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2. 花かごの少女(4)

 一行はそのまま広場にあるサン・サル教の寺院の門をくぐった。話が通っていたのか寺院の前にいた僧兵が扉を開き、中の礼拝堂へと入る。

 ダライ達は外の廊下に待機している。

 

 少年を椅子に座らせると、アルスが口を開いた。

「お前は何者だ?」

 

 外で聞いたことをもう一度繰り返す。


「……尋問かよ。キーラじゃなくて俺で良かったよ」

 少年はアルスを睨みつける。

 

 ユキが二人の間に割って入るとアルスを見た。


「私がこの子と話していたのよ。どうして邪魔をするのよ?」


「どこが『少女』だよ? 聞いてた話と違うし、何よりお前の手を掴んでいただろ」


「それは、その女の子の所に連れて行ってくれると言っていたからよ。体調を崩してるんですって」


 少年が椅子から立ち上がった。


「もういいよ。俺は別に用は無いんだ。キーラには会えなかったと言うさ」

 少年がドアに向かって歩き出す。


「ちょっと待って」

 ユキが慌てて少年の腕を掴んだ。

「私には聞きたいことがいっぱいあるのよ。えっと……」


「レオだよ」


「レオ。お願い。話を聞かせて」

 ユキが縋り付くようにレオの瞳を見つめる。


「そいつが嫌だ。すげー睨んでくんじゃん」

 レオがユキの後ろに立つアルスを睨みつける。


 ユキがアルスを振り返った。

「アルス。ここから出て行って」


 アルスがムッとしてユキを見る。

「それはできない」


「じゃあここにいて!」

 そう言うとユキはレオの腕を掴んだまま礼拝堂の扉へと向かった。


「ユキ待て。……わかった。俺が出る」


 モリとバトーにそのままユキに付き添うように指示すると、入口に向かって歩き出した。

 ピタリとレオの側で立ち止る。


「ユキに何かしたらただじゃおかないからな」

 アルスが捨て台詞のように忠告すると扉から出て行った。


 レオは近くにあった椅子にドカッと腰を下ろした。

「あんたも座れば?」


 少年が顎で示した椅子のもう一つ隣の椅子にユキは腰かけた。


「で? 何が聞きたいの?」


「……そのキーラって子は大丈夫なの? ここにもいいお医者さまがいるのよ。よかったら紹介できるから」


 ユキがまっすぐレオの顔を見て尋ねた。

 旅の途中に二度も体調を崩したことのあるユキには、その辛さが身に染みていた。


「……まずそれね?」


 レオは笑って答えた。


「何だか風邪気味なんだってさ。熱も出てないよ。夜は冷えるから用心しただけ」


「そう。ならいいけど」

 ユキがほっと息を吐いた。


「で? 他には何を聞きたいの?」

 

 ユキが息を飲む。


「あなた達は誰? どこから来たの? その……手紙のお医者様も一緒なの?」


 レオはニッと笑う。


「俺とキーラは最果ての町から来たんだ。あ、あと一人キーラのじーちゃんも一緒にね。医者はここにはいない。なぜなら最果ての町にいるから」


 自分の住む町を皮肉るように『最果て』とレオは言い放った。


「最果ての町……?」


 ダマクスのお妃教育にも出てこなかった地名だ。

 サマルディアでは無いということだろう。

 あの便箋の文字の様にロベリアなのだろうか?


「ロベリア北東部のチェルキー半島にある町さ。最果ての町レハルドだよ」


 ロベリアの北東部に位置するそのレハルドは町というよりも、大きくその地域を示すのだそうだ。

 ロベリア国には属せず、独立した自治区だという事だ。


「そのお医者様は? 名前を言っていた?」

 

 名刺には『遠藤泰昌』とある。

 彼がこの子の言う医者なのだろうか? 

 だとすれば、やはりユキと同じ日本人だ。ユキ以外にこの世界を訪れた者だという事だ。


「残念。俺は直接その医者と話しちゃいないんだ。名前も知らない……てか誰も知らないんじゃねー? キーラは話ができないと言ってたしな」

 

「話ができない?」

 

 言葉が通じないからなのだろうか?

 それでも身振り手振りで名前ぐらいなら通じる気がするのだけれど。


「じゃあ、……私と顔は似ている?」


 ユキがジッとレオを見つめた。

 同じ日本人なら特徴的には似ているはずだ。


 ジッとレオもユキを見た。


「……全然似てねー」


 ガックリと肩を落とした。

 ユキは便箋を手に持ち仕切り直す。


「それならこの二枚目の古代文字は何なの?」

 

 レオがユキの持つ便箋に目を落とす。


「さあね。それは俺の町の名物品だよ。ちょっとした観光地にあんだよ。変な石がさ。それを写したものなんじゃないの? ……よくわかんね」


 ユキはこれにもガックリとする。


 結局この少年は何もしらないのだ。キーラというあの少女に直接会って話を聞くしかないようだ。

 

 ユキが顔を上げる。


「キーラに会いたいわ。でも今日はもう遅いし、明日もまだこの町にいる? 私がまた会いにくるから」


 少年が顔をしかめる。

「こっちはロベリアの更に北の果てからわざわざ来たんだぞ。宿賃だってバカにならないしな」


「……わかった。ちょっと待っていて。宮殿に宿を移せるか聞いてくる。その方が手っ取り早いしね」


 そう言うとユキは礼拝堂の外で待つ、アルスに話を着けに行った。


 

 しばらく待っていると礼拝堂の中にアルスとユキの二人が揃って入って来た。

 仏頂面でアルスが切り出す。

「馬車を手配させるからどこの宿か言え」


 レオが「ヒョウ」と口笛を吹いてニンマリと笑った。

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ルーセント・ムーンの獣・・・「彼方からの手紙」はルーセント・ムーンシリーズの第三弾になります。第一作「ルーセント・ムーンの獣」からご覧ください。 ドラゴン・ストーン~騎士と少女と失われた秘法~新作もよければご覧ください。
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