第96話 街の店巡り
仕事帰り。僕はジャド君の助言に従って、料理の本を探しに本屋に訪れていた。
ラニーニャの街唯一の本屋、『ビブリオの書庫』。
魔道書なども扱っているそこそこ大きめの店舗である。
僕も若い頃は、魔法の勉強のために参考書を求めて此処に通ったものだ。
植木で飾られている入口をくぐると、本屋特有の古紙の匂いが漂う空気が全身を包み込んだ。
この匂いを嗅ぐと、何だか自分が学者になったような気分になるのは何故なんだろうね。
さて、目的の本を探そう。
スノウの手を引きながら、僕は整然と並んだ本棚の間を進んでいく。
料理の本、料理の本……
……お、あった。
比較的手に取りやすい下段の方に、目的の本はあった。
硬めの羊皮紙で装丁された本で、タイトルには『子供でもできる料理入門書』とある。
食材の切り方から鍋の温め方まで、本当に料理の基本についてが絵付きでずらりと記されていた。
ジャガイモの皮を剥いて、芽を取って……
確かにこれなら、料理素人の僕でも理解できる内容だ。
絵で解説しているから、活字を見るよりも分かりやすいんだろうね。
冒険者を引退した人たちに愛されている本というのも、分かる気がする。
これなら早速実践できそうだ。
「すみません、この本を下さい」
僕は店員さんに本を包んでもらい、代金を支払って店を出た。
その足で、次は食品店へ。
本だけあっても料理はできないからね。食材がないと。
『ラムコスタの籠』。朝食べるパンなどを買うのに僕がよく利用している食品店だ。
此処には食肉から野菜、ミルクまで一通りの食材が揃っている。
僕は買い物に来ている他の客たちの間を通り抜けながら、目に付いた食材を次々に購入していく。
野菜。卵。果物。パン。ミルク。
肉はあまり日持ちがしないので、1食で食べきれる量だけを購入した。
氷魔法を内包した保存箱があれば傷みやすい食材も保存しやすくなるんだけど、あれは流石に高いからな。
そんな感じで店内を物色しながら歩いていると、見知った顔を見つけた。
「……おや、イオさん……」
革細工ギルドのマスター、ロウェンさんだ。
両手に大量の野菜を抱えている。
「……珍しいですね……こんな場所でお会いするなんて……」
「そうですね。ロウェンさんも買い物ですか?」
「……ええ……野菜を切らしてしまったもので……」
ロウェンさんは日々の食事は基本的に家で作っているらしい。昼食も基本的に自作した弁当なのだそうだ。
成程、自炊に慣れたら昼食を弁当にするのもありか。
ロウェンさんと別れ、僕は大量の荷物を抱えて食品店を出た。
手を繋げなくなったので僕の服の裾を掴んでいるスノウが、僕の顔を覗き込みながら尋ねてくる。
「イオ、お家に帰る?」
「んー……そうだね。荷物いっぱいあるからね」
夕飯は屋台で何か買って行くかと思ってたけど、せっかく食材買ったんだし自炊に挑戦してみてもいいか。
帰ったら、早速買った料理本を読もう。
食べられない料理だけは作らないようにしないとな。
「帰るよ、スノウ」
「はーい」
日が落ちて間もない大通りを、僕とスノウは並んで歩いていった。




