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第90話 やっぱり平和が1番

 冒険者たちの協力を得て街中を捜索した僕たちは、廃材置き場で倒れているヘンゼルさんを発見した。

 ヘンゼルさんは全身に傷を負っていたが、命に別状はなかった。

 冒険者たちに担ぎ上げられて教会に連れて行かれる最中に目を覚ました彼は、僕の姿を見るなり悔しそうに言葉を漏らした。

「……アタシも衰えたものね……たかがドッペルゲンガー1匹にこのざまだなんて」

「ヘンゼルさん、現役時代と違うんですから無茶はしないで下さい」

 怪我の具合は心配だけど、これだけのことが言えるんなら大丈夫そうだ。

 冒険者たちにヘンゼルさんを託して、僕は冒険者ギルドに戻った。

 冒険者ギルドは、ジャド君が1人で何とか切り盛りしていた。

 カウンターに立って冒険者たちの相手をして、買取や解体依頼の処理をして。

 ジャド君も、すっかり1人前だなぁ。

「お帰りなさい、先輩」

 ジャド君は帰ってきた僕を見て、思い出したように2階へと続く階段の方を見ながら言った。

「スノウちゃんが鳴いてましたよ。先輩がいないからじゃないですかね」

 ……そういえば、2階にスノウを置きっぱなしにしてたんだっけ。

 机の上で丸くなって寝てたから、そのままにしてたのだ。

 早々に2階の仕事場に戻ると、みゃああと鳴きながらスノウが僕に飛びついてきた。

『イオ、何処に行ってたの? スノウのこと置いてかないで』

「ごめんごめん。ちょっと用事があって外に出てたんだよ」

『スノウ、イオと一緒にいるの。1人になるのは嫌』

「分かった分かった」

 スノウのことを何とか宥めて落ち着かせ、僕はギルドカウンターに戻る。

 ジャド君にヘンゼルさんが無事なことを伝えると、彼はほっと胸を撫で下ろして笑顔を見せた。

「大事にならなくて良かったですよ」

 その白い頬に赤い線が入っているのを見つけ、僕は言う。

「ジャド君。傷が」

「ん?……ああ」

 傷口を指で撫で、ジャド君は大丈夫と言った。

「これくらい何てことないですよ。冒険者時代はこんな怪我なんてしょっちゅうでしたし」

 全く、逞しいね。ジャド君は。

 僕だったらそんな涼しい顔していられないよ。

 以前ダンジョン調査に行った際に足を負傷した時のことを思い出し、ぶるっと身震いして右の太腿を掌で擦った。

「そうだ。先輩、買取依頼品の中に魔法の道具マジックアイテムがあったんですけど、これって──」

 台帳に視線を落としてジャド君は僕を呼ぶ。

 仕事の話か。

 ヘンゼルさんが戻るまでの間は、何とか2人でカウンター業務をこなしていかないとな。

 僕はカウンターの裏手に回って、ジャド君の隣に立ち台帳を覗き込んだ。


 ヘンゼルさんは元冒険者ということもあってそれなりに身体を鍛えていたので、そんなに教会の世話になることもなかったらしい。

 夕刻になる頃に、いつもの調子でギルドに戻ってきた。

 いつものとはいっても、身体のあちこちに包帯を巻いた事件の被害者の姿をしてはいるのだが。

「イオちゃん、ジャドちゃん。今帰ったわ。迷惑掛けてごめんなさいね」

「ヘンゼルさん」

 並んで取引代金の金貨の数を数えていた僕とジャド君は、顔を上げてヘンゼルさんを迎えた。

「身体はもう大丈夫なんですか」

「大丈夫よ。ちょっとした打ち身と切り傷があるくらいですもの。寝込むほどの怪我じゃないわ」

 うん、と力こぶを作るポーズを取って、ヘンゼルさんは笑った。

「さ。さぼっちゃった分働くわよ~」

 鼻歌混じりにカウンターの裏手に回ってくるヘンゼルさんを見て、僕はジャド君と一緒になって苦笑したのだった。

 冒険者ギルドは、どうやら今日も平和に1日を終えられるようである。

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