第92話 隠し子?
「おはようございます」
「おはよう、イオちゃ……」
いつものように冒険者ギルドの戸口をくぐった僕を、カウンターの奥からヘンゼルさんはいつもの通りの挨拶で出迎え──
言葉の途中で口をぱかっと開いて、呆気に取られた様子でこちらを見た。
その視線は、僕と手を繋いでいるスノウに注がれている。
「イオちゃん、その子は?」
「あー、えっとですね。この子は……」
「おはよーっす」
説明しようとしたところに、僕の横をすり抜けるようにしてギルドに入ってくるシークさん。
いつもの通りに道中で買い食いしてきたのか、口に串焼きを咥えている。
「何かあったのか、そんな場所で突っ立って……んん?」
シークさんは口をもごもごと動かしながら僕と隣にいるスノウを見て目を瞬かせると、言った。
「何だ、隠し子か? イオ」
「違いますからね!?」
僕は間髪入れずに反論した。
スノウはシークさんの言葉の意味がよく分かっていないようで「隠し子ってなーに?」と言いながら僕の顔を見上げている。
僕はヘンゼルさんとシークさんに、この子がスノウであることを説明した。
人間の姿は、魔法の力によるものであることなど。
説明し終えると、ヘンゼルさんは成程と言いながら顎に手を当てた。
「竜が人の言葉を喋ることは時々あるって聞くけど、人間に変身するっていうのは初めて聞いたわ」
カウンターから上半身を乗り出して、スノウの顔を覗き込む。
「スノウちゃん。竜は、皆変身できるものなの?」
「んー。分かんない」
そうだよな。スノウはまだちっちゃいもんな、分かるわけないか。
スノウの頭を優しく撫でてやりながら、僕はヘンゼルさんに尋ねた。
「ヘンゼルさん。ギルドにスノウを連れてくるのは……」
「最初に言ったじゃない、此処に置いても構わないわよって。竜でも人でもそれは変わらないわ」
「ありがとうございます」
どうやら人間の姿のスノウを冒険者ギルドに置くお許しが出たようだ。有難い。
ないとは思うが、所構わず動き回って仕事の邪魔になるようなことにはならないように言い聞かせないとな。
「……おはようございます」
眠そうなジャド君がギルドに入ってきた。
さあ、と掌を叩いてヘンゼルさんは声を張り上げた。
「皆、今日も1日頑張りましょ」
「……先輩、子守の副業でも始めたんですか?」
「……後で説明しますよ」
スノウを見て怪訝そうに小首を傾げるジャド君の背中を押して、僕は仕事が待つギルドの2階へと上がった。
作業台の上には、普段通りに鑑定依頼品がずらっと並べられている。
大きな刺繍が施された外套、宝石が埋め込まれた宝箱、ごつい形状をした巨大な槌……今日も珍しい品が並んでるなぁ。
僕は椅子にスノウを座らせて、鑑定依頼品を手に取りながら言った。
「スノウ、僕たちは仕事をしてるから、此処で大人しくしてるんだよ」
「うん、分かったー」
きちんと両足を揃えて座り、片手を挙げて返事をするスノウ。
竜の時もむやみに飛び回ったりはしていなかったし……多分大丈夫だろう。
さあ、仕事を始めますか。




