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第68話 スノウは強い子

 連携を取った冒険者たちの強さはワイバーンを凌駕していた。

 1匹、また1匹と仕留められ、地に転がっていくワイバーン。

 それでも、こちらも無傷というわけにはいかなかった。

 ワイバーンの攻撃を受けて負傷し、前線から退く者が戦闘が長引くに従って増えていった。

 僕は負傷した冒険者たちにポーションを配る役割に徹した。

 スノウは戦いたそうにしていたけど……これが僕の本来の役割だからね。

 戦いを任せていたこともあって詳しい戦況は分からなかったが、在庫のポーションがすっかりなくなった時には、残っているワイバーンは後1匹になっていた。

 他のワイバーンよりも一回り大きいその個体は、大勢の冒険者たちからの攻撃を受けながらも平然な顔をして暴れていた。

 あんなの、どうやって仕留めるんだ?

「ギィエッ、ギェ──ッ!」

 大量の矢や槍が突き刺さった翼を大きく広げ、ワイバーンが足の鉤爪を振り回す。

 それを得物で牽制しながら冒険者たちが攻撃を仕掛けるタイミングを伺っている。

 時折ワイバーンの頭上が輝いているのは、魔道士たちが放っている魔法か。

 一筋縄ではいかないようだ。

 冒険者たちの先頭に立って剣を振るっているのはラーシュさんだ。

 ワイバーンの鉤爪を上体を捻ってかわし、魔法剣を発動させる。

 燃え盛る剣がワイバーンの足首を捉える。深く斬り付けられ、ワイバーンが咆哮した。

 ばさ、と力強く空を叩く音。

 巨体が、ふわりと宙に舞い上がった。

「飛んだぞ!」

 弓術士たちが矢を射る。鏃は皮膜に棘のように突き刺さるが、ワイバーンは動じない。

 首を擡げて、魔道士たちを──僕たちがいる方を睨み付けた。

 まずい、こっちに来る!

 慌てて魔法の詠唱を始める魔道士たち。

 炎が、氷が、雷が嵐のようにワイバーンの身体を叩く。

 しかし、どれも決定打にはならない。相手の注意を惹き付けるばかりだ。

 此処にいたら危ない。攻撃の的にされる。

 僕はその場を離れようとして、

 急に軽くなった右肩の存在に驚いて、振り返った。

 肩越しに向けた僕の目が捉えたのは、ワイバーンに向かって飛んでいくスノウの後ろ姿だった。

「スノウ!」

『スノウは負けないもん、スノウは強い子なんだから!』

 ワイバーンがこちらに向かって突っ込んでくる。

 みゃあ、とスノウは一声鳴いて、翼を大きく広げた。

 ドッ、ドシュッ!

 血がしぶき、ワイバーンの巨体が僕たちの頭上を通り過ぎていく。

 血の雨が降り、それに紛れて何かがぼとりと落ちてきた。

 ワイバーンの、頭だった。

 頭を失った胴体が勢い良く地面に墜落する。

 僕たちはぎょっとして、間近に落ちている頭と墜落した胴体を交互に見比べた。

 まるで巨大な刃物で切り落としたかのような綺麗な断面から、大量の血が溢れている。

 おそらく……スノウが、風魔法か何かでワイバーンの首を落としたのだ。

 うぉぉ、と歓声を上げる冒険者たち。

「やった、倒したぞ!」

 肩を組んで喜び合い、彼らは無事を確かめ合う。

 スノウは僕の元に飛んできて、その場でくるりと宙返りをした。

『イオ、見てた? 大きいワイバーン倒したよ!』

「…………」

 僕は口を半開きにして、唖然とスノウを見つめた。

 スノウが……どんどん凶悪になっていく。

 周囲にいた人々が、僕とスノウを取り囲んで声を上げる。

「その竜強いな! 今のは何をやったんだ?」

「貴方たちのお陰で、大きな被害が出ずに済んだわ! ありがとう」

 スノウは讃えられるのが嬉しいのか、その場で何度も宙返りをしてみせた。

「イオさん」

 声を掛けられて、僕ははたと我に返って振り返る。

 剣を収めたラーシュさんが、笑顔で僕のことを見つめていた。

「無事に終わりましたね」

「……え、ええ」

 あちこちに転がるワイバーンの死骸を見回しながら、彼は、

「これだけの被害で済んだのはイオさんたちのお陰です。貴方たちがいなかったら、もっと甚大な被害が出ていたと思います」

「……僕は何もしていませんよ」

 実際、戦ったのは僕ではなくスノウだしね。

 ラーシュさんは笑顔を引き締めて、続けた。

「私たちも、まだまだですね。冒険者の名に恥じないように、今以上に鍛錬していかないと」

 ──冒険者たちが、ワイバーンの死骸を運んでいく。

 街に帰るようだ。

「──ラニーニャに戻りましょう」

 ラーシュさんの言葉に、僕は頷いた。

 こうして、ワイバーン掃討作戦は多くの負傷者は出したものの死者は1人も出すことなく、無事に終わりを迎えたのであった。

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