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第91話 白髪の幼女

 ぺちぺち。

 誰かが僕の額を叩いている。

 ぺちぺち。ぺちぺち。

 僕はううんと唸って寝返りを打った。

 もう朝か。でももうちょっと……

 もにゅもにゅと口を動かして、腹をぽりぽりと掻く。

 ぺちぺち。ぺちぺち。

 その間も、額への攻撃は続いている。

 睡魔がだんだんと薄れていき、僕は呻きながら瞼をゆっくりと開いた。

 いつもの様子の、いつもの部屋。吊り下げられた仕事着と、床に無造作に置かれた鞄。

 それらが順番に目に入っていき、

「イオ、おはよう」

 真っ白い髪をした小さな女の子の顔が、最後に視界に飛び込んできた。

「……!?」

 眠気が一気にぶっとんだ僕は、がばっと上体を起こして女の子を凝視した。

 透き通った宝石のような灰色の瞳に、淡色のワンピースを纏った白い肌。僕の指3本分くらいしかない大きさの手。

 年齢は、ぱっと見た感じ3歳くらいか。ようやく1人で満足に走ったりできるようになった頃合いの、まさに幼女という言葉がぴったりの子供である。

 この子、何処の子だ? 何で僕の家に?

 ぽかんとしていると、女の子は僕を見てにぱっと笑った。

「あのね、スノウ、人間になれるようになったの。イオとお揃いだよ」

 ……スノウ?

 今、スノウって言ったか? この子。

 ……えええええええ!?

 混乱した頭を片手で抱えながら、僕は室内をぐるりと見回した。

 僕の就寝中に誰かが外から入ってきた形跡はない。そして普段は僕の枕元で寝ているスノウの姿もない。

 そして自分のことをスノウだと言っている女の子が1人。

 スノウって女の子だったんだな……

 ……じゃなくって。

 本当に? 冗談とかドッキリとかじゃなく、本当に、スノウが人間の姿になった?

 無論言うまでもなくスノウは竜の子だ。卵から生まれたところも見ているし、そこは疑いようのない事実である。

 この人間の姿は、一種の魔法か何かによるものだろう。

 けど、何で突然人間の姿なんかに?

「な、なあ……スノウは、何で人間の格好になったんだ?」

「あのね、スノウが人間になりたいって一生懸命考えると人間になれるの。それでね、元に戻りたいって考えると元に戻れるの」

 やっぱり人間の姿は魔法の力によるものらしい。元の竜の姿に戻ることもできるようだ。

「人間になるとね、もっと自由にお話ができるようになるの。スノウ、イオともっとたくさんお話したいって思ってたんだ」

 確かに、今スノウが喋っている言葉はテレパシーではない。れっきとした人の言葉だ。

 おそらく僕だけではなく、他の人とも自由に会話ができるはずである。

「ずっとずっと考えてたら、さっき急にできるようになったんだよ」

 ……成程。

 まだ頭はこの状況に付いてきていないが、何となく事情は分かった。

 問題は。

 これから仕事に行くのに、この状態のスノウを連れて行かなければならないということだ。

 竜の姿に戻るように言っても当のスノウは何故?と首を傾げるだろうし。

 無理矢理戻させようとしたら嫌がるだろうしね……

 ……ヘンゼルさん、これ見たら何て言うかな。

「ねえイオ、スノウお腹空いた」

 きゅう、と可愛い音を立てる腹を掌で押さえて、スノウは僕の顔をじっと見上げた。

 ……くっ、人間の姿になったせいでおねだりの破壊力が増している。

 分かった、と答えて、僕は寝床から立ち上がった。

 朝食、朝食……家には大したものがないんだよな。

 スノウが竜の姿の時はそんなに気にしてなかったのだが、やはり人間の子供の姿をしているとなると粗末な食事はさせたくない心理が働いてしまう。

 えーと……確かミルクとドライフルーツはあったはずだ。今回はそれでいいか。

 今日は仕事帰りに食品店に買い物に行かなきゃな。

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