第82話 採掘師のおつとめ
ラニーニャから南に2時間ほど移動した場所。
そこに、目的の鉱山はあった。
木の梁で補強された坑道への入口が、まるでダンジョンの入口のように開かれている。
結構な深さがあるようだ。それを感じさせる独特の雰囲気が、辺り一帯に漂っていた。
「中は迷路になってるからな。迷子になるからはぐれないようにしろよ」
クレールさんが僕に忠告した。
そんな心配しなくても、勝手に歩いたりしないから大丈夫ですって。
『ダンジョンだ。ダンジョンー』
坑道の入口を見てスノウが言う。
確かに、複雑に入り組んでいるともなれば此処も一種のダンジョンか。
「皆と一緒に行くからね。勝手に先に進んだりしちゃ駄目だよ」
『うん、分かったー』
スノウに念を押して、僕はクレールさんの後に続き坑道の中へと入っていく。
坑道に1歩足を踏み入れると、砂っぽい匂いのする空気が全身を包み込んだ。
中は、たくさんの枝道に分かれた構造をしていた。
この小道ひとつひとつが、採掘場に繋がっているのだろう。
時折、シャベルや鶴嘴などの道具が置かれているのを見かけた。
クレールさん曰く、これは採掘中の坑道を表すための目印になっているらしい。
やはり、目印がないとプロでも迷うんだな。
改めて、坑道の複雑さを感じた僕だった。
「此処だ」
やがて、先頭を進んでいたクレールさんが足を止める。
梁に補強された道の行き止まり。そこが、僕たちが辿り着いた場所だった。
大きめの石がごろごろと足下に転がり、壁にも埋もれている石があるのが見える。
此処で、例の鉄鉱石を採掘しているようだ。
「始めてくれ」
クレールさんの号令で、採掘道具を持った採掘師たちが壁へと向かっていく。
それを後方で見守る僕と冒険者の2人。
かつん、かつんと壁を削る音と共に、見覚えのある黒い石が掘り出されていく。
それを持って来た麻袋に入れて、クレールさんは僕に目配せをした。
「それじゃあ、鑑定を頼む」
僕の出番だ。
僕は麻袋の中の石に鑑定魔法を掛けた。
『【鉄鉱石】
精錬すると鉄が採れる鉱石。』
これは普通の鉄鉱石だ。
次々と掘り出されていく鉱石に魔法を掛けて、鑑定結果をクレールさんに伝えていく。
クレールさんはそれに耳を傾けながら、採掘師たちにもっと右、もっと左と採掘ポイントをずらすように指示を出した。
今回の採掘の目的は闇鉄鉱が採れるかどうかを調べることだ。普通の鉄鉱石が掘れる箇所を掘り進めても意味がないのだろう。
普段の採掘だったら、成果が出るだけで万々歳なのだろうが。
「鑑定眼」
『【黒鉄鉱】
精錬すると黒鉄が採れる鉱石。』
お、黒鉄鉱が出た。
違う鉱石の鉱脈でも、結構隣り合わせにあるものなんだな。
「これは黒鉄鉱です」
「鉄鉱と黒鉄鉱は鉱脈が結構近い場所にあるからな。一緒に掘れることはままあることなんだよ」
黒鉄鉱を麻袋に入れるクレールさん。
掘り出した鉱石はとりあえず一緒の袋に入れて持ち帰るようだ。
後で分別するのだろうが、鑑定魔法もないのに採掘師の人たちはどうやって似た鉱石の区別をしているのだろう?
「出てくれよ、闇鉄鉱」
クレールさんがまるで祈るようにぽつりと呟く。
世紀の大発見か。力が入るのも無理ないよな。
次々と鉱石を掘り出していく採掘師たちの背中を見つめながら、僕も闇鉄鉱が出てくれるように密かに願った。
どすん。
その思いに水を差すように、地響きが起きて採掘師たちの手を止めさせる。
僕たちは顔を見合わせた。
「……何だ?」
訝る採掘師たち。
どすん。どすん。ぱらぱら……
天井から小石が落ちる。
地響きは坑道が崩落するほどの規模ではないが、決して小さいとは言えない。それが一定のリズムを刻んで僕たちの足下を揺らしてくる。
そう、まるで足踏みのような──
「──まさか」
険しい顔つきになる冒険者の2人。
後方を振り向いて、各々の得物を構えた。
どすん。どすん。どすん。
地響きが大きくなっていく。
誰かがこくりと喉を鳴らした。
ばらばら、とやや大きめの石が地面に落ちて、
「グルアァァァァッ!」
鼓膜を貫くような咆哮が、坑道中に響き渡った。




