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第93話 何にしようかな

「良い取引ができて良かったわ。また来てちょうだいね」

 取引を終えて去っていく冒険者を見送って、ヘンゼルさんは笑顔で手を振った。

 素材を売って得た収入を金庫にしまいながら、彼は壁に掛けられた時計を見る。

「そろそろお昼休憩の時間ね。イオちゃん、御飯食べに外に出るでしょ?」

「はい」

 僕はギルド奥の交流スペースに目を向けた。

 テーブル席の一角で、ポーションの瓶を物珍しそうに触っているスノウの姿が目に入る。

 僕が1階にいる時は、ああして交流スペースに座っているのだ。僕の姿が見える場所に身を置きたがるのは竜の時と何ら変わらないようである。

 言いつけ通りに大人しくしているので、僕としてはそれでも全く構わないんだけどね。

 ヘンゼルさんは僕の背中を優しくぽんぽんと叩いて、言った。

「スノウちゃんにちゃんとした御飯食べさせてあげなきゃ駄目よ。貴方、育ての親なんだから」

 分かってますって。

 と言うか、今更そんなことを言われてもな。

 やはり、スノウが人間の姿をしているのでそういうことを言いたくなる心理が働くのだろうか。

「スノウ、おいで。御飯食べに行くよ」

 スノウを呼ぶと、スノウはぱっと顔を上げた。

「はーい」

 椅子の上からぴょこんと飛び降りて、とことことこちらに歩いてくる。

 持っていたポーションの瓶をヘンゼルさんに渡し、差し出した僕の手を小さな手できゅっと握った。

 スノウくらいの小さな子は抱き抱えて歩くこともできるのだが、スノウは自分の足で歩けるので極力歩かせるようにしている。

 スノウは自分でできることは自分でやりたがるしね。

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 ヘンゼルさんに見送られながら僕とスノウは冒険者ギルドを出た。

 向かう先はシルフの鍋亭。いつも通りだ。

 道中歩きながら、僕はスノウに尋ねる。

「スノウ、何食べたい?」

「うーんとねぇ……」

 しばらくうーんと悩んだ後、ぱっと僕の顔を見上げてスノウは言った。

「イオと同じものが食べたいな」

 ……またそんな可愛いことを言って。

 思わずぎゅっと抱き締めたくなるのを堪えながら、僕は昼食について思案した。

 無難に定食にするか……がっつり肉にするのもありといえばありか。

 今は何かフェアやってたっけ? それの有無でメニューを決めてもいいな。

 ──料亭が見えてきた。

 今日も相変わらず混んでるなぁ。

 列の最後尾に並んで、僕は料亭の入口を見つめた。

 この列の進み具合からしたら……待つのは大体10分くらいか。

 スノウはきょろきょろしながら順番が来るのを大人しく待っている。

 そんなスノウをちらちらと見つめてくる、他の順番待ちの客たち。

 こんな小さな子連れがいるのか、って思われてるんだろうなぁ。

 それでも竜のスノウを連れている時よりは大人しいものだけど。

 自分たちの番が来るまで、僕はそ知らぬふりをしながら通りの様子を眺めつつ過ごした。

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