世界を救う勇者として異世界召喚されたけど色々常識が違いすぎて一刻も早く元の世界に帰りたい
俺は高校三年の山田太郎。
特に頭も顔も良くも悪くもないいわゆる”その他大勢”で一括りにされそうな男子高校生だ。
その俺が家に帰ろうとした時、突如足元に魔法陣っぽい文様が浮かび上がったかと思ったら、それはその中に引きずり込まれた。
「なんだこりゃー」
暗い穴の中をどこまでもどこまでも落ちていく中で意識を失った俺が目を覚ました時、そこは薄暗い石造りの部屋の中であった。
「おお!成功だ!」
「我らの救い主!」
よくわからんがよくあるラノベのように突然俺はよくわからない異世界っぽい所に呼び出されたらしい。
そして周りにいる人間は……よくあるような金髪碧眼の北欧系の西洋人でも赤毛のラテン人でもなく、浅黒い東南アジア方面の民族っぽい顔立ちだったしかも何故か女性ばかり。
「お願いです、勇者様、この国をどうかすくってください」
その中でもひときわスタイルが良く美人な女性が進み出てきていった。
「え、あ、一体何のこと?」
その女性は俺に頭を下げて言う。
「私はこの地下世界の女王です。
そしてあなたは私達の祈りによって
蜘蛛女神が使わしてくださった勇者様です」
いや全く意味がわからないんだけど?
「いや、俺勇者どころか喧嘩一つしたこと無いんだけど……
っていうか蜘蛛女神ってなに」
女性はほほえみながら言う。
けど目は笑ってない文句があるなら頭からとって食うという目だ。
「大丈夫です、蜘蛛女神の力は偉大です。
蜘蛛女神はこの星と歌と音と我々生物を
創り出した女神様です。
私達を滅亡から守るため地上から
導いてくださった方でもあります」
ますます意味がわからない。
よくわからないがここは地下の世界らしい。
地球空洞説か。
「ならなんでわざわざ俺なんかを呼び出す必要が?
蜘蛛女神は現地にいる君たちに
力を与えてくれないのかな?」
彼女はそっと目を伏せていった。
「私達”蟻人間”には”ご馳走”による体の変化ができないのです」
なんだかよくわからないが俺に与えられた能力らしいものが頭のなかに浮かぶ。
蜘蛛女神の加護
食えば食うほど強くなる:神の忠実な僕により飼育された昆虫を食べることでその力を得る。
そう言えば何かのゲームで蜘蛛女神の名前は出てたな、確かインディアンかなんかの創造神だったかな?
……そしてなんかすげー嫌な予感がするんだが。
「まずは勇者様を歓待させていただきますので食堂へどうぞ」
逃げ出したくても出入り口は一つしか無く、おそらく”蟻人間”である彼女たちの方が、ろくに体を鍛えているわけでもなく帰宅部でゲームばかりしてる俺より現状は力が強いんだろうし、たぶん抵抗しても無駄なんだろうな。
俺は観念してトボトボと女王の後についていく。
そして、大きなテーブルの上に山盛りにされていたのは越前ガニくらいの大きさのある蜘蛛を揚げたものだった。
「まずは、蜘蛛女神自らが形を
真似て私達に食べよと言ってくださり
美味と評判の蜘蛛をどうぞ。
きっと蜘蛛女神の加護を得られることでしょう」
俺は女王に聞いた。
「えっと、これ……残さず食べないとだめなのかい?」
女王はやはりほほえみながら言う。
けど目は笑ってない文句を言わないで私に食われたくなければ食えという目だ。
「はい、もちろんすべて残さずお召し上がりください。
なんでしたらおかわりも用意しますが」
どうやら選択肢はないらしい。
「分かりました……」
皿いっぱいに乗っかったタランチュラの唐揚げが最高級のご馳走とか蜘蛛女神様、勘弁してください。
俺が躊躇していると周りからのとっとと食えという視線のプレッシャーがどんどん強くなっていく。
「ええい、食っても死にはしないよな」
俺は蜘蛛にがぶりとかぶりついた。
「ん、意外と美味いぞ」
蜘蛛の体のは蟹の甲羅を唐揚げにしたような味で、中身はカニ味噌のような味だ。
そう言えば蜘蛛と蟹は三葉虫から枝分かれしているが構造や構成物質はかなり近いとか言う話だな。
だから昆虫を揚げて食うと海老のような味になるらしい。
「ではどんどんお召し上がりください」
「あ、ああ、いただくよ」
美味いとなれば育ち盛りの高校生の俺にとっては大した量ではなくって全て食べきってしまった。
そして食べきったところで俺の体に変化が起こる。
ミシミシと背中から脚?手?が左右2本ずつ4本もでてきたのだ。
しかも俺の意思で自由自在に動かせるし、その先には軽い粘性が有るっぽい。
「な、なんじゃこりゃ」
そして口に中に何やら粘っこいものがでてきたのでつい吐き出してしまったがそれは粘性のある糸だったし、頭の左右にも目ができて視界の幅と色が大きく変わった。
見える色の認識が人間とは違うものになったみたいだ。
具体的には赤外線や紫外線も見えるようになったらしい。
「俺は蜘蛛男になっちまった?!」
女王はニコニコしていた
「今度は無事成功しましたね」
今度張って前にも呼ばれて失敗したやつがいるっぽい言い方だな。
そして全身タイツじゃないからマーベルには訴えられないと思うが、火星の開拓者の方に訴えられそうなんだが……。
ちなみに超絶スピードで壁や天井でも構わずに走れるようになったし、作った糸を投げ縄のようにして何かに引っ掛けてターザンや蜘蛛男のように移動することもできるようになった。
それから毎日いろんな昆虫を俺は食った……というか食わされた。
揚げたセミはナッツみたいな味で、茹でたススメバチの幼虫はトロみたいな味、高温で揚げたサソリやトノサマバッタは海老みたいな味だ。
昆虫というのは意外と美味いのはびっくりだ。
しかも養殖して増やすのが簡単らしい。
その他にもタガメ、ゲンゴロウ、カマキリ、イナゴ、アメンボ、トンボなど毎日毎日違う昆虫のオンパレードだった。
ちなみに色々食ったからと言って全部の姿が入り混じっているわけではなく、ススメバチになりたいと思えば新たに生えてきた手足が羽になりなんとなくスズメバチっぽい感じになるし、ゲンゴロウになりたいと思えば水中行動に適した身体構造になってなんとなくゲンゴロウっぽい形になれる感じだ。
この世界には魔法はない、剣などの武器はあるが蒸し暑いので鎧はないに等しい。
中世ぐらいの東南アジアとか中米辺りっぽい感じか。
そして俺はこの世界にどこからか入り込んできて、辺境で蟻人間達を殺し回っていた主に銃で武装した侵入者の人間たちを勇者として殺して回っていった、そいつらと俺には大きな速度差、視界差があり、なおかつ形態によっては飛行可能だったり水中行動可能だったりする俺には銃など当たらずそいつらをすべて倒すのは簡単だった。
まあ、奴らの正体はよくわからんけど生き残りはもういないと思いたい。
死体は放置して腐っても困るので埋めてやった。
うん、よく考えたら蟻って昆虫の中では単体ではそんなに強い方ではないのかもな。
社会性は強いと思うけど。
そして俺は蟻人間の女王に礼を言われていた。
「ありがとうございます。
やはりあなたは勇者でした。
どうかこれからもここにとどまって
いただけますでしょうか」
俺は申し訳ないがもう一刻も帰りたい。
そして米を腹いっぱい食べたかった。
「とりあえず危機は去ったみたいだし、
もう俺は元の世界に戻って大丈夫かな?
後、元の姿に戻してもらいたいんだけど」
女王はニコっと笑っていった。
「はい、人間を食べれば元の姿に戻れますよ」
「……人間を?」
俺は新しい人間がこの世界に現れない限り元の姿には戻れないようだ。
そして彼女たちが人間の姿をしているということは……。
「まじか」
この世界は色々常識が違いすぎて一刻も早く元の世界に帰りたい。