第73話 黒鉄鉱だけだと思ったら……
運んできた木箱を床に置き、圧縮魔法を解いて蓋を開ける。
みっしりと詰まっている黒い石を見つめ、掌を拳でぱしんと打ち鳴らして気合を入れた。
「さて……やるか」
『イオ、何をしてるの?』
机の上で寛いでいたスノウが、頭を持ち上げてこちらを見つめてくる。
「今からね、この石を鑑定するんだよ」
『いっぱいあるねー』
「そうなんだよ」
言いながら、僕は石をひとつ手に取った。
これが鎧とか剣とかの鉄製品になるなんて、鍛冶って奥深いんだな。
さて……
僕は手にした石に鑑定魔法を掛けた。
「鑑定眼」
『【鉄鉱石】
精錬すると鉄が採れる鉱石。』
これは鉄鉱石、と。
鑑定した石は、床の上に置く。
同じ要領で、箱から石を取り出して次々と鑑定していく。
鉄鉱石。鉄鉱石。鉄鉱石。鉄鉱石。黒鉄鉱。
黒鉄鉱発見。
鑑定結果で黒鉄鉱と出たものは、鉄鉱石と分けて脇に寄せておく。
見た目は本当に同じような石だ。混ざらないようにしないと。
鉄鉱石。鉄鉱石。鉄鉱石。黒鉄鉱。鉄鉱石。
鉄鉱石。黒鉄鉱。鉄鉱石。鉄鉱石。黒鉄鉱。
地味にあるな。黒鉄鉱。
一体どれだけの量を混ぜたんだか。採掘ギルドは。
鉄鉱石。鉄鉱石。黒鉄鉱。鉄鉱石。鉄鉱石。
鉄鉱石。黒鉄鉱。鉄鉱石。鉄鉱石。闇鉄鉱。
……ん?
僕は手を止めた。
今、見慣れない文字が出たような……
黒鉄鉱の山に置きかけた鉱石を、再度鑑定してみる。
『【闇鉄鉱】
精錬すると闇鉄が採れる鉱石。』
闇鉄ってあれだろ。闇属性の魔力を含んだ特殊な金属だ。
闇鉄製の武具は鉄なんかよりも耐久性が高くて魔法防御力にも優れているから高値が付きやすいってヘンゼルさんが言ってた。
混ざってるのは黒鉄鉱って言ってたのに、また珍しいものが出てきたなぁ。
これはヴォスライさんに報告だな。
僕は闇鉄鉱を鉄鉱石、黒鉄鉱とは別の場所に置いて、鑑定を再開した。
結局。
紛れていた闇鉄鉱は先の1個だけで、後は大半が鉄鉱石、黒鉄鉱は全体の2割ほどの量になった。
鑑定に2時間近くかかったよ。
部屋の隅の方に常備してある麻袋を持ってきて、鉄鉱石、黒鉄鉱と別々に分けて入れる。
袋に詰めたら木箱の中に戻して、と。
ずっと石ばかり見ていたから目が疲れたな。
僕は眼鏡を外して瞼を手の甲で擦った。
さて、鑑定が済んだことをヴォスライさんに報告しに行かないと。
壁に掛けられている時計に目を向ける。
時計の針は16時を差していた。
後2時間で終業か。
時間が経つのは早いね。
「コンプレッション」
木箱に圧縮魔法を掛けて、僕はスノウに声を掛けた。
「スノウ、鍛冶ギルドに行くけど一緒に来る?」
『お外に行くの? スノウも行くー』
スノウは舞い上がり、僕の右肩に止まった。
……スノウ、また大きくなったんじゃ? 何か前よりも重たく感じるよ。
後でヘンゼルさんにものさしを借りて来よう。
小さくした木箱を手に、僕は仕事場を出てヘンゼルさんのいるギルドカウンターへと向かった。
「ヘンゼルさん、ヴォスライさんに頼まれてた鑑定が終わったので届けてきます」
「分かったわ。行ってらっしゃい」
──西日が目に染みる。
眩く光る太陽に目を何度もまばたかせながら、僕は鍛冶ギルドを目指して冒険者たちが行き交う通りをまっすぐに歩いていった。




