第74話 発見が齎した恩恵
鉄を叩く音が聞こえてくる。
鍛冶ギルドは、いつになく忙しそうだった。
「こんにちは。ヴォスライさんいますか?」
ギルドに入った僕は、カウンターのところにいた鍛冶師にヴォスライさんを呼んでくれるように頼んだ。
鍛冶師がギルドの奥に引っ込んで、しばし待つと。
「何だ、わざわざ来てくれたのか。すまねえな」
大きくて分厚い手袋をしたヴォスライさんが、ハンマーを片手に引っ提げてギルドの奥から姿を現した。
仄かに鉄の焼ける匂いがヴォスライさんから漂ってくる。今まで鉄を打っていたのだろう。
僕は持って来た木箱を床に置いて、圧縮魔法を解いた。
「鑑定が済みました。鉄鉱石と黒鉄鉱に分けて袋に詰めてあります」
「おう。助かるぜ」
「それで……鑑定していたらこんなものが出てきたんですけど」
木箱の蓋を開けて、麻袋の上に置いてある石を手に取った。
「闇鉄鉱が混じってました」
「な」
ごどん、とヴォスライさんの手からハンマーが落ちた。
近くにいた何人かの鍛冶師が物音に驚いたのかこちらを向く。
「や……闇鉄鉱!? マジもんか!?」
目を丸くして僕が差し出した闇鉄鉱に顔を近付けるヴォスライさん。
確かに闇鉄鉱は鉄鉱石に比べたら珍しいものだけど、そんなに驚くことなのかな。
「そんなに珍しいんですか? これって」
「闇鉄鉱が出たってことは、そこに闇鉄鉱の鉱脈があるってことに他ならねぇんだよ」
曰く。闇鉄鉱の鉱脈は限られており、現在のところ認知されているのは北のフェルシブル鉱山と北西のオーエン鉱山の2箇所だけなのだという。
今回闇鉄鉱が出た鉱山は元々鉄鉱石の採掘場として利用されていた場所で、此処を調査して闇鉄鉱の鉱脈の存在が確かなものとなると、新たな鉱脈の発見という一大ニュースになるのだそうだ。
鉄鉱石に加えて黒鉄鉱が採れる鉱山というだけで価値のある場所だというのに、それに加えて闇鉄鉱が採れるともなると、その価値は計り知れないものとなる。
僕が何気なく発見した闇鉄鉱に、そんな意味があったとは。
ヴォスライさんは僕から闇鉄鉱を受け取って、眼前に掲げた。
「こいつはえらい話だ。すぐに採掘ギルドに報告しなけりゃな」
何か大事になってきたな。
ヴォスライさんの目が僕を捉える。
「お前も大変だな。調査の名目であちこち引っ張り出されてよ」
………………
「……はい?」
「何間の抜けた声出してんだよ。お前は発見者なんだ、調査隊が組まれたら呼ばれるに決まってんじゃねぇか」
ええええええ。
闇鉄鉱を掘り当てたのは採掘師の人でしょ。
僕は石を鑑定しただけで、調査隊に呼ばれるようなことは何もしてないじゃないか。
「いやいや、僕は関係ないでしょう。たまたま石を見つけただけですよ。それで調査隊に呼ばれるって……」
「どのみち石の識別ができる奴が必要になるんだ、それこそ鑑定士の出番ってもんじゃねぇか」
いや、そこはプロの採掘師の目に頼りましょうよ。
わざわざ僕みたいな鑑定士を引っ張り出さなくても……
「魔物と戦いに行くわけじゃねぇんだ。そんなに構えることじゃねぇだろ」
まあ、そうなのかもしれないけれど……
「とにかく、採掘ギルドに報告はしなきゃならねぇ。何か決まったら連絡すっからよ」
「……はい」
……ヴォスライさんの真面目な顔には逆らえなかった。
採掘ギルドの方で話がまとまったら連絡をくれるということなので、それを待つという形でひとまずこの話は終了ということになった。
鉄鉱石の鑑定料をヴォスライさんから受け取って、僕は鍛冶ギルドを後にした。
冒険者ギルドへの帰り道。尻尾を揺らしながら、スノウが僕に尋ねてくる。
『イオ、何処かに出かけるの?』
「……かもしれない」
鼻から長い息を吐いて、僕は答えた。
「珍しい石が採れる山があるから、そこに行くことになるかもしれないんだってさ」
『山に行くの? スノウ、楽しみだなー』
全くもう、気楽に言ってくれちゃって。
物事を楽観視できるスノウが羨ましいよ、本当に。




