第69話 日常と幸福
凱旋した僕たちを、ヘンゼルさんは満面の笑みで出迎えてくれた。
ワイバーン討伐は熟練の冒険者でも一筋縄ではいかない仕事なので、僕たちが大きな怪我もなく帰ってきたのが嬉しかったようだ。
因みにワイバーンの攻撃を受けて負傷したルカさんだが、怪我の処置が早かったため後遺症もなく完治していた。大事にならなかったみたいで何よりだ。
今回の掃討作戦は緊急依頼ということで、参加者全員に冒険者ギルドの方から任務達成の報酬が支払われるらしい。
僕は冒険者ではないので報酬は出ないが、別途ヘンゼルさんから特別ボーナスが支給されるとのことだった。
有難い話だ。
収入が入ったら、スノウに美味しいものを食べさせてあげよう。
今回活躍したのは僕ではなくスノウだからね。
そのスノウは、大暴れして疲れたのか、僕の肩の上で器用に丸くなって眠っている。
実を言うと、僕もほんの少し眠い。
ダンジョン帰りで徹夜してるもんなぁ。
欠伸を噛み殺しながら、僕はギルドの2階へ足を運ぶ。
いつもは鑑定依頼品で乱雑としている作業机だが、緊急依頼の影響か、依頼品はなく机の上は綺麗なものだった。
椅子に座り、一息つく。
……やっと帰って来れた、って感じがする。
眼鏡を外し、机の上に置く。
目を擦り、窓の外を見て、深呼吸。
やっぱり、平穏な日常が1番だよ。
ギルドにやって来るお客さんの相手をして、依頼品の鑑定をして、時々シークさんたちと世間話をして。
夕方になったら街に出て、美味しい食事に舌鼓を打って、家に帰ってのんびりと風呂に浸かる。
何でもないことが幸福なんだなって、改めて思わされたよ。
やっぱり、僕は冒険者には向いてないみたいだな。
肩の上のスノウをそっと抱き下ろし、膝の上に乗せて僕は静かに目を閉じた。
まだ勤務中ではあるけれど、仕事がない今のうち。ちょっとだけ休ませてもらおう……
30分ほどうたた寝をして、階下に戻るとカウンターの前にはシークさんがいた。
随分と汗だくだ。
「順調に進んでるよ。この調子なら夜には全部終わると思うよ」
「シークさん、随分汗かいてますね」
「おうイオ。ほら、大量にワイバーンの持ち込みがあったからな」
……そういえば、掃討されたワイバーンが此処に持ち込まれてたんだっけ。
1匹の大きさが結構なものだから、物量としては相当のものなんだろうな。
それにしてもシークさん、楽しそうだ。
ワイバーンの解体は腕が鳴るって言ってたもんな、遣り甲斐を感じているのだろう。
「やっぱワイバーンはいいね。捨てるところがない魔物の解体は遣り甲斐があるよ」
「素材は全部冒険者ギルドで引き取るんですか?」
「ええ。買い取った金額は報酬に上乗せして冒険者に支払うつもりよ」
メモに何やら走り書きをしながらヘンゼルさんが答えた。
「皮に、爪に、牙に、肝に……職人ギルドの方に素材が入ったわよって伝えてあげなくちゃね」
「んじゃ、もうひと頑張りしてくるか」
上半身のストレッチをしながら、シークさんは通用口から作業場へと姿を消した。
「イオちゃん、緊急依頼の報酬金を用意するの手伝ってもらえる?」
「はい」
僕はカウンターの裏手に回り、金庫の扉を開いて中から金貨入りの袋を取り出した。
平穏が戻った冒険者ギルドは、そんな感じで普段通りの営業を行っていくのであった。




