第4話 異世界から始めるソシャゲ運営生活
妖精の里へとやってきた俺は、フェアリンの部屋という場所に案内された。
「マスター、ドリンクどうぞなのです。」
フェアリンから出された緑茶の様な緑の液体。
果たしてこれは飲んで大丈夫なものなのか…?
懐疑心を抱きながら対面に座るフェアリンを見た。
すると彼女はつぶらな少女の瞳を輝かせて、俺のことをまじまじと見つめている。
さすがに手をつけないのは気まずいと思った俺は意を決して緑の液体を飲んでみた。
「あ、あれ…うまい。」
濃い緑茶を想像していたが、実際はフルーツ牛乳のような甘さと飲みごたえで俺好みの飲料であった。
一気に飲み干す。
幻魔界へきたことへの緊張とフェアリンたちに大声を出しながら会話していたせいで俺の喉はカラカラだった。
「気に入ってもらえた様で嬉しいのです!」
喉の渇きを潤した俺は少し付くこの世界へきた現実を受け止めつつあった。
人の順応というのは思ったよりも早いらしい。
「…で、さっき話そびれたけど俺が救世主ってのは本当なのか?」
「なのです! マスターは救世主なのです!」
力強い口調でフェアリンは答える。
「でも、俺ただの大学生だぞ? 聖人でもなければ、特殊能力があるわけでも−−」
「それでもマスターは幻魔界の救世主に選ばれたことは間違いないのです! 選ばれなかったらここにはこれてないのです!」
「それはそうかもしれないけど…これから俺は何をすればいいんだ?」
「マスターにはこれからこの世界…このゲームを運営してもらいたいのです!」
「は…? ちょ、ちょっと待ってくれ。俺がゲームの運営?」
「なのです!」
「いや、なのですって…俺はゲーム会社でデバッグのバイトはしてたけど運営なんてやったことないぞ?」
「大丈夫なのです! きっとマスターには運営の素質があるはずなのです。」
フェアリンはキラキラと目を輝かせて語る。
あまりにも真っ直ぐな目をしているので、本当に俺には運営の素質があるんじゃないかとすら思えてきた。
「ソシャゲの運営ねぇ…。でも、あれ…? そもそもこのゲームってお前たちが運営やってたのか? ゲーム会社は現実世界でもあったはずだぞ?」
俺が命を絶とうとしたきっかけになるゲームも、同じ会社がやっていたから俺は知っていた。
好きすぎて応募もしてないバイトの連絡を送り、丁寧なお祈りの書類をもらったことを昨日のことのように覚えている。
「そのことは私に説明させて。」
スレアエーが俺とフェアリンの会話に入ってきた。
「私たちは本来はあなたがいた世界へやってきて運営をしてたの。この世界の消失を防ぐにはゲームとして配信するのが一番だって思ってね。」
「それにあっちの世界には敵がいないのです!」
「敵?」
「そう、この世界を滅ぼそうとする敵勢力よ。あなたがやってたゲームもその敵のせいで運営が止まってしまったの。」
「それってどういうことです?」
言ってることが理解できず、スレアエーに問う。
「ある日ね…突然、運営メンバーが消されたの。」
「消された? そんな…バカな!?」
思わず立ち上がった。
それでもスレアエーは冷静に状況を語る。
「私たちだって信じられなかった。けど、現実なの、」
「消されたってことは、殺されたってことですか?」
「意味合い的には似てるわね。あの世界での実体が消えて、今もどこか別世界に精神と魂が幽閉されてると思うわ。」
「そんなこと一体、どこの誰が…」
「サタン、あなたも一度は聞いたことがあるでしょ?」
「サタンって悪魔の王…ですよね。」
「そう、魔王サタン…人の憎悪から生まれた化け物。そんな奴に私たちは狙われたの。」
思った以上に深刻な話に、せっかく一度は落ち着いた心が再び動揺していた。
「運営が消された翌日、次は私たちに危険が迫ると思ってすぐにこっちの世界に戻ったわ。それで、残されたメンバーで運営を始めたんだけど…」
「運営素人しか残ってなくて大変なのです!」
「それで、俺がここに呼ばれたってことか…」
「そういうこと。思ったより理解が早くて助かるわ。」
「へへ、どぉーも。」
俺はこの現状を飲み込むために、普段の数倍頭を働かせた。
さっきの甘いドリンクじゃ糖分が足りないくらいに。
「これからあなたには運営リーダーとして指揮を取ってほしいの。救世主…いえ、この世界のマスターとして。」
「……断ったらどうなる?」
「運営が続かなければサーバーのお金が払えなくてサービス終了ね。そうなったらこの世界は消えてしまうわ。」
「そんなことになったらフェアリンも、マスターも消えて死んでしまうのです!」
「死…死ぬっ!?」
「このまま何もしなければ、ね。でもうまくいけば世界は続くし、サタンも見つかるかもしれない。」
「見つけてどうするつもりだ?」
「こっちの世界ならサタンとだって戦えると思うわ。そしたら幽閉されてる魂だって解放できるかもしれないでしょ?」
「そうなったらマスターのやってたゲームも、復活できるかもしれないのです!」
「どう? 悪い話じゃないでしょ? 一緒に運営して世界を守ってくれないかしら?」
「なのです!」
スレアエーの提案に対して俺が悩む時間は0に等しかった。
元の世界に戻れない以上、俺の答えは一つだ。
「こんな世界知ったら、死にたくても死にきれない。一緒に運営やってゲームを取り戻そうぜ!」
こうして、俺の異世界から始めるソシャゲ運営生活の幕が開くのであった。




