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超テンプレ異世界ファンタジー 作者:はやを
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一話 落下と戦闘

「ここはどこだぁぁぁぁぁぁ!?」

 光が晴れると、俺は落ちていた。身の毛もよだつ風切り音。いつになく距離が近い雲の姿が急速に遠ざかって行き、背中から嫌な汗が噴き出してくる。
 とにかく現状把握だ。必死に身をよじって姿勢を変え、自分がどこに落ちているのかを見極めようと図る。が、落下速度が高すぎたせいか手間取ったせいか、目が捉えたものは一面のグリーンだった。助けてくれる者など皆無だと告げる、森の色だ。

「たぁぁぁすぅぅぅけぇぇぇてぇぇぇ!」

 応える者はない。重力という原則に従い、哀れな異邦人が一人、地の底へ虫けらが如く無様に誘われていく。樹々の葉をかき分けた次の瞬間、俺は下界に激突していた。

「…………あれ?」

 まだ生きてる。痛みもない感覚に戸惑って数秒、閉じていた目を恐々と開けてみると、湿った土が視界いっぱいに映った。半信半疑のまま立ち上がり、周囲を見渡す。背の高い樹々が生い茂る風景が俺を見返し、冒険の旅が終了していないことを暗に伝えてきた。
 色々とふざけた現象だった。無傷で生存というだけでも目を剥く話なのに、ぶつかった地面さえなにかしらの異常を訴えもしない。そう言えば、あんな速度で落ちてて真面に口が動いたのも、冷静に考えれば無茶苦茶だ。空気抵抗だの風速冷却だの理科の法則を完全に無視できるとは思えない。まったく、物理もなにもあったもんじゃない馬鹿話だ。これでは完全にテンプレ異世界ファンタジーのご都合主義そのものである。

「……どうなってんだ、これ」

 土を握ったはずの手をまじまじと見つめ、まったく汚れていないことに驚愕する。と、またなにか上から落ちてくる気配がすることに気がついた。空を仰ぐ間もなくそのなにかは地面に叩きつけられ、俺の数メートル先で姿を明らかにする。
 刀だ。反らせた刀身を鞘に収めた日本刀。俺が得意武器に選択した武器が、垂直方向で綺麗に地面へと突き刺さっている。なにかのゲームで似たような光景があったな。確か、勇者が伝説の剣を抜くシーンだったっけ。

「別に、落っことさなくてもいいだろうに。壊れたらどうしてくれるんだか」

 乱暴な扱いに愚痴を入れる。とはいっても心配はご無用のようだ。俺と同じくなにかの補正がかけられていたのか、見たところ刀に傷はない。その証拠に鞘を掴んで引き抜いてみたが土は一切付着していなかった。一応、それくらいは対策してるってことか。
 が、流石に無敵モードも終わりのようだ。また突然体と刀が光り出し、そして一瞬の内に四散し消える。同時に全身がなんだか軽くなった感じがした。タイミング的に神の補正がなくなったんだろうか。試しにしゃがんで土に人差し指を付けてみる。今度はしっかり湿った感覚がして、異世界の土壌の色が肌を歓迎した。

「……これからどうすりゃいいんだ?」

 はたと自分が無目的なことに気がついた。大抵はなんやかんや原住民と遭遇し、なんやなんや傭兵だったりギルド員だったりになるのがパターンだが、そういうイベントフラグが建築される様子もない。というか、普通にやばい状況ではなかろうか。食料だの水だのサバイバルの必需品は持ち合わせていない。魔法とやらでどうにかなるかもしれないが、今の俺にはその発動方法さえピンとこないのだから役立たずだ。取り敢えずコート着てるのは不幸中の幸いだろうか。

「ま、いいや。なんとかなるべ」

 俺は深く考えない性格だった。取り敢えずどこかを目指して歩くことにする。そういやこの刀どうやって持ち歩こう? とか思っていると、いつの間にか腰回りにソードベルトがくっ付いていた。相変わらず都合がいいなと呆れつつ、俺は黒塗りの鞘をしっかりそこに収め、意外と当たる直感頼りに歩き出す。

◇◇◇

 川を下れ。
 人間が生きる上で、水の確保は最優先事項といえる命題だ。それは単に喉を潤すだけの存在ではない。水がなければ農業が営めずに食料を安定生産できないし、体を洗ったりと衛生環境を清潔に保つこともできない。前世の古代文明が川沿いで誕生したように、水は人と密接な共生関係を持っているのだ。
 そういうわけで、川沿いに進めば人と会う可能性は十分ある。湿り気の増す方向へ歩くこと十数分、穏やかな流れの川を見つけた俺は、にわか知識に従って下流に沿い始めた。森といってもここら辺はジャングルレベルの鬱蒼さはなく、自然を舐めているような服装でも大した支障はない。時折ぬかるみに足を取られかけるが、それで文句を言うのは贅沢だろう。

「やれやれ。無駄にリアル志向なことで」

 ぼやきながら歩を進める。太陽電池内蔵の腕時計が更に数十分を知らせた頃、急に視界が開けた。明らかに整備されたらしい道に、一定のスペースで区切られた土地。人の匂いを感じさせる空間が姿を見せる。どうやら、勘が当たってくれたようだ。

「……なんだ、これ」

 しかし、素直には喜べなかった。意想外の事態に戸惑いつつ、観察の目を向ける。畑と思しき区画は、雑草が満面に生い茂り、土があちこちほじくり返されておうとつができるなど、無残極まる状態だった。真っ当な農家なら、例え休作中でもこんな馬鹿はしないに決まってる。耕作放棄地と見るのが自然かもしれないが、人の繋がりが狭いであろう森の社会において、他所様の土地を荒らす不届き者がいるとは考えづらかった。

「…………」

 嫌な予感がする。鞘に左手をかけつつ、俺は行く当てのない身を慎重に集落らしい方向へ進ませた。
 しばらくして、村の広場らしい場所に辿り着く。予想通りといえば予想通りな光景が、そこには広がっていた。小規模な住宅群に、祭事で使用するのであろうシンボル的な背の低い塔。それら生活の営みの全てがボロボロに破壊され、終末さながらの絵を描き出していた。
 そこで、俺はある臭いが充満しているのに気づく。思えばあの畑からまとわりついて、ここに近づくほど増長した、野生の味としか言いようのない空気。多分、動物の臭いだ。それも血の気の多い獣の臭い。

「……逃げよう」

 絶対ロクでもない。もはや確信へ昇華した推測に、俺は踵を返すことを決めた。面倒といえばそうだが、命には変えられない。迂回してまた別の村が現れることに期待しよう。そう考えて、俺は背後を振り向く。
 ──が、とうに手遅れのようだった。俺はそこでようやく、気配もなしに何かが後ろで立ちふさがっていることを知覚した。

「っ……!」

 一瞬、人間と勘違いした。二本足で立ち、顔や腕といったパーツも人のそれと同じで、挙げ句の果てに服まで着ている。仕草がふらふらなことに目を瞑れば、ただのワイルドな住人にしか見えない。
 だが、その印象は見せかけだった。着衣は見るも無残に荒れており、そこから窺える肌は野性味溢れる体毛で埋め尽くされている。鋭利すぎる爪といい、どう考えても文明社会を築く人間には思えない。これではまるで、フィクションに描かれる魔物そのものだ。
 何より異常なのは、その目だ。赤に黒みを混ぜた、美しさより畏怖を漂わせる目。俺を眺める双眸が、暗に人ならざる者の存在感を押し付けてくる。

「あんた誰だ?」

 問いながら刀の柄を握る。当然ながら答えはなく、人を真似た獣は感情の知れない目を向けてくる。気づけば、獣はこの一匹のみで終わっていなかった。屋根の崩れた家から、続々と新手が現れている。数は大体十程度。そうして俺は、群れに囲まれる獲物と化していた。

「……畜生め」

 鯉口を切りながら理不尽に毒づく。同時に獣が叫び、一斉に襲いかかってきた。
 前から一匹、後ろから一匹。タイミングをずらして同士討ちを避ける戦術に従い、獣が俺を仕留めんと腕を突き出してくる。見るとその腕は淡い輝きを放っていた。魔力を体にまとわせるといったところか。取り敢えず、あれに当たって良いことはないだろう。
 横に飛んでも敵がいる。俺は真っ直ぐ前へ駆け、敵の間合いに入った瞬間思い切り身を屈めた。敵が腕の軌道修正をする暇はない。俺はそのまま抜刀し、伸ばされた腕の側面を打つ。放たれた漆黒の刀身は、獣の腕という接触点を確保し、俺の体を動かす支点の役割を担った。俺は流れに身を任せ、回るように敵との位置を交換する。
 獲物を見失った捕食者が、つんのめるようにして停止する。俺は即座に身を翻し、その無防備な背中を蹴り飛ばした。吹っ飛ぶとは行かずとも、重心を乱されよろめいた敵が、味方の攻撃線上に割り込む。結果、獣は俺を狩るはずの一撃に腹を貫かれていた。

「ふっ──!」

 息を吐いて調子を整える。初めて人間大の生命を討ったが、哲学に打ち込む暇はない。死んだ仲間の仇を取らんとばかりに、左右にいた敵が突っ込んでくる。右のやつが早い。俺はとにかく一対一に持ち込むべく、片方の敵へ向かい走った。
 振り下ろされる腕をステップで回避。即座に敵が左腕で凪いでくるが、水平の攻撃線と読んでしゃがむ。俺はそのまま手をついて、バランスを崩そうと足払いをしかけた。死角になりがちな下からの一撃に、獣はなす術もなく倒れこむ。予想だにしない抵抗に、その目が慄きに震えた刹那、黒刀の切っ先が腑を突き刺していた。
 断末魔の叫び。触発された片割れが絶叫を響かせ突進する。二度も低姿勢からの反撃をしたばかりだ、恐らく相手も警戒している。なので、俺は刀を引き抜くと同時に踏み込むことなく切り上げの動作をした。

「そら、よっ、と!」

 咄嗟にブレーキをかけた敵へ、手首を返し刀を振り下ろす。弾かれたが構わずまたもや一閃。今度は逆の手で受けられるが、無理な姿勢で防御した敵の体は、もはや次の攻撃に対応する余力を残していなかった。俺は青の輝きに染まっていない部分を狙い、本命たる刺突を放つ。あらゆる備えをすり抜けたそれは、確実な手応えを寄越してきた。

「……もう勘弁してくれない?」

 ズルリと地に倒れ伏す骸を背に、未だ俺を囲む群れへ頼んでみる。もちろんまだ戦力を残した軍勢が引くわけもない。ただ、流石に苦もなく三匹を仕留めた相手に脅威を感じたのか、先程までの勢いは見られなかった。
 と、そんな同胞の姿をたしなめるように、一匹が前へ出てくる。どうやらこいつらの中でもボスクラスらしい。服に加えて、俺には分からないが意味ありげな石の装飾品を腕に巻いている。
 そして何よりも目立つのが、その手に握る武器だった。元は村民が工事に使っていたのであろう、スコップだ。前世では古い戦争で銃よりも人を殺したと言われる、手軽で便利な殺人兵器だ。

「マジかよ」

 意外な物の登場に感想が漏れる。ボス格はそんな仕草に目もくれず、気合いと共に飛びかかってきた。
 明らかに速さが違う。雑魚のそれとは比較にならない俊敏さで間を詰めた敵が、殺気のこもったスコップを払ってくる。俺は後退りで避けてから返しの一撃を見舞おうとした。が、お見通しと言わんばかりに追加の蹴りが襲いかかる。やむなく横へ飛ぶが、それで敵の連撃が止まることはない。払いや突きに、体を組み合わせた武術。およそ獣とは思えぬ技術に、武器同士の戦いに不慣れな俺は防戦を強いられた。
 嫌な流れだ。迫る鉄塊を逸らしながら舌を巻く。転生前に授かった補正がどんな物かは知らないが、副作用なしで延々と効力が続くとは思えない。これで良い気になった雑魚が参戦するのも面倒だ。何か機制を制する特別な一撃を撃たねばなるまい。例えば、真面な戦闘では見られない、アニメチックの大胆な動きとか。
 敵が思い切り踏み込んでくる。決着がつくような攻撃の予兆。それは即ち危険の合図であり、またとない機会ともいえる。俺は間髪入れず此方からも接近し、懐へ飛び込んだ。

「せい──っ!」

 腕も振れない至近距離。だが、刀の価値は刃のみにあるのではない。刻一刻とスコップの溜めが終わる中、俺は柄頭で肝臓の辺りを殴りつけた。
 ごふ、という肺から空気が抜ける音。それに合わせて敵の動きが止まる。俺は更に左の拳を同じ場所へ叩き込んだ。急所らしい箇所への被害に、今度はスコップを手放す相手。ダメ押しで俺の足が腹の真ん中を捉えると、やられるがままに後方へよろめく。短い呻きが発された次の瞬間、裂帛の気合いとともに放たれた黒刀が、その身を斜め一文字に斬り裂いていた。
 無音の絶叫。赤い眼が空を仰ぎ、命の灯火の潰えた体が地面へ誘われる。頭目が敗北を喫した。その事実は、残された群れを烏合の集へ変換する役割を果たした。何事かを喚きながら宙を舞い、人の形をした野獣がどこかへ消えていく。しばらくすると、人っ子一人いない廃村の寂しさだけが、身寄りのない俺の周りに漂った。

「ふぅ、疲れたぜ……」

 腹の奥底から、疲労の混じった息を吐く。まったくハードなイベントだ。俺が十八歳の子供であるのを忘れてるんだろうか? もう会えない神様を呪いながら、俺はやたら豪奢な装いの黒刀を鞘に納めた。
 と、いきなり壮絶な重圧が全身にかかる。

「っ、ぁ────?」

 視界が暗くなる。補正の反動か。反射的に推理するも、物を考えられたのはそこまでが限界だった。膝から力が抜け、重力への抵抗がなくなると、俺は血で汚れた地面に倒れて気絶した。

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