さだ。地面は、石畳のようだった。
部屋の壁全ての灯りが灯ると、背後で巨大な炎が燃え盛った。石段にある巨大な壺のような物から炎は出ていた。
その炎の光でようやく自分の姿を見る事が出来た。
布一枚さえ纏っていない。いつも掛けていたメガネも無い事に気付いた。
俺「変な夢だなぁ」
「夢などではありませぬぞ」
どこからか声がして、俺は弾かれたように驚いた。低い、男の声だ。お腹に響くような肝の据わった男を想像させる。
「おやおや、魔王様はまだ目が覚め切っていない御様子だ」
またどこからか声がした。さっきとは違う声、やや若そうな男の声。
「黙りなさい、儀式はまだ終わっていないのですよ」
またまた別の声がした。今度は女性の声だった。
俺「え~と、誰か居るんですか?」
部屋に声がよく反響した。そのせいでどこから声がするのか分からなかったけれど、目をよく凝らしたら、部屋の真ん中に誰か居るのが分かった。
夢だから裸でもいいかと思って近付こうとしたら、一段分段差があって転けそうになった。魔方陣が書かれてあった所は一段高くなっていたらしい。
姿勢を立て直して暗闇にいる人達に近付くと、4人が横に並んで片膝を着いて頭を下げていた。まるで王様の前にいる時のように。
俺「あの~、ここは?」
誰も答えてくれなかった。そのままの姿勢で身じろぎ1つしていない。
「千年の時を経て召喚されし魔王よ、その名を。さすれば儀式は終わりますれば、全てご説明致しますゆえ」
最初に聞こえた男の声だった。
どうやら名前を言えば良いらしい。丁寧な話し方が何だかおかしかった。
俺「な、名前ですか…?
カナトですけれど…。てか、さっきから言ってる魔王って何なんですか?」
「「魔王カナト様」」
3人の声が同時に言った。4人がいるけれど、1人は声を出していないのだろうか。
そんな事はどうでもよかった。「魔王カナト」ってどうゆう事なんだろうか。
夢にしてはリアルだな、と思うようになった。巨大な炎から放たれる熱も感じる。床の冷たい感覚もそうだ。
4人が顔を上げ、立ち上がった。俺は4人の顔や体を見て、腰が抜けるほど驚いた。
俺「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
尻もちをつき、ワタワタと下がった。1人はとても背が高く、派手な鎧を付けていた。兜も被っていたが、その顔に肌や眼球はなかった。骨しかなかったのだ。