第二十二話
手紙を持つ、だけど今この場で開くのはいけない。
理恵の目の前で開いて見せることにこそ裏切りの意味がある。
だから、読みたいと思うのも耐えなくてはいけない。
共に暮らしだしてから感じてきた理不尽さも虚しさも全て理恵に叩きつける形で為さなければいけない。
そこまで考えが及んで引っ掛かりを感じた。
僕はそんなに不幸だったのだろうか。
裏切らねばならぬほど理恵に不当な扱いをされただろうか。
この裏切りは正当な行為なのだろうか。
幾度となく考えたことなのに、この期に及んでまだ白い手紙も何も無かった事にしようという考えが鎌首をもたげてきたのがやや不思議に思える。
もう、止められはしないだろうし、止めたくもないというのだから。
光に透かしてみても紙が厚いのか、そういう質なのか全く中身が確認できない。
持ってみただけだと、それほど重くは無い。
厚さもそれほどないのでせいぜい紙が数枚入っているだけだろうとも思う。
改めて見てもなんてことはない。
本当にタダの紙切れにすぎないじゃないか。
もしかしたら、この紙切れ程度では僕が思う何かなんて起こりはしないのではないか。
「くだらない」
僕は手紙をテーブルの上に放り出し、12時まで何をしようかソファに寝転がって考える事にした。
ぼーっとしていれば眠くなってしまうので、寝ても少しだけと思っていたのだけれど、寝て しまえばそのようなことは関係がなくなるのをすっかり失念してしまっていた。
気づかないうちに、僕はゆるやかな眠気に負けてしまっていた。
最後に視線の中にあった時計が指していた時刻は
22時23分。
夢を見た気がする。
けれど、忘れてしまった。
楽しかった気がするがとても残念に思えて仕方が無い。
ところで、いったい今は何時だというのか。
慌てて目を覚まし、時計に視線をやると
23時52分
となっていた。
まさか、1時間以上も寝てしまうとは全く考えが及ばなかった。
自分でこれから何をするか分かっているのか。
頭の中で言葉がぐるんぐるんと回っていて気分が悪い。
少し目を閉じる。
頭はまだぐるぐるして、吐き気もこみ上げているがゆっくりと深呼吸すればやりきれないこと もない。
しばらくそうしていた。
扉が開く音が聞こえてくるまでは。
「ついにか」
溜息を一つついて、ソファから起き上がり、理恵を迎えに玄関へと向かった。