第十六話
目覚ましの音が耳元でけたたましく鳴り響いている。
最近はもっぱら自分で起きたり、時には理恵に起こしてもらったりで目覚まし時計をセットすることがなかった。
自分で起きられるという事は相当健康的な生活を送っていることに今更ながら気づく。
足の調子も決して悪くは無いので、近いうちにジョギングでもしようかとも考えているほどだ。
目を開け、頭をめぐらして文字板を見つめると、そこには6時45分とあった。
何もしなくてもいい僕の生活にとっては起きるのに早すぎる時間で、あと一時間ほど眠れる。
僕は目覚まし時計をとめることなく、再び眠ることにした。
眠るために目を閉じた僕は、薄れていく意識の中で分かった事がある。
先程起きていたときには聞こえていた鳥のさえずりが聞こえず、窓から差し込む日の光が朝のそれとは違って強い。
時計の文字板を見やると、11時23分と表示されていた。
ほんの1時間程度だったのが、どうも寝坊をしてしまったのかな。
でも、いつも起こしてくれる理恵がいないのはどういうことなのだろう。
僕があまりにも起きないので、理恵が呆れてしまったとも考えられるが、もしかすると、理恵が寝ている可能性もある。
自分でも笑ってしまうような想像をしながら僕は理恵の部屋の前に立った。
ノックを二回するも、反応が無い。
「おはよう。いないのか?」
しばらく待ってみるも返事はない。
仕方なくリビングへと向かう扉を開け、喉が渇いていることを今更ながら自覚し冷蔵庫の方へ足を向ける。
すると、一枚のメモが目に入った。
「少し出かけてきます。朝食は温め直して食べてください」
筆跡は理恵のもので間違いない。
温めなおすというのはジャーにあるご飯とコンロにかけてある味噌汁のことだろう。
理恵の食事に関する几帳面さは少し感心してしまうほどだ。
鍋を火にかけながら、ぼーっとしていると疑問が浮かんだ。
いつも二人で朝食は摂っていたのにどうして今日は何も言わずに外へ出て行ったのか。
どことなく腑に落ちない。
朝食兼昼食を摂りつつ、今日は散歩でもしようかと漠然と思っていると、もっと重要な事があることに気づく。
22時からの理恵のこととあの忌々しい桜木についてのことを知られずに調べる機会ではないのか、と。
けど、それは理恵との条件を破る事になってしまう。
夫婦なのだから、守るべきことは守らなくては理恵と一緒にいれなくなってしまう。
分かっている、守ることは必ず正しい事だ。
それでも、僕にとっては正しいだけが全てではない。
少しだけ間をおくために散歩をしながらさらに考える。
隣町との境にあるコンビにまで来たら引き返すとしよう。
もし、帰っても理恵がいなければ少しだけ部屋に入ってざっと見渡すだけ、そうする。
理恵が帰ってきていれば何も考えなくて良い。
僕は目に入ったコンビニで缶コーヒーを二本買って、今夜のために備える。
彼女が帰ってきていれば楽しく二人で飲むことも出来る。
うん、そうなればいい。
出来るだけ歩調をゆっくりする事にした。