シフトキー
登場人物:同期A,B,C,D 黒田部長 彼女(エンターキーの主人公)
A;(エンターキーの主人公)彼女と同じフロアだが、別チームで働いている。
D:とある先輩と同じフロアで働く。彼女持ち。
これだけ知っていれば大丈夫かと。
黒田部長:主人公のチームの部長。巨体だが優しい。奥さんの愛妻弁当を毎日持ってきている。
彼女:エンターキーの主人公。今回の主人公に好きになられた幸運の持ち主。
平成××年、6月2×日金曜日、天候は晴れ。梅雨と言っても雨が降る気配がなく天気予報では今日から梅雨が明ける言っていた。気温も昼間は若干熱いが、夜は肌寒くなるまでにはいかず風が吹くと心地よいほどだ。今年の梅雨は個人的には大変過ごしやす季節だ。
「今日しかないな。まあ、あの様子だと残業するだろうし、呼び止める方法はいくらでもある。」
「いずみん、怖いんだが何考えているの?誰かの捕獲作戦?」
「いずみん、例の人ですか?とうとう行動すのですか?まあ今まで気づかれないという奇跡が起こってますもんね。」
「あれは奇跡というより、相手が鈍いだけだろう?」
「ああ、坂部先輩が結婚するなら彼女がいいって言ってたぜ。」
『まじで?』
本日も平和な会社の昼食時間の中、同期Dの爆弾発言には全員が食いついた。別チームであるが同期であるA、B、C、Dとの楽しい会話・・・ではなく、情報交換の場である。場所は会社内にある食堂というなの喫茶店だが、ここの社員はお弁当持参が多く利用する人が少なく席は程よく空いている。
情報といっても先輩が仕事をしないとか、上司が不倫しているとか愚痴や根も葉もない噂から実際に聞いちゃいまいた見ちゃいましたの実体験を交えた内容を女子会のように交換しているのだ。
女性陣から何話しているの?なんて絡まれたりするがそこはばっさりと切り捨てている男たち。
興味のない女性には適度に接しましょうというのが会社内の男性陣が決めた掟である。そうでもしないとハーレム状態もしくは不倫している等と嫉妬という感情から生まれた噂をされることになるのだ。とある上司のように。
「え?先輩が本当に言ってたのか?」
「おう!この情報はホッカホカだぜ!女性の方も名前ばっちりと確認したし、同じ会社で同姓同名なんていないからな。どうするよ、いずみん?」
「どうするも、こうするもないですよね?当たって砕けてください。骨は拾いますよ、いずみん。」
「まあいずみんのストーカー紛いの行動していることを知られたら当たる前に砕けるよ。」
「いずみん、まだ間に合うさ。俺の彼女がお前の天使が、恋愛する暇ないんです~って言ってたぜ。」
「最後のもしかして彼女(天使)の真似か。やめろ、全然合っていない。そもそもいずみんってなんだよ。」
俺こと、泉 真司は、24歳 身長175㎝で体重50Kg台。外見も中の中といわれるように気を付けており、眼鏡の似合う男子だと自負している。社内では真面目で敬語も正しく使う上司受けな優等生である。等と胸を張って言えば、周囲にいる人間(チームの部長含め)は失笑するだろう。第一印象を他者に聞けば同様の返答が得られるくらいには気を付けているが、長時間一緒に労働する仲間からすれば猫かぶりといわれるのが落ちである。事実猫は被っている、約1名には特に厳重に100匹ほど被っている。
そんな自己紹介より、今日は信じがたい情報を入手してしまった。
俺の天使がど変態女好きやろうの餌食になろうとしている。由々しき事態だ。
例え、俺があいつら曰くストーカー紛いのことをしていようが、それが野に咲く花のようなに感じられる程の事態だ。
「今、いずみんの野郎自分のしていることを正当化しようと考えているぜ。あの表情。」
「正当化も何もないよ。そもそも彼女こと天使が別チームだけじゃなくてフロアまで移動になったのはいずみんのせいだし。」
「部長が見ても危険人物に見えるいずみんの行動には感服しました。」
「いずみんが言うには仲良くなるための方法の一つだっけ?ていうかさ、別チームに移動いたせいでさらに悪化したけどな。ザ・ストーカー野郎の出来上がりだ。」
勝手なことばかりを言う同期共だが、いつも彼らには感謝している。フロアが違うだけで接点と激減しなんとか帰宅時間を調べようとMy Angel(俺の天使)と同じフロアの同期Aに聞いているし。
同期Dの彼女は、俺の天使の友達である。そのため女子会の内容を事細かに聞けるという役に立つポジションにいるわけだ。Dに関してはもう一つプラスすると変態くそ野郎先輩と同チームなのだが、奴のことはDに任せるとしよう。
「お前らな、俺はそこまで酷くないぞ!取り敢えず、先輩のことはDお前に任せた。諦めさせろ。」
「待て、Dって俺のことか?」
「いずみん・・・。彼女の自宅を特定するまで至った方法を思い出すと酷くないなんて言えません。」
「待ておい、俺のことは無視か?Dってなんだよ。名前かすってすらないぞ。俺がDならお前らA、B、Cじゃねえかよ。」
「そもそも、勝手に俺のとか言っている時点でアウトだよ。」
「それに天使と言っている時点でもアウトだ。妄想する前に告白くらいしろよ。」
「お前らそれでいいのかよ・・・。俺の名前はDじゃねえ。小島だ馬鹿野郎。」
「特定したんじゃない。残業で遅くまで残っていたから無事に帰れるように見守っていたんだ。」
「声もかけずに後ろからついていくは、ストーカーだろ。」
『・・・。』
一人だけ彼女のいるD(小島)の言葉を他の仲間と無視を決めるが、俺への攻撃の手は止まらない。
しかしここで俺はやられっぱなしで終わらない。無実を証言するように胸に手を当て連中に優しく説いた。が、最後に勝ったのはどこからか現れた俺の部長こと黒田 智一。
黒田部長には、全新入職員がお世話になる教員担当者である。そのため俺らの新人時代もお世話になっており迷惑を掛けた覚えしかないため頭が上がらない。黒田部長も俺のことは特に気にかけてくれており、他のフロアに行くときは目が鋭くなることがある。また190㎝の巨体に似合わず優しくスタッフに声を掛けることのギャップで女性陣からも受けがいい。奥さんと子供がいるらしく、家族を守るお父さんタイプである。
「何か御用でしょうか、黒田部長。」
俺は座っていた椅子からすっと立ち上がり一礼すると、先ほどのお言葉を無かった事にして部長が何故ここにいるのかを聞いた。部長のお昼は愛妻弁当のためカフェにくることはほとんどないのだ。
「お前の紳士に見せかけた態度や行動が、彼女にもできればなあ。」
「私は何時だって紳士です。」
「・・・まあいい。どうせ今日は遅くまで残るのだろう?頼みたい書類仕事がある。後で私のところに取りに来なさい。」
「承知いたしました。」
渾身の演技で乗り切った俺に、馬鹿なことはするなと人睨み部長は人睨みすると休憩中邪魔をしたなと俺たちに軽く手を振り去っていく。まだ残業届を出していないのに何故残業することがバレているのかが分からない。
「何?お前、今日残るの?飲み会のメールを出そうと思っていたんだが。」
Dが俺と部長のやり取りを見て首を傾げながら聞いた。Dとは同じフロアであるため、俺が既にのろまを終わらせていることを知っていたからだろう。しかしDの問いに反応したのは彼女と同じフロアで働いているAだった。なんて羨ましい。
「ああ、彼女が残業申請を出していたからでしょう。僕がメールで伝えましたから。」
「それもあるが、実際に切羽詰まった顔をしているのを見たからな。だから、飲み会は中止。」
Aの言葉に俺は頷きながら、昼食前に彼女のいるフロアに様子を見に行き確信したのだ。あれは残業をすることを決めた表情だと。因みにほぼ毎日のように様子を見に行っている。実際に顔を見ることで安心できるからだ。これは誰にも言えないけどな、女々しすぎる。
「わざわざ確認しに行ってるとは、流石だよ。」
「仕方ない、飲み会は明日に変更するか。メールは明日出すからな~来いよ~。」
「飲み会は了解。んで、いずみん。今日勝負をかけるのか?」
俺の肩にCが手を置きながらにやにや笑い聞いてくる。遂に告白するのかと。その手を叩き落して俺は答える。
「勝負を掛けるも何も答えは決まっている。」
「あいつは俺のだ!だっけ?俺様に好かれるなんて可哀想にな。」
「明日一緒に出勤してきたら、お祝いしてあげよう。」
「一緒にって・・・。お持ち帰りする気ですか。」
「それいい案だな。」
こいつらは俺のことをよく俺様というが、彼女には優しいのだ。あまり話せていないけど。
それにしても、今日の彼女の業務内容を考えると終電近くになるだろう。金曜日は特に書類が多く、定時に帰れていない姿をよく見かけている。もし今回も同様に遅くまで掛かるのであれば、話を長引かせて終電を乗れないようにしよう。そうしよう。
「おい、加藤余計なこと言うなよ。彼女の逃げ場どんどんなくなってくぞ。」
「ごめん、伊井田。でも逃げれそうにないしさ。それならいっそって思うよね。」
「思いたい気持ちはわかりますが、もう少し時間を掛けて上げたほうがいいのでは?」
「そうすると、先輩が登場するわけだ。登場する前に叩き潰す。」
「目黒の優しさをいずみんに分けてやれるいいんだがな。」
いい案を出してくれたBこと加藤にたいして、Cこと伊井田が余計なことを言っているが特に重要なことではないため気にしない。Aこと目黒は実は腹黒でもあるため信用できない優しさなんだが、それを知っているのは俺だけという妙な疎外感。誰かに教えたところで成人君主という噂が流れているため信じる奴はいないだろう。滲み出るどす黒いオーラにいつか気づかれる日がくるのだろうか。
*ш*ш*ш*
定時が過ぎ会社に残っている人数が時間とともに減っていくのをぼんやりと眺め、黒田部長に渡され書類を見直した。取りに行った際は「正しい交際を。」と言われ、更に資料を渡すと同時に謎の激励を頂いた。 書類に目を通しながらあと30分程度で終わるなと見切りをつけて集中する。
「俺なら今日中に終わらせれるけど、普通なら無理なんじゃないか。」
自分が人より仕事が出来ることは理解しているが、それでもこの量を終わらせられるか不安でもあった。
まさか黒田部長が別の意味も兼ねての量であることに俺は気づかなかった。
ピ・・・ピ・・・ピ・・・ピーン
「21時か。」
小さな音がフロアに響いた。
フロアの中央に掛けられている振り子時計からの音だ。鳩時計のようにクルッポーと鳴ればいいのだが、ただの音付き電波時計だ。
彼女の残業は終わっただろうか。例え終わっていなくても手伝うことはチームが違うためできないが。
「覗いてみるかな。」
階段を上がると部屋と廊下を隔てるドアは開いており、そこから光が漏れていた。
まだやっているか。ここで待って居よう、下手に動いて帰られていたら俺泣くわ。
カタカタカタ
彼女が叩くキーの音しか聞こえないが、それがかえって心地よい。
カタカタカタ
不意に彼女に出会った時のことを思い出した。
彼女に出会ったのは入社試験時。一緒の面接日であり5人で提供された題材をもとにディスカッションを行うというものだった。入社後のオリエンテーションでその全員と顔を合わせみんな一様に驚いたのは覚えている。彼女が気になったのはその面接日のことで、黒のセミロング、パンツタイプのスーツを着こなしておりディスカッションでは、的確に答えを出すという一見なんてできる人なんだと感心した。彼女は合格するだろうなと直感で思い、実際合格し同じ職場になれたことは嬉しかった。
しかし、彼女は入社試験の時の雰囲気はなく、他の奴が話しかけても無表情で返答するという状態。そんな彼女に話しかける勇者がこの会社にどのくらいいるのかというと、同期全員だったりするから孤立することはなかった。
実は俺も面接で一緒だったんだぜって話しかけるが忘れられていたようで、けれど俺の眼を見て申し訳なさそうに謝る彼女にドクンと心が動いた。恋心が動いたのは、眼を見られた瞬間。今、彼女の眼には俺しか映ってないという幸福感を味わえたのだ。そんなことで惚れるかよと言われそうだが、仕方ないだろう惚れてしまったのだから。
仕事始めは同じチームで大変喜んだ事に関しては、実は親も知っている。兄弟(姉ども)は浮かれている俺をみて爆笑されたが無視だ。しかし姉達よりアンタの顔は標準タイプだけど伊達メガネ掛ければイケメンだよとか、親からは最大級の笑顔を使って落とせばいけると恋愛指導されたためそこは有り難く受け取っている。
俺の中の勝手な想像としてだが、彼女の好みのタイプは優等生のはず!との決めつけから俺は仕事ができ、敬語も完璧な優等生を演じることにした。部長にはすぐにバレていたが、彼女のバレなければ問題ない。眼鏡だって度が入っていないのに掛ける意味が分からないがファッションだ、ファッション。
2年目になると何故が彼女と引き離された。彼女は俺が仕事が出来るから残されるんだとか思っていた様だが、違う。黒田部長にプチストーカー行為がバレたのだ。そもそもあれは最近変質者がでたとの噂が流れていたため彼女が危ないと思い護衛を兼ねて忍者のごとく後ろから見守っていたのだが、それがいけなかったらしい。今はやり方には反省しているが、自宅を知ることができたことに後悔はしていない。そんなこともあり、黒田部長にとって俺は監視対象となったらしく入職して3年目になった今でも仲良く仕事をしている。働き始めて一人暮らしを始めた俺のマンションにも遊びに来る仲の良さだ。飲み会で終電を逃したときだけだけど。
「・・・はあ。」
懐かしい思い出に浸っているとため息が聞こえた。
それに我に帰るように自分が今どこにいるのかを思い出した。
終わったのだろうか。そう思いドアから顔を覗かせると椅子の背にもたれるように天井を仰いでいる姿を確認する。随分とお疲れの様だが、彼女には帰る前に俺という名の障害が残ってる。そもそも帰す気はない。
「でも・・・じゃない。自分のことでいっぱい・・・。できる人間ではない・・・。」
彼女の声は小さく自己反省をしているのだろうか、正しく聞き取ることができない。しかし次の言葉はしっかりと耳に届いた。そして俺はイラついた。
「あの子は私と違って、できる子だもの。私に言われる前に気づきなさいよバカ。」
彼女は自分を卑下にて例えたり話をすることが多く、同期からも自信もってと言われるほどなのだ。
面接時から入社してまでの間に何があったかは知らないが、自分の好きな人を卑下にしないでほしい。例えそれが、好きな人本人であっても。
A(目黒)からの情報では、今日部長や先輩に指導され、更に後輩には呆れられたと思ってるみたいだと状況を交えた内容が送られてきていた。実際には部長は男性であるため、衣服に関する指導をしたくてもセクハラと感じるのではと心配があり、彼女に声を掛けたらしい。また先輩は残業するくらいなら他の人に声をかけなさいと指導であったらしい。後輩に関しては、一度丁寧に説明をして貰ったが半分程理解できず再度聞くには申し訳ないとの思いから他の先輩を頼ったとの事実がAからのメールである。
しかしおれがその事実を知っているからといっても今は何もできそうにない。
「よし!帰りますか。」
自己反省が終わったのか勢いよく立ち上がった彼女みて、さて出番だと張り切って姿を現した。
だが、彼女の反応は薄かったが、名前を覚えてもらえたことによる感動はあった。苗字だけど呼ばれるだけで嬉しいと思うは末期を超えているだろうか。いや、気にする必要はない。
彼女と会話をするだけで嬉しかったが、勝手に帰ろうとするのはいただけない。約束もなく待っていたのは俺だけど。内心は待って一緒にまだ居たい!との思いが爆発し彼女の腕を握るという行為に出ていた。なんて細く柔らかいのだろうという感情には蓋を閉めれたが、苛立ちは隠すことができづダイレクトに彼女へ伝わっていた。口調がどうのとか言われたが、今はすごくどうでもいい。
それでも何とか外に連れ出すことに成功したが、会社の出入り口にどうやってたどり着いたのか緊張で覚えていない。だって俺今彼女に触ってる!変態と言われようが今は謹んでお受けします。
外に出ると心地良い風が頬を撫でる。
まずは終電という変化球から投げる。バントで対応される。でもホームランという帰宅はさせないために今度は恋愛というインコースを投げる。これにはファールで対応された。どうやら恋愛は禁句だったらしい。これで坂部先輩の求婚聞いたらどうなるんだろうか。聞いてみないと分からない!だったら話盛って投げてやる!判定はボールだったけど、そもそも先輩のこと知らないとは思わなかった。良かった、本当に良かった。
さて。いい加減逃げ腰になるのはやめよう。
俺は彼女に今から喧嘩売りますという表情を見せた。笑っているのに目が笑っていないというあの表情。
ここまで話しても彼女は自分の考えている答えを言ってはくれない。彼女のことだ、俺が待っていた理由に対する回答は既に出ているず。俺の態度で分からないものだろうか。ああ、これでは彼女と同じで答えを出してくれるのを待っていることになる。
男を見せる時だ俺!全部さらけ出す!
「チームもフロアも別になって話す機会がさらに減って、帰りに話しかけようと思っても急いでいるみたいでなかなか話しかけれないし、同期の飲み会にはよく参加しているようだったからそこで話そうと思ってもアンタ逃げるし、だから今回は強行突破をしてみることにした。」
「・・・。強行突破って、どういう意味?私と話したかったっていうのは何となくわかったわ。でも、そこまで話をしたいって思うなんて、まるで貴方私と仲良くなりたいみたいじゃない。貴方って広く浅く人間関係を築いているのだと思っていたわ。・・・客観的にみた感じだけど。」
「そこまで気づいてなんで分からないかな。確かに俺は、あまり深く関わろとはしないけど、誰だって気になる相手のことは深く知りたいと思うだろう。」
ここで甘えちゃいけないのは俺のこと結構見てくれていたんだと喜ばないこと。彼女はちゃんと自分の考えを言ってくれる。我慢、我慢。
彼女は自身の腕時計を揺らいだ瞳で見つめていたが、結審したのだろう。こんなところで逃げれないと。
「私の考えが外れていたらとっても恥ずかしいから言いたくないのだけれど、貴方私のことが気になるの?」
「やっとここまでたどり着いた。本当は別の方法で言おうと思っていたんだけど、ライバル現れて時間もそんなに掛けれそうにないし。本当に今日しかなかったんだ。」
無理矢理だけどやっとここまでたどり着いた。食事に誘ったりして仲を深めてから伝えようと思っていたんだけど、先輩のこともあるし誰かに持っていかれる前に伝えよう。
「高岡たかおか 由美子ゆみこさん、入社した当時から貴女のことが気になっていました。いつも一人で悩んで、見当違いな答えを出す貴女を助けたいと思っていました。貴女と別チームになり関わることも減り、助けることすらできずただ見ているだけなのはもう限界です。この際はっきり言わせてください。俺を選べ。」
どうしても欲しいものがある。そういう時俺は俺様になるらしい。言い方間違えた!なんて直ぐに訂正すればいいんだけどさ。
彼女の唖然とした顔を見るとどうしても訂正なんて面倒なことしたくなくて。一世一代の告白?そんなものプロポーズの時に言ってやる。
「何が選べよ。偉そうに・・・。そんな言い方で女性がなびくとでも?」
「他の女性の気持ちなんて知らないし、いらない。俺が欲しいのはアンタだけ。」
「・・・もちろん拒否権はあるのよね?」
彼女の答えしか要らないのに、他の奴なんて知るかよ!拒否権なんてあるわけないだろ!
俺が道を外さないためにはアンタからの肯定しか要らないの!逃がすと思うなよ。
「俺から逃げれるとでも?」
この時の俺の心境を後から振り返ると余裕がなさ過ぎてかっこ悪く、穴に入りたくなる。
勇ましいこと言ってるように見えるけど、手は震えているし足ですら小刻みに震えている。
そんな俺に気づくことなく彼女は俺の眼をみて答えを出した。その表情にまた心が震えた。
「優しい人が好きです。どうか優しいままでいてください。」
時が止まるってこういうことなのだろうか。
彼女にとって逃げ道なんてない状態での精一杯の肯定だった。
ごめん、卑怯な方法で答えさせて。
ごめん、でも嬉しくて泣きそうだ。
そして俺は久々に心から笑っていたらしい。というのも、彼女が顔を赤くしたと思ったら素早く顔を背けたからだ。俺の一家は感情が振り切れると表情をみて相手が恐怖するか、赤面させる能力があるらしい。
できれば彼女の反応が良い方向であるますように。
「じゃあ、帰ろうか。」
時刻は23時半はとうに過ぎている。
彼女の・・・いや、由美子さんとこのまま別れるはずがない。
例え、由美子さんの表情が諦め変わったとしても。連れて帰る。
「何考えてるんだ?」
「明日からちゃんと後輩とも話し合っていこうと考えています。」
後輩と話し合う前に、俺はいろいろと話したいんだけどさ。でももう夜遅いし、お話は明日にするとしてまずはすぐにできそうな外堀から埋めようかな。
思い立ったら即行動。帰宅後俺は同期A、B、C、Dに早速メールを送り、盛大に祝えと伝えた。
次の日、何故か俺が求婚した話になっており、由美子さんは婚約者になったとの飛躍した話題がされ、部長には「正しい交際を。」と一言頂いた。
決して主人公はストーカーではありません。
決して変態を書きたいわけではありません。
いいじゃないですか、こんなにも好いてくれているんですから!
私には無理ですけどね。