第72話 鉄鉱石と黒鉄鉱
「鑑定眼」
今日も僕は、鑑定依頼品に囲まれた生活を送っている。
魔法の道具に骨董品に魔剣に宝飾に……色々な道具を目にして触れるのは楽しい。
これはダンジョンで手に入れたんだろうななどと思いを馳せながら、鑑定を次々と済ませていく。
この平穏な生活がいつまでも続きますように。
静かな一時が過ぎていく中、そう願わずにはいられない。
「イオちゃーん」
ヘンゼルさんが僕を呼んでいる。
新しい鑑定依頼品が来たのかな。
机の上で丸くなっているスノウに声を掛け、僕はヘンゼルさんが待つギルドカウンターへと向かった。
カウンターの前に、馴染みの顔が立っていた。
「よう、イオ」
鍛冶ギルドのヴォスライさんだ。
「忙しいとこ悪いな。実は折り入って頼みがあってな」
「僕にですか?」
ヴォスライさんは、傍らに置いてある木箱の蓋を開けた。
中に入っていたのは、黒い色をした石だった。何かの鉱石なのだろうが……ぱっと見ただけでは分からない。
それが、木箱一杯に詰まっている。
「こいつを鑑定してほしいんだ」
「あら。それって鉄鉱石?」
カウンターから箱の中を覗きながら言うヘンゼルさん。
ヴォスライさんは腕を組んで、木箱に視線を落とした。
「鉄鉱石なんだが……ちっとばかり黒鉄鉱が混ざっちまってるんだ」
黒鉄鉱とは、鉄鉱石の亜種のようなもので名前の通り黒鉄が採れる石だ。
市場では鉄鉱石よりも高値で取引されているらしい。
「採掘ギルドの連中がうっかり混ぜちまったらしくてな……そのまま納品されてきたんだよ」
「あらまあ」
「見た目は殆ど変わらねえ石だからな。分別しようにもできねえし、かといって一緒くたに精錬するわけにもいかねえしな」
採掘ギルド、何やってるんだか。
成程、それで僕のところに持ち込んだというわけか。
確かに見た目が変わらないとなると、分別するには鑑定魔法を使う以外に方法はないだろう。
それにしても……結構量があるな。
これはちょっと大変だぞ。
「お前の鑑定魔法でこいつを分別できねえか?」
「できますが……量があるので、少し時間を頂く形になりますよ」
「そいつは構わねえよ。急ぎでもねえしな」
やってくれるか、とヴォスライさんは笑顔になった。
「鑑定料はちゃんと支払うからな。んじゃ、頼んだぜ」
「分かりました。お預かりします」
ヴォスライさんが置いていった木箱の蓋を閉めて、僕は右の掌を木箱に向けて翳した。
「コンプレッション」
木箱を掌サイズに縮めて、拾い上げる。
まともに運ぼうとしたら人手が必要になっただろう。圧縮魔法が使えて良かった。
ヴォスライさんはこれをそのまま担いできたんだよな。こんな重たいものをよく運んで来れるよなぁ。
「それじゃあ、僕は上で鑑定してますので」
「分かったわ。……ああそうだ、イオちゃん」
ヘンゼルさんがカウンターから身を乗り出してきた。
「新しい鑑定士さんの募集だけど、早速申し込みがあったの。近々紹介するから、そのつもりでいてね」
「はい」
新しい鑑定士、見つかったのか。
どんな人が来るんだろう。
気が合う人だといいな。
まだ見ぬ新しい鑑定士に仄かな期待を抱きつつ、僕は仕事場へと戻った。




