8
前回までのあらすじ:ハンターギルドに行ってきた
「ふわぁああああ… お姫様…おひめさまのふくだぁああ!!!」
興奮した玉蘭がくるくる回りながら、買いたての服とダンスしている。
ピンクの生地にレースやらリボンをふんだんに使った、女の子の夢が詰まったロリータ服に玉蘭は大喜びしている。
以前に、キャップが
「女の子は、可愛いものと甘いものとお姫様で出来ているのよ!!」
と、熱弁していたのを鼻で嗤っていたが、あながち間違っていない気がしてきた。
はしゃぐ玉蘭の横で、猫火が恐縮しきりといった様子で礼を言っている。
「本当に、何から何まですみません…。」
「礼はいいよ。どうせ後で実費請求するから。」
「アッ……はい。」
(それにいつまでも、あんな格好で居られるのも考えものだしな…)
剣竜が諸々の用事を済ませて帰ると、入浴を済ませこざっぱりした猫火は「暇だったら片付けといて」と言付けていた物置き部屋…もとい、ゴミ部屋を片付けていた。
が…その出で立ちは、全身にシーツをグルグル巻き付け服っぽくした、古代民主制国家の賢者みたいな格好をしており、なんとも言えない姿だった。
まぁ、着る物が無いのだから、突き出された使い古しのシーツしか身に纏うものの選択肢がなかったからだが。
剣竜が買ってきた、丈が長めの前合わせ型の服を買ってきた。着物の様に前で重ね合わせ、帯で締める形のものだ。
着てもらうと、すらりと背が高く程よい筋肉質の猫火には、よく似合っている。
玉蘭にも同じタイプの前合わせ型の服を買ってきていたので、玉蘭はお姫様服を名残り惜しそうにしながら、父親と似たような服を着た。
「ぱぱといっしょー!」
同じ系統の服だと気付いたのか、これまた嬉しそうにくるくるパタパタと走って全身で喜びを示していた。
「ちょっといいか?」
「……! はい。」
剣竜が猫火を艦橋へと誘う。
キャップに玉蘭を任せて、二人だけで艦橋に入ると、カップに茶を入れて猫火に渡し、自分の分も持って剣竜は艦長席へ。
猫火には適当な椅子をすすめて座る。
何か察し、姿勢を正した猫火と相対すると緊張が漂う。
最初に口を開いたのは剣竜だ。
「深く詮索するつもりは無かったが、こちらにもある程度の情報を知っておきたい事情はある。
ギルドで、あんた達二人について、それらしい情報が上がっていないか調べさせてもらった。
………何も出て来なかった。」
「………。」
「俺がご丁寧に、あんたら親子をここに置いているのは、
一つはアンタの娘…玉蘭に能力…賜物があり、留め置く事が俺にとって有用だと思ったからだ。
猫火さん、アンタ、自分の娘の能力と深度について何か知っている事は?」
「お恥ずかしながら、全く。」
「……これまでの経緯に喋れない事情があるのなら、それでいい。
だが、だんまりのままでこのまま事がうまく運べるとも思えない。
そちらの持つ情報でこちらが有用と思えるものがあれば情報料として買い取るし、その金で今後を決めるのもいい。
とりあえず、どうする?」
沈黙が重く澱む。
「喋れば、剣竜さんに今まで以上のご迷惑をお掛けするかと思い、黙っていました。
いま、ここにはありませんが、元々の自分の住む場所にはお世話になった分の金銭も支払える分はあります。
どこかでお金を支払い、お別れするのが一番かと。」
剣竜は自分のハンター証を猫火の目の前に出す。
一目でランクがわかる。多少の事なら自分で何なりと対処できるという顕示だ。
「後々知りませんでした、ではまかり通らないのがこの世の常だ。
保険が欲しい。
触りだけでいい。いくら欲しい?」
「では、怪我を治して頂いた分と、服代。しばらくの生活費分を加えても構わないのなら、それで。」
「いいだろう。話せ。」
ひととき沈黙が流れ、猫火が口を開く。
「…MZAはご存知ですか?」
「ブフォ!!!」
剣竜が盛大に茶を吹いた。
地雷も地雷。メガトン級の地雷を真っ先に踏んだ気分だった。
いきなり剣竜が茶を吹いたことに慌てて「大丈夫ですか?!!」と取り乱す猫火を手で制しながら、あぁ…それは喋りたく無いわけだわ…と剣竜は納得する。
魔界ににも社会があり国家があり規範も秩序もある。
その垣根を超えて活動できる組織であり資格がハンターギルドとハンターであるが、同じ様に越権行動が出来る組織は他にも存在する。
その一つが、傭兵・軍事組織だ。
中でも、MZAという組織は多国間を越権し時には国家間の闘争に双方から関わり合い、組織力と規模と戦闘力だけでいえば一国家に匹敵するとされる。
更に、その陰惨さと残虐性に於いても名が知られている。
所有する戦力が圧倒的であるため、高ランクハンター達の間でも、MZA絡みの案件は避けて然るべき、…が暗黙の了解となっていた。
猫火に傷を負わせたものは、そのMZA絡みだという。
「…あの………。」
猫火が気まずそうな顔をしながら、剣竜の顔を見る。
手には剣竜が吹いた茶を拭いた布巾が握りしめられている。
「いや…気にしなくていい。
…感情的には聞かなきゃ良かったと思っているが、理性では聞いていて良かったと思っているから…。」
頭痛が痛いポーズのまま、剣竜はしばらくじーっと動かず考えを巡らせた。