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転移ウサギのリアルワールド  作者: 山田太郎
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第四話「末路」

「おい、それおれのご飯!」

「いやいや、ここは僕の帝国、ベリーグッ島ベリ。僕がよこせと言ったら逆らうなベリ。」

「ネーミングセンスなさすぎワロタ。ここはこのおれにちなんで、ラビっ島に改名しろ。そしてご飯をよこせ。」

 死神が消えてから早一週間、おれたちは仲良くケンカしています。それも死ぬほど下らない、朝ご飯の最後の一杯をどちらが食べるかという理由で。

「僕は絵を描いて、それを出展して金を稼いでいるベリ。働かざる者食うべからずベリ。」

「ニートだろうと食べないと生きていけないし。いやニートだからこそ、今を改善するため、より多くの栄養素が必要なんだよ。」 

 奴がおれの頬を引っ張ってくるので、お返しに奴のほっぺを足で蹴りまくる。

「痛い痛い、王様を蹴るなベリ!」

「自宅警備員は、この独裁者を処罰するぜ。」 

 調子に乗って暴れるおれに、天からの処罰が下った。足が少し斜めにずれ、白米が盛られたお茶碗を、間違って生きた冷蔵庫の元へ蹴り飛ばしてしまった。奴は口を大きく開け、やばい目をしながら茶碗ごと口に入れたのち、大きなげっぷをした。

「ああ、何してんだベリい! 数少ない思い出の茶碗を食うなベリ!」

 バボイは降格を挙げ、目じりを下げている。

やばい、この隙に逃げないとまたお尻ぺんぺんされる。おれは逃げの体制に入る。

「このくそウサギ、ぶち殺すベリ。」

 おれは駆け足で逃げる。けど千秋のスピードに合わせる。追いかけっこは一方的じゃあ面白くない。おれはキッチンを抜け、螺旋階段を駆け上がり、二階へ向かう。つい一週間前までは、赤い液体まみれだったところ。おれのサポート込みで大掃除して、とてもピカピカになったぜ。千秋に聞くと、あれはすべて絵具で、あの子の絵を描いていたら、自然とその風景を真っ赤にしたくなっちゃって赤い絵の具ばかり使った結果、あの有様になったらしい。怖いが、彼の狂人じみた行為はもう仕方ないと開き直る。おれはこんなことにおびえていてはいけない。二階はどうやら仕事をするもろもろがあるらしく、パレットなどの美術用品が置いてある。ちょうどこのフロアにパソコンもあり、千秋用、そして新しく発注してもらったおれのパソコンもある。それを使って、この前Yohooで[浜辺千秋]って調べたら、物凄い数の絵画が出てきて、どれもギネスに乗っていたりと目まぐるしい業績だったっていうね。

「はあ、疲れたベリ。休憩ベリ。」

 おれはしぶしぶ走るのをやめ、彼の隣にきて床に腰を下ろす。

「さっきまであんなに怒っていたのに。」

「ウサギに転生したからっていい気になるなベリよ、ぜえ、ぜえ。……あっ、」

 何かを思い出したような彼のそぶりに、首筋がひやりとする。

「ゼオ、そういえば前、僕がバボイと遊んでいた時、死神来ていたベリよね。独り言言っているように見えたのは、僕から死相が消えたってことベリ?」

「ああ、綺麗さっぱりなくなったんだと。」

「後、どうすれば彼女は生き返るベリか?」

おれは思わず心臓が飛び出そうになった。しかし大丈夫、すでに手は打ってある。おれは驚きつつも、目を逸らしながら答える。

「八百個の課題をクリアすれば生き返る。」

嘘八百にちなみ、こんな嘘をつく。シャレにならないし、最低だとは思うけど。後、もう現実味などないからあきらめてほしいというのもあった。

「八百? 一体全体何をすればいいんだベリ!?」

 そうだよね。まあそうなるよね。しかしおれは続ける。

「大丈夫、死神から聞いたそのやることリストは、すべてパソコンのwordに落としといたから。後はすべてコピーして、メールに張り付けして君のパソコンに送れば、」

 おれのセリフにかぶさって、彼は話し出した。

「そうならそうといえベリ。ちゃっちゃとすべて終わらすベリよ。」

 おれは長い耳を引っ張られ、千秋のやろうとパソコン室へ。

「いででっ、引っ張るな、そこデリケートなんだよ! 」

 奴は耳を貸さず、螺旋階段の扉から左に曲がり、少し進んだところの右のドアにつく。そこを開けるとパソコン室となっている。使いもしないパソコンも無駄にたくさんあるので、もらいたい人はどうぞ、って誰に話しかけているんだか。やっと耳の痛みがなくなった。

「さあ、とっとと送れベリ。」

 千秋はすでに席に座っている。おれは言われた通りにした。千秋は自分のパソコンに送信されたメールをまじまじとチェックする。

しばらくして、彼は首を傾げ始めた。

「おかしいベリ、ここに書かれている試練は一つだけベリ。八百個じゃないのかベリ?」

 おれは付け加える。

「同時進行できない厳しいミッションばかりだ。少ない数から確実にこなしていった方がいい。とりあえず今はそれだけ。」

 本当は、ウサギの小さい手じゃ、キーボードを一文字打つのも一苦労で、八百もの単語をタイピングするのはかなりきついって理由なのだが。

「確かに、死神という人知を超えた存在からの試練ベリ。中途半端じゃダメベリね。」

 おれは胸を撫でおろし、彼の様子を見る。

「なになに、試練一。このネトゲで、プレーヤーランク一位になる?」 

 そう、おれはこのリスト、ごまかしのためだけに作ったのではない。試練一と書いたその横には、特に中毒性が高いといわれるネトゲのURLをその試練の横に貼っている。

「上等だベリ、やってやるベリ。」

 おれの考え方、それは何としても、千秋にあの女の子について考えさせないこと。彼は良くも悪くも一途であり、その子のためにと思うことで、物事へのブレーキが利かなくなる傾向がある。けど、それは言い換えればタガをはずしやすく、一つのものに依存しやすいということ。その依存の対象を、彼女からネトゲに変えてしまおうというのが、今回のおれの作戦だ。うまくいけば、ゲームのことしか考えられないようになるはず。そしたら彼自身も、もう苦しまなくて済む。ただ、不安もある。このゲームが千秋の肌に合うかだ。このゲーム、[インクレイティブラッシュ]って言って、バリバリのSFアクションだ。注目すべき要素として、アバター作成は髪の癖から骨格まで徹底的に作りこめる、CG独特のぎこちない動きがない、日本のアニメのような作画、スピーディーで繊細な爽快アクションなどがある。しかしアーケードやファミコンといったレトロなゲームをやっていた人は、素早すぎるアクションとのギャップに慣れないかも知れない。とにかく千秋が気に入ることを祈る。もっとも、クリアしなきゃ先には進めないが。

 今、何分経っただろう。千秋はずっとパソコンにくぎ付けになっている。おれは千秋に質問をする。

「どんな感じ?」

すると彼は、パソコンの画面を見たまま、左手をこっちに向ける。そして、ゆっくりと親指を立て、お決まりのセリフを言った。

「ベリーグット!」

 良し、千秋に生きがいを提供できた。

「いやあ、面白いベリなこのゲーム。なんたって作画がきれいだし、ストーリーにも深みがあるし、バトルの時とかマジでテンション上がるベリ。」

 そこまで入り込んじゃったならこっちのもんだぜ。そう思ったおれはその部屋を出て、すぐさま計画第二段階を始動する。次の準備をするため、おれも少しだけこのゲームを触らせてもらおう。

 日が暮れて、彼はようやく部屋から出てくる。おれは彼のそばを歩きながら質問を投げる。

「目が死んでるぞ? 今日は寝ちゃうか?」

 しかし、彼の頭にはまだ、あの子が残っていた。

「何があっても、あの子には今日一日のことを伝えるんだベリ。それが日課だベリ。」

 そう、千秋は日が暮れ、夜がやってくるちょうど境目の時間、必ず人形の元へ行く。そして人形を風呂で洗い、タオルで吹き、くしで髪を整えて服を着せる。そしてあの洞窟の部屋に戻すという行為をしている。肩身を大事にしているところは尊敬している。だが彼女を忘れてもらうためにも、きっかけになりそうなものは触らせないし見せねえ。

「まあまあ、今日は長いことゲームして、すごい顔になってるからさ。元気な顔で、明日あの子に会おうぜ。あの子はおれが洗っておくから。」

 そういって言いくるめ、夕食も取らさずに寝かせた。

 その夜、五階のバルコニーに出て星空を見る。久しぶりの一人、いや一匹だった。毛並みに当たる心地のいい風は、とても新鮮に感じる。それで力が抜けたのか、ため息をつく。

「唐突で強引なんだよな、おれの計画は。」

 意味なく過ごすこの時間は、おれの前世を鮮明に思い出させる。確か人間だった時も、強引に物事を進めようと、無理難題な計画を立てたっけ。テストの点数百点とか、一流大学に合格とか。そうすることで、周りより一歩先に行けているような感覚に浸れた。けどそんなおれの、人を見下し、置いていくような態度が、結局自分を苦しめていった。できない計画を立て、おれが失敗している間にも、周りのやつらは身の丈に合った方法で少しずつ、積み上げて行く。その末路、おれはやりたいことが何一つ達成できず、周りの努力の結晶を眺めながら、むなしく卒業した。目から涙が、出ない。ああ、おれはもうウサギなんだよな。感情では泣けないんだった。寂しい人生だったなあ。けど、今もおれは、いろんなものを一人で抱え、孤独に空を見ている。なんかむしゃくしゃしてきた。一人だって、一匹だって平気だ。あの星々だって、距離が近く見えて、実際はどれも遠くに離れているのだから。

 次の日、おれは朝市に目を覚まし、千秋の部屋に待機する。千秋が起きると、おれはスマホを渡した。それを見た千秋は怒り狂う。

「おまえ勝手に僕の携帯触ったベリか。」

 おれは黙って逃げる。千秋、あのネトゲはスマホでもできるのがおいしいんだ。しかも双方に連動し、より強力な武器を作ったりもできる。ダウンロードもチュートリアルも済ませた。だから後は、心おきなくはまれ。

 次の日も、その次の日も、千秋がゲームをやるように仕向けていく。それに反比例して、千秋の絵を描く時間が減った。彼はもともとあの女の子の絵ばかり描いていたから、忘れさせたいおれは好都合だった。さらに、念のためにおれもアバターを作った。あのことはまた違うタイプの、活発系女子である。ネトゲの中で女のフリをして、彼をものにしてしまうのだ。今のところは、何とか彼のアバターを見つけ、一緒にパーティを組んでいる感じ。効果は絶大で、おれがご飯を千秋の部屋にもっていったとき、かわいい子と出会ったと楽しそうに話してくれる。やはり一人の女の子にとらわれているときは、別の子を好きになるのが一番楽なんだ。前世での経験も兼ねて、おれはそう思っている。まあ、アバターの怖いところは、現実の姿がゲームからじゃ分からないってとこ。我ながらかわいい子を作ったが、その仮面の下はしゃべるウサギ。ごめんな、おれが女じゃなくて。

「けど現実の女より都合がよくて可愛くて優しい、二次元女子が君を助けちゃうぞ!」

 一匹でなりきりながら、慣れないネトゲに操作しずらい手で奮闘するおれだった。    

かれこれ一か月がたった。ネトゲによく飽きるおれは、時々気分転換に台所に行き、バボイに餌を与えては、自分も適当なものを食べるということをしていた。そのたびにおれのことをやばい目で見つめてくるから、くじけそうになる時もあった。それでも、バボイは放っておけなかった。千秋は彼女が死んでからおれが来るまで、ずっと一人で絵を描いては配達で食いつぶしていたらしい。だとするとバボイは、その間一匹で、台所に取り残されていたことになるからだ。動けるはずなのにどこにも行かず、誰からも相手にされず、目の前にあるテーブルに大好きな二人が座るのを待つ。楽しい空間が永遠でない現実を、知ることもできないまま。そんな風にあの怪物が思っているのかは知らんけど、境遇は理解してあげたいと思ったおれは、せめてもの計らいをしてやるのだ。さあ、千秋が立ち直るまではおれが遊んでやるからな。今日もおれは、引き出しに入っていたスナック菓子の袋を開け、長テーブルの上にのぼり、一口分をバボイの口めがけて投げる。いつものように大きな口を開けて、迅速に食らうバボイ。ところがこの後のことだった。

「パッパ!」

 びっくりした。心臓止まるかと思った。お前しゃべれるのな。

「パッパ、ドコ!」

 パパと解釈していいのか? おそらく千秋のことだろう。おれは答える。

「お前のパパは今、手が放せないんだ。」

「マッマ、ドコ!」

 言葉に詰まった。おれは何とかごまかそうと、嘘を言おうとした。

「ママも今、手が放せ……、」

 黒くて丸い瞳から、涙がぽろぽろと流れていた。あまり動かない表情が崩れ、落ち着けない様子であたりを見回す。

「パッパ、マッマ、ドコ? パッパ、マッマ、ドコ!?」

 おれは慌てて弁解する。

「安心しろ、今すぐパパを連れてくる。」

 おれがキッチンを出ようとすると、バボイも足をはやし、ついてきた。

「ボク、パッパトマッマニ、アウ! ゼッタイ、ゼッタイ!」

 あまりの勢いにおれは毛が逆立ち、大急ぎでキッチンの扉をくぐった。続いたバボイが扉をくぐろうとして、冷蔵庫が詰まった胴体の両端を、扉の端のコンクリートにぶつけた。

バボイは大声で喚き散らす。

「イタイ、イタイー! パッパ、マッマ! ドコー!」

 くそ、バボイのためにもあいつを呼んでこないと。だがそう叫んだ後落ち着き、静に一言こぼした。

「サミシイ。」

 おれはその場を叫びながら疾走した。

「そんなこと言うなよ、おれにはどうしようもできねえよお!」

 多分バボイにも聞こえただろう。けどもう、どうでもよくなってきた。千秋に行ってもらえばいいだけ、それだけなんだ。二階へ上がり、千秋の部屋の前に来た。

「千秋、今ちょっとだけ一階に来てほしい。」

 返事がない。そういえばこいつ、あれから一度も、部屋を出ていない。おれは何度もドアに体をぶつけ、ノックをする。すると、やっと返事が返ってきた。だが、様子がおかしい。

「うるぜぇベリ! おれは今いいとこなんだよ! この世界は最高ベリ。ハンサムでいられて、彼女もできて、仲間もいるんだあ!」

 ポテチをかみ砕く音がする。おれはイチバチかドアに向かって、強く飛び蹴りをした。毎日スクワットをしていたかいがあり、ドアが壊れた。いやもともと頑丈じゃないのかも。

「おいてめえ、ドアごわすんじゃねえベリ。」

 おれはどなってきた奴の千秋の顔を見る。

その瞬間、おれは思わず背を向け、足が砕ける勢いで逃走してしまった。そこにいたのは、貼ってたほっぺにそばかすやニキビが付き、体脂肪が肥大し肉が垂れさがった、ネトゲ依存の不気味な末路だった。

「悪夢だ、こんなの悪夢だあ!」

 なぜうまくいかない、こんなはずじゃない、あいつが彼女から解放されれば、自由になれると思っていた。でも違った。今度は別のものが彼を束縛し始めた。そしてそれは喜ばしい兆候ではなく、悪い方へ、ダメな方へと彼を転落させていた。結局おれは前世と、何も変わっちゃいなかった。

                続


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