第75話 新しい後輩
「ただいま戻りました」
冒険者ギルドに戻ると、ヘンゼルさんと話をしていた冒険者らしき人物がこちらに振り向いてきた。
「お帰りなさいイオちゃん。丁度良かったわ」
ヘンゼルさんが手招きしながら僕に言う。
「彼が新しく此処で働くことになった鑑定士よ」
「ジャド・レスマインドです」
ジャド、と名乗った若者は被っていたフードを脱いで、僕に頭を下げた。
淡い緑色の鱗があちこちに浮き出た顔は陶器のように白く、妖艶という言葉がぴったりの顔立ちをしている。
瞳の色は金。縦長の瞳孔が、眼前のものを鋭く見据えている。
白銀の髪は糸のように細く、ランプの光を浴びて黄金色に輝いている。
……獣人だ。
獣人と一口に言っても、獣人には色々なタイプがいる。限りなく獣に近い容姿を持った者もいれば、人間の容姿に幾分かの獣の特徴を持った者もいたりと、その姿は千差万別だ。
彼はどちらかと言うと後者に近い。人間の容姿に爬虫類の特徴が混ざったような、そんな姿をしている。
蜥蜴……いや、蛇だろうか?
僕の視線に込められているニュアンスに気付いたらしい。ジャド君は頬の鱗を指の腹で撫でる仕草をして、笑んだ。
「蛇とのハーフなんです。珍しいですか?」
「獣人といえば哺乳類系が多いのよね。そういう意味では珍しいんじゃないかしら」
数多の冒険者を見てきているヘンゼルさんでも、彼のような獣人は珍しいらしい。
「ジャドちゃん、彼がイオちゃん。貴方の先輩になる鑑定士よ。分からないことがあったら遠慮なく彼に訊いてね」
「宜しくお願いします」
ジャド君が右手を差し出してくる。
僕はそれを優しく握り返した。
彼の手は、鱗に覆われていてちょっと硬い感触だった。
サーペントの革。あれに似た手触りだ。
「イオ・ラトンです。こちらこそ宜しく」
みゃあ、とスノウが鳴いた。
一応スノウのことも紹介しとくか。
「これはスノウ。僕の飼い竜です」
「イオ先輩は、魔物使いなんですか?」
先輩、か。呼ばれ慣れてないとちょっとむずむずするかも。
「いや、違いますよ。僕はあくまで鑑定士。スノウを世話してるのは、まあ成り行きってところですね」
「そうなんですか」
宜しくね、と指先をスノウの鼻先に近付けて顔を覗き込むジャド君。
スノウは自分と似た特徴を持ったジャド君のことが珍しいのか、近付けられた指先の匂いをすんすんと嗅いでいる。
そんな僕たちのことを微笑ましげに見つめながら、ヘンゼルさんは言った。
「ジャドちゃんのお仕事は明日からだから、イオちゃん、明日から彼のことを宜しくね」
「はい」
……せっかくだから、夕飯でも一緒にして親睦を深めるとするか。
此処で会話をしているだけじゃ分からないことも多いと思うんだ。
少なくとも、僕は分からない。彼の性格とか、性分とか。
ジャド君が僕のことをどう思っているのか、その辺についても知りたいし。
僕が夕飯に誘うと、ジャド君は快くOKしてくれた。
場所は……シルフの鍋亭でいいか。いつも通りだけど。
夕方が実に楽しみだ。




