第5話 ガチャと2人の少女
フェアリンたちからこの世界のことや、元の世界との繋がりをあらかた聞いた俺は、妖精の里をぶらぶらと探索してた。
そこには妖精の女の子たちが平和な日常生活を送っている。
「これからここで生活していくのか…」
不思議と心は落ち着いている。
自分の想像を超えた出来事が連続で起きたことにより、キャパシティはとっくに超えすぎたためか、俺は達観していた。
「…よ!いーよ! こっちに目線頂戴!!」
離れから大きな声が聞こえてくる。
「今の声…なんだ?」
声のする方向へ向かうとそこには、メイドのコスプレした美少女とカメラ撮影をしているうさ耳の女の子がいた。
「いーよ! 次のガチャの目玉は君だー!」
うさ耳の女の子が、メイドに大きな声をかけている。
これはグラビア撮影か、何かか?
「ちょっといいか?」
気になった俺はうさ耳のカメラマンに声をかけた。
「ん…?」
ノリノリだった撮影を邪魔されたためか、鋭い目つきを俺に向ける。
「うわっ!? あ、あんたが噂のマスターさんね!」
フェアリンに最初にあったときもだったが、この世界だと俺は『マスター』と呼ばれているらしい。
ふと、元のゲーム内でも主人公のことをそういう名前で読んでいたな、ということを思い出した。
「そう…らしいな。ちょっと質問していいか?」
「何かしら?」
「これ、何の撮影なんだ?」
俺の質問に、きょとんとした顔を浮かべるうさ耳のカメラマン。
「何って…サモンメモリーの撮影だけど。」
「さ、さもんめもりー?」
聞いたことのない単語に思わず聞き返してしまった。
困惑している俺の姿をみて察したのか、一連の掛け合いを見ていたメイド服の少女が口を開く。
「あ、あの…もしかしてマスターさん、召喚システムのこと…知らないんじゃ…」
「……! なるほどね! そういうことか!」
うさ耳のカメラマンも事態を理解したらしい。
だが、俺はこの状況がさっぱり理解できていなかった。
「えっとね、これは…いわゆるガチャに入れるカードの写真よ!」
「撮影した写真を…機械に差し込むと、自動的に…ガチャから召喚されるように…なっているんです。」
メイド服の少女はモジモジしながら、優しく教えてくれた。
どうやらこのゲームで手に入るキャラは、うさ耳のカメラマンが撮った写真を特殊な機械に読み込ませることでカード化されるらしい。
元の世界のゲーム内だとキャラ同士で戦っていると思ったが、実のところは違っていた。
撮った写真にパラメーターを設定し、特殊な具現化装置でキャラを立体化、それでユーザー同士が争っているという仕組みだそうだ。
「――…っていうこと! 理解できた?」
「う〜ん、なんとなく分かったような…分からなかったような。」
「まぁ、近いうちにガチャを更新するってフェアリンちゃんが言ってたし、そんときにマスターさんに見せてあげるね。」
にっこりと笑顔を俺に向けるうさ耳のカメラマンの少女。
その笑顔は今まで見たことないような純粋な輝きに満ち溢れていた。
「マスタ〜〜〜! こんなところにいたのです〜!」
遠くからフェアリンの声が聞こえてきた。
「もう…勝手にどこかに行くのは危険なのです!」
「ごめんごめん、暇だしこのあたりの様子が気になって。」
「新しいマスターさん、いい感じじゃん! フェアリン見る目ある〜♪」
「なのです!」
ドヤ顔をするフェアリン。
こいつに見る目があるかは甚だ疑問ではある。
「グレムリンは撮影順調なのです?」
フェアリンはうさ耳少女に問いかける。
そうか、このカメラマンはグレムリンっていうのか。
「もちろん! ゾンビちゃんのメイド服ばっちりよ! 絶対売れるわ〜!」
フェアリンに負けないくらいのドヤ顔を見せるグレムリン。
その奥で、ゾンビと呼ばれる小さく可愛いメイドの少女は、照れて赤面していた。
「グレムリンにゾンビ…か。」
「何? 私たちのこと気になるの?」
「まあな…。なぁ、この世界にはどんな奴らが住んでいるんだ?」
「ゲームと同じよ。全員、神話とか昔話とか何かしらのモチーフがあるわ。」
「それじゃあ色んな国の神様もいるってことか?」
「もちろんなのです。ちょっと前はゼウスがここで撮影したのです。」
ゼウスといえば、ギリシャ神話で全知全能の最高神。
その言葉に、俺のテンションは上がる。
「一回会ってみたいな…」
興奮からつい、ぼそっと呟く。
「それは…やめといた方が…いいです。」
か細い声でゾンビが話す。
「ゾンビの言うとおりなのです。ゼウスは浮気性だからマスターに危険が及びかねないのです。」
「ゼウスが浮気性なのは知ってるけど、なんで危険なんだ?」
「もれなくヘーラーがついてきて暴れるのよ。」
呆れ顔でグレムリンは語る。
ヘーラーといえば、幾人もいるゼウスの嫁の一人である。
「この間も他の女の子をゼウスが口説いててね、それを見ちゃったヘーラーが大暴れしたの。」
「暴走を止めるのが大変だったのです。」
そう言いながらフェアリンが指差す方向には、幹廻りが数十メートルはあろうかという大木に大穴が空いていた。
「は…はは、けっこう野蛮なキャラもいるんだな。」
乾いた笑いが漏れる。
「マスターは救世主なのは間違いないのです。でも、元はただの人間なのです。幻獣や魔族、神族の攻撃を受けたら一撃で死んじゃうのです。」
「身も蓋もない事をいうなよ…ビビるだろ。」
「そうは言っても、君には救世主らしい働きをしてもらう必要がある。」
いつから話を聞いていたのか知らないが、スレアエーが会話に入り込んできた。
「これからこの里にある運営に必要な装置を紹介するからついてきてくれ。」
「…ああ、そうだな。」
「ふふっ、そんなに構えなくても大丈夫だ。私達がそばにいる限り君を守ってみせる。」
「それはどうも。」
誰かに自分の命の行方を委ねるのは気が引けるが、今の俺にはそれしか選択肢がなかった。




