表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白い手紙  作者: 小坂戒
13/28

第十二話

 しばらく寝ていれば済むと思い、部屋でひとしきり本を読んでいるともう夕方になっていた。

 カーテン越しに差し込んでくる夕陽がとても赤くなったせいで読書がはかどらない。

 それに腹も空いてきた頃なのでリビングに戻ることにした。

 おそらく理恵はソファでゆっくりした後、部屋に引き上げた事だろうと思う。

 今日の夕飯は僕が簡単に作る事にしよう。

 冷蔵庫の中身を思い出しながら、リビングへの扉を開ける。

 その先にはソファに未だに横たわる理恵が見えた。

 胸が上下しているのを見ると呼吸はしている。

 だけど、穏やかな呼吸には程遠いような上下運動である。

 「理恵、大丈夫かい」

 彼女の肩を撫でながら問いかける。

 「大丈夫ですよ。落ち着いたら病院にも行きますから」

 薄目を開けるのが精一杯のように苦しそうな声だ。

 「その時は付いて行くよ。今は部屋で休むといいよ」

 ええ、とだけ呟いて理恵はリビングを出て行った。

 残された僕はしばらくボーっとした後に、冷蔵庫の中身を確認する。

 魚の切り身に豚肉、ソーセージにキャベツ、ネギに味噌、何故かこんなのが目に付いた。

 他にも食材はあったはずなのだが、これだけしか見えていなかったので野菜と肉の味噌炒めを作る事にした。

 鍋の中に野菜を入れて、炒めて、そこに味噌を入れるだけというとても簡単な料理なので両 親と同居していた頃にも良く作った。

 勿論、両親が不在の時にだけど。


 久しぶりに作った味噌炒めは当たり前だけど味噌の味がした。

 つまり、まずくは無かったけど決して美味しいものでもなかったという事だ。

 口直しに何か作れるほど器用でもないので読みかけの本を持ってくることにする。

 先程は真っ赤な光に犯されていた部屋が今は青みがかった黒色で支配されていた。

 作るのにも食べるのにも手間取ってしまったせいか。

 自分の料理の才能の無さを嘆きつつ、放り出した本を拾い、窓とカーテンを閉めて部屋を出る。

 リビングに戻ると、ソファに理恵が座っていた。

 「直也さん、電気のつけっぱなしはいけませんよ」

 「あ、ごめん。でも、体調は良いのかな?」

 理恵は少し青白くなっている顔で微笑んだ。


 翌日、いつもよりも遅く起きた。

 一日三食を譲らない理恵にしては珍しい事なので、不安に眠気はじわじわと消えていき、僕は急ぎ足でまずはリビングへ入った。

 いつも食事に使うテーブルにメモ書きが一枚置かれている。

 『ご飯は炊飯器に、お味噌汁は鍋に、他に足りなければ冷蔵庫から何か食べてください。私は病院に行ってきます。直也さんはあまりに気持ち良さそうなので起こせませんでした』

 確かに起きた時の時刻は10時半だった上に、この家からそれなりに大きな病院へは直ぐとはいかない距離がある。

 昨日の約束に対する言い訳もされたことなので、怒る気も起きずに、とりあえず鍋に火をかけることにした。


 僕が作るわけでもない昼食を気にしだしたころに、鍵が挿入される音、ついで回される音、人の足音がした。

 彼女を迎えようとリビングの扉を開けると理恵は買い物袋を下げていた。

 その袋を半ば奪い取るようにしてテーブルの上に置く。

 「おかえり、病院って書いてあったけど何か言われた」

 「いえ、悪い事は何も言われませんでしたよ」

 「それは良かった。他に医者は何か?」

 「くれぐれも安静にする事だと。もう、私一人だけの身体ではありませんからね」

 え、とも言うことすら出来ずに口だけを開けて理恵を眺めていた。

 「お医者様が言うには、私は妊娠しているそうです」

 内容を理解するにはまだ程遠い状態だ。

 でも理恵の表情が楽しそうなので安心することにする。

 けれど、唖然とした表情は拭い切れなかったようで、理恵が教え諭すような声になる。

 「勿論、直也さんとの子供ですよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ