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8. 囚われの海(2)

 ユキが黒い海を泳いで行くと、波間に人の頭が見えた。


「レオ!!」


 ユキが声を掛けるが、意識がないらしい。

 慌てて傾いていたレオの頭に手をやり水面から上げると、レオが小さく息を吸った。呼吸はできているようだった。


 ユキはホッとしてレオの腕を自分の肩に回す。

 体勢を整えて後ろを振り返るとゾクリとした。


 船が思ったよりも先へ進んでいる。

 必死に足を動かすが、船には追いつく事ができない。


「…………違う。船が先へ進んでいるんじゃないわ。私たちが流されているんだ」

 

 自分の左手に浮かび上がる黒い岩場を見ると、少しずつ自分たちがそこへ流されている事がわかった。



 無理矢理船に泳ぐよりもこのまま岸に上がったほうが良い。



 ユキは足を止めて、海流に任せるように体を浮かべた。

 岩場に辿り着くとユキはまだ意識の戻らないレオを必死に引っ張り上げた。


「重……い…」

 

 ユキが何とかレオを岩の上に上げたが、海の中とは違い途端に重くなったレオに押しつぶされてしまった。

 そのままの態勢でレオの頬を叩く。

「レオ! 目を覚まして! レオ!」


 自棄やけになりベチベチとレオの頬を叩いていると、パチリとレオが目を覚ました。


「気が付いた? あー良かった」


 自分のすぐ真横にあるユキの顔を見てレオが固まる。何が起こったのかすぐには頭が処理しきれない。


「……とりあえず退いてくれる? 重いから」

 

 ユキの苦しそうな声を聞いてガバッと起き上がった。

 

 そうだ

 海に落ちたユキを助けに、船から飛び込んだんだ……

 


 頭がはっきりとして思い出すと、同時に凍えるような寒さに襲われた。

 

 レハルドの夜の冷たい海に浸かっていたのだ。体が一瞬にして芯から氷付き始めた。


「大丈夫? 寒いの?」


 ユキが心配そうにレオの顔を覗き込んだ。

 辺りを見回すと岩場の向こう側の岸壁に、暗い凹みがあるように見えた。



「あそこに行きましょう。風が避けられるわ」


 ユキがガクガクと震えるレオに手を貸して歩き始めた。

 


 岸壁の凹みは小さな洞窟だった。

 幾分風は和らいだが、それでも猛烈な冷気がレオを襲う。


「これじゃ凍えちゃうわね」


 ユキが来ていたファーのベストを絞り、パンパンと叩くとレオの上に羽織らせた。

 

 それでもレオはまだ震えている。ユキは体を温められそうなものを探して周りを見回した。

 あるのは岩と流木と大量の海水だけだった。


「困ったな」


 ふと自分の履いているパテロに手が当たると、固い物に気付いた。

 急いで手を突っ込みそれを出すと、遠藤がくれたシルバーのライターだった。



「私って持ってるわ」

 鼻を膨らませながら独り言をいうと、ユキは流木を集め始めた。




 レオが寒くて今にも意識を失いそうになりながら膝を抱えていると、突然目の前に光がともった。

 目を凝らして見ているとそれは徐々に炎を巻き上げて行く。


「レオ、火が付いたからもっと近くにおいで。凍えちゃうよ」

 ユキがレオの手を引いた。


「……今の……魔法?」

 歯をカチカチと鳴らしながらレオはユキに尋ねた。


「まあ……そんな物ね」

 ユキが笑いながら答えた。

「濡れた物脱いで。ここで乾かすから」


 ユキは大きな岩に流木を引っかけて、簡単な物干しまで作っていた。 

 

 レオが着ていた物を脱ぐとユキがそれを絞って干した。レオの肩にはまたファーのベストをかけた。水に強いのか、それはもう乾いている。


「ユキも脱いだ方がいいよ。寒いから」

 レオが声をかける。

 声の震えは落ち着き、少し寒さが治まったようだ。


「私は大丈夫。全然寒く無いもの」


「そんな訳ないだろ。見ねーから脱いだ方がいいって」


 レオがユキとは反対の方を見て座り直した。

 ユキは自分の着ている衣服を見る。

 確かにぐっしょりと濡れてはいるのだが、全く寒いとは感じなかった。ただ濡れている衣服がまとわりつくのが不快には感じた。

 

 レオが反対側を向いているので、絹の上掛けを脱ぐと、シャツとパテロを脱いで絞って干した。チューブトップで丈が太腿までの絹の下着姿になると膝に絹の上掛けをかけて、膝を抱え込んで座った。


「もういいよ」

 

 ユキの声を聞いてレオはたき火の方を向いて座り直した。


「寒いの収まった?」

 ユキは心配そうにレオに声をかけた。


「まだ少し寒い。ユキは寒くないの?」


「全然…………」

 ユキの心に少し不安が広がった。

 

 北国で生まれ育ったレオがこんなに寒がるのだから、相当気温は低いはずだ。


「多分今日あたり雪がちらついてもおかしくないな」

 レオが独り言のように呟く。


 ユキはそれに驚いた。

 やはりそんなに気温が低いのだ。

 

 自分は決して暑がりではない。どちらかと言えば寒がりで、冬にはダウンのジャケットが手放せないくらいだ。

 

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ルーセント・ムーンの獣・・・「彼方からの手紙」はルーセント・ムーンシリーズの第三弾になります。第一作「ルーセント・ムーンの獣」からご覧ください。 ドラゴン・ストーン~騎士と少女と失われた秘法~新作もよければご覧ください。
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