第十九話
今日もまたいつものように理恵が起こしてくれた。
情けないような嬉しいような、朝に気分が悪くなる事が減ったのはあの穏やかな声に起こしてもらえるからなのだろうか。
「おはよう。いい天気だね」
「そうですね。洗濯物が直ぐ乾いてとても良い天気です」
確かに、日差しも強く気温も高そうだ。
しかし、乾いて、ということはつまり。
「もう昼か」
それを聞いて理恵は少しだけ呆れた表情を浮かべた。
「最近、よくお休みになっているのは良い事ですが、寝すぎは良くありません」
「でも、朝は食べないといけないのかな」
「勿論です」
おにぎりが用意してあります、とにこやかに言った。
おにぎり二つを食べさせられ、その二時間後には野菜炒めを食べる事となった。
僕が量が多いね、と言うと理恵は目線だけをこちらに注いできた。
「じっと見ていて何か怖いんだけど」
「直也さんがもっと早くに起きていれば一緒に朝ごはんも食べれましたし、昼ごはんも美味しくいただけたんですよ」
言い訳は無駄だと悟り、頭だけを下げた。
「これからはちゃんと早く起きます」
「当然です」
珍しく冷ややかな声であった。
食器の後片付けを僕に頼んで、理恵は食材を買いに出かけた。
この間に僕はとてもゆっくりしてきたのだが、今日は少し違う。
今日もまた理恵を裏切る事をしなくてはならない。
僕は理恵の部屋に入ると、今度は丁寧に物色を始める。
箪笥の裏や、机の下などには無い。
ならばと、クローゼットや天上まで探ってみるが、これまた結果は同じであった。
最後に前に理恵の手紙をそこに置いた机が残る。
唯一探していないのはその引き出しの中、しかし、こんな鍵の無いひきだしの中に重要な手 紙を入れているというのだろうか。
もし、入れているのだとしたらそれは僕への信頼か、または皮肉なのか。
一段目のひきだしの中身を見て、思わず体が震え、涙が出そうになった。
ひきだしのそこには真っ白な手紙が本当に無防備に置かれていたから。