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「ッあぁああああああァアアアー??!?!!!」
絶叫と共に慣性の法則に従い、球体魔法陣が森に落下していく。
大轟音をたてながら、木をなぎ倒し枝葉を撒き散らし土煙りを上げ回転の威力が削がれ……、球体魔法陣はその動きを止めた。
「し…死ぬかと思ったぁあああ!!!!!!」
開口一番、ほぼ泣き声で叫んだ。声からして諤々に震えている。
魔法陣の中は慣性航法効果があったようで、内部で激しく回転などは無かったが、強度の加重で本気で死を覚悟した。
経過時間があったために、連は先日元部下に刺された時よりよっぽど死を身近に感じた。正直、ちょっとちびった。
しかも、停止時の衝撃で頭を下にしながら複雑骨折でもしそうな姿勢での着地となった。
程なく、球体魔法陣は消滅し、腰が抜けた猫火と逆さまポーズのまま顔が緑色に近くなった連と、一人だけ別魔法で守られていたので、ただただ面白かったとはしゃぐ玉蘭がそこにいた。
間をおかず剣竜が3人の横にゆっくりと優雅に降りて来た。
周囲の惨状と、男二人の様子をまじまじと眺めて、微妙な表情を浮かべた。
「……うん。やっぱり、生きてる者を運輸する手段はもうちょっと考えた方が良さげだな!!」
「当たり前だろ!!!」
「もうちょっとどころか大幅な改善を要求しますよ!!!」
今まで大人しかった猫火まで怒り心頭だった。
「この前、抱えて運んで服汚れたからな~。
運ぶ時に触らずに済む様に、とりあえずで作った適当な運搬用術式だから、乗り心地まで考えて無かった。
だって、みんな空飛べ無いっていうからさ~!アレで飛ばすしか無いよな!!
お前らの大事な玉蘭は過保護にしてあっただろ!」
ならなんで、オレ等は保護されていないんだ…と睨めつけたが、剣竜は大爆笑しきりなので、余計に性質が悪かった。
微塵も悪びれていないのは明白だ。
さすがに爆心地状になった着地地点に留まっていては目立つので、そこから更に剣竜の指示に従って移動をし、森の中で宿営地を張る事になった。
地面に雑魚寝かと思いきや、剣竜は「雑魚寝とか絶対、厭。」と言い出し、さっさと亜空間収納から宿営地セット一式を取り出し「じゃ、頼むわ。」と言って、ふらっと森の奥に消えて行った。
幕屋など張った事がない連と、同じく経験がない猫火が必死になって張り終えた頃、剣竜が食料を携えて帰ってきた。
「……と言うかね~。魔狩から逃れたのはいいけど、これからどうするつもりなの~???」
剣竜が持ってきた食料で食事を作らんと、火を起こしている連と猫火の前にキャップがタブレットからスルリと現れ、尋ねる。
眼前の危機であった、魔狩のホテル襲撃からは逃れたが、それだけだ。
手配が外れた訳でなく、これからも襲撃の可能性は続くし、玉蘭の賜物が身体を喰い潰すであろう問題も、この先どうすれば良いのかすらわかっていない。
キャップからの問いに、連は俯いて黙った。
猫火も手を止め、何か考えている様だ。
しばしの沈黙の後、連はキュッと口元を引き締め剣竜に顔を向けた。
「なぁ……アンタ、だったらこんな時どうする?
友達として意見が欲しい。」
一人だけ椅子を出して優雅に手伝いもせずに座っていた剣竜はじっと連を見やる。
「剣竜と呼べ、剣竜と。友達だからな。
……そうだな。俺だったら人間界に行く。」
人間界?!
連と猫火が口に出さずに抱いた疑問に答えるように、剣竜が言葉を続ける。
「人間界に行こうと思うのはいくつか理由がある。
先ずは魔界の手配書の治外だ。鬱陶しい魔狩ハンターも追ってこない。というか、追ってこれない。
次に、大気の魔素濃度の問題だな。
魔素の濃度が高ければ高いほど、玉蘭の能力は飛躍的に成長するが、同時に賜物が身体を侵蝕する速度も上がる。
人間界の魔素は濃い場所でも魔界の10分の1以下だからな。
そして、移動手段の問題だ。
飛行艦が無い今、足で逃げられる距離には限界がある。ついでに言うと、発注中の新しい飛空艦は納期早めても完成が1年後だからな。
いつ何が起こる状態の玉蘭を抱えて逃げ惑うより、とっとと人間界に渡ってしまうのが最適解だろう。」
「だったら!!」
「でしたら!!」
連と猫火が声を上げたのを剣竜が手で制す。
「言っておくが、利点ばかりじゃ無いからな。
魔素が薄いって事は、魔術の行使に制限なり制約が発生する。
境界を越える際に、力の強い魔族が悪影響を及ぼさない様にする為か、篩い分けがある。
力があり過ぎれば剥ぎ切り取られる。
ハンター供が追って来れないのもそこに起因するからな。
俺も、今の力をこのまま持ってはいけれない。
魔界とは随分と常識も文化水準も技術も発達度合いが違う。
ついでに言うと、人間という種族には充分注意しろ。
あいつら、種として楽園をおん出されただけあって、いい生態してるからな?
基本的には脆弱だが、時に恩寵を与えられ、悪魔でもいとも簡単に縊り殺す個体が出現する事もある。
大概、そういう奴は魔族と見れば敵対者だと見なしてくる事が多い。」
連は強く拳を握りしめ、俯いたまま喋り始めた。
「……オレは。」
声が震えていた。
「オレは、玉蘭を守ってやりたいけど、力が足りない。
今の玉蘭に出来る事が何かもわからない……。
剣竜が最適解だと言うんだったら、困難があっても人間界に行きたい!」
「私も同じです。娘の為に人間界に行く方が良いのであれば、それが一番です!!」
連は剣竜に向き合った。
「オレ達だけじゃ力が足りないんだ。
剣竜…友達のアンタに一緒に来てもらって、助けて欲しい。」
「いいよ。」
表情を変えず、さらっと剣竜は答えた。




