表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/38

5. 選択肢(1) 

 急ピッチで旅の準備が整えられていく。ユキも自室で荷造りに励んでいると、キーラが顔を出した。


「今忙しいですよね?」


「大丈夫よ。休憩しようと思っていたところだから」

 ユキがキーラを招き入れようとすると、後ろにひょっこりとレオが顔を出した。


「おっじゃまっしまーす!」

 ニコニコとレオが笑顔を浮かべる。


 ユキがそれを見てキーラのすぐ後ろで扉を閉めようとした。

 慌ててレオが手を伸ばす。


「ひでーな。俺も入れてくれよ」


「ボクがおりこうさんにできるなら考えてもいいけど?」

 ユキがそう言うとレオはちょっとムッとした顔をした。


「できますよ。おねー様!」

 

 ユキが「どうぞ」と扉を開けた。


「うおっ! すげぇ部屋」


 レオがキョロキョロと部屋を見回す。

 キーラがユキに促されて、赤いベルベッドのソファの上に腰を掛けた。


「何? お前驚かないの?」


 キーラが顔を上げてレオを見る。


「そりゃあ初めは驚いて興奮したよ」


「初めてじゃないのかよ!?」

 

 レオが声を上げる。


「うん。2回目」


「俺も誘えよな!」


「誘わないよぉ。邪魔だもん」


 ユキがキーラの言葉を聞いて笑った。


「だよね」とその発言に同意する。


 レオが不貞腐れてドカリとソファに腰を下ろした。


 サラナが三人の前にお茶とお菓子を運ぶ。



「……二人は友達なの?」

 ユキが尋ねる。


「うん、そうなの。幼馴染み。家が隣同士なんだぁ」

 キーラがほほ笑む。

「それで通訳をお願いしたの。レオのお父さんの仕事でサマルディアに行くことが多くって、レオも言葉覚えちゃったのよ。本当はお兄さんのライの方が上手なんだけど、ライ兄ちゃん忙しいしね」

 

 キーラが残念そうな顔を浮かべる。


「こいつガキのくせに兄貴の事が好きなんだよ。5つも年上なのにさ」


 キーラがレオの腕にげんこつした。


「これだから子どもは嫌なのよ!」

 キーラがプリプリとレオに怒る。


「お前は俺より2つも下だろうが!」

 レオが言い返す。


 ユキがそんな二人を見ていて笑った。


「仲いいね」


『良くないよ!!』

 二人が声を合わせて反論した。




「……ねえ。レハルドってやっぱり寒いの?」

 

 二人のにらみ合いが続くのでユキが話題を変えた。


「寒いに決まってんだろ! 北の果てだぞ? サマルディアから行ったら凍っちゃうよ」


「今の時期も?」


 季節は夏を過ぎて秋に差し掛かろうとしている。


「レハルドも一応夏はあるけど、こんなに暑くはならないし、それだって短い間なんだ。あと1ヶ月もすりゃあ雪が降り始める頃だよ」


「もう雪が?」


 ここに来て冬らしい冬も味わっていないユキだったが、季節としては一番冬が好きなのだ。


 空から舞い落ちてくる雪が、次第にユキの家の花壇にほこほこと積もり始める。

 朝目覚めるとカーディガンを羽織るよりも前に、窓辺のカーテンを開けるのだ。広がる一面の白い世界に誰よりも先に飛び込みたくなる。

 今日の電車の遅延よりも何よりも高揚感がまさってしまうのだ。




「もしかしてユキ様は、雪を見たこと無いとか?」

 キーラが尋ねる。


 このサマルディアで生まれ育った者ならそういう者も多いだろう。


「私は雪の降る国に生まれたのよ。だからもちろん雪は見た事あるよ。この『ユキ』っていう名前は『雪』から名付けられたんだ」


「そうなんだ。ユキ様にピッタリの名前だね」キーラがにっこりと笑う。

 

「ありがとう」ユキもにっこりと笑む。



「毛皮とか持ってんの?」

 レオが口を開いた。

「今から寒くなるし、毛皮必須だろ」


「毛皮? 持ってないよ。……そもそもサマルディアには売ってないんじゃないかな」


 そんなに寒いのかとユキも少々不安になる。


「それならロベリアで買わないといけないよね」


 着替えをいろいろ詰め込んでいたものの、それらが役には立たない不要なものが多いような気がしてきた。


 その時、部屋の扉がバタンと勢いよく開かれた。

「ユキ様大変です! 陛下が…皇帝陛下がお倒れになりました!!」

 部屋に入るやいなやヘレムが叫んだ。


 ユキが青くなってソファから立ち上がった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーセント・ムーンの獣・・・「彼方からの手紙」はルーセント・ムーンシリーズの第三弾になります。第一作「ルーセント・ムーンの獣」からご覧ください。 ドラゴン・ストーン~騎士と少女と失われた秘法~新作もよければご覧ください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ