第66話 ワイバーン討伐隊
ラニーニャの街を出て南に少し行った場所に、討伐隊のキャンプはあった。
冒険者ばかりで編成された即席のパーティの割には連携がよく取れている。
前衛を得意とする者、弓を扱う遠距離支援者、魔道士、でそれぞれ固まっており、部隊の長となった者同士で情報を交換し合っている。
ラーシュさんたちに連れられて僕が配属されたのは、最も命を張る役割である前衛たちが集う部隊だった。
配属、とは言うが、あくまで僕の役割は物資を運ぶことであって、戦うわけではない。
スノウは戦いたそうにしているが、此処は心を鬼にして言い聞かせないと。
部隊という人との連携が重要になる場所にいるのなら尚更だ。
ワイバーンの群れは、キャンプの目と鼻の先にいた。
遠くから見ているというのに、あの大きさ。
1匹を相手にするだけでも骨が折れそうだ。
それが、10匹以上もいる。
皆は、一体どのようにしてあの集団と戦うつもりなのだろう。
ラーシュさんにそれとなく訊いてみると、彼は作戦を把握するのは重要な仕事だからと僕に教えてくれた。
まず、遠距離から魔道士たちが魔法でワイバーンに先制攻撃を仕掛ける。
次に、弓術士で構成された遠距離支援者たちが弓でワイバーンを狙撃。
翼を狙ってダメージを与えて飛べなくなったところを、剣士たちが斬り込んでいき仕留める。
一連の流れとしてはそんなところらしい。
問題なのは、ワイバーンが空に逃れた場合。空を飛ばれると剣が届かなくなるため、こちらの戦力の大半が使い物にならなくなってしまう点だ。
弓術士や魔道士の数はそれほど多くはない。彼らだけでワイバーンの相手をするのは荷が重いと言える。
何とか、空に逃れられる前に仕留めたいところだが──
『ワイバーン、大きいねー』
スノウはワイバーンの脅威を分かっていないようで、まるで人の飼い犬を見るような目でワイバーンのことを観察している。
僕たちは戦わないとよく言い含めてはいるが、いざ部隊が動き出したらどういう行動に出るか分からないな。
間違っても冒険者たちと一緒になって突っ込んでいくことだけは控えさせないと。
「スノウ。僕の傍から絶対に離れちゃ駄目だぞ」
『スノウも戦いたいなぁ。火の魔法や氷の魔法をたくさん使って倒すんだー』
やっぱりそう言うと思ったよ。
「僕は戦うのが苦手だから、スノウには僕のことを守ってもらいたいんだよ。だから自分からワイバーンに近付いたりしちゃ駄目だからね」
僕はスノウに念を押した。
スノウが僕の顔を見る。
『スノウがイオのことを守るの?』
「うん。僕は戦えないからね。ワイバーンがこっちに来たら、殺されちゃうかもしれないから」
『分かった。スノウ、イオのことを守るね』
実際、ワイバーンがこっちに来たらアウトだと思うんだ。
そういう状況になる可能性がちょっとでもある以上、スノウには僕の傍を離れられたら困るんだよね。
へたれ、と言うなかれ。事実なのだから仕方がないじゃないか。
「皆、作戦を開始する。絶対に街の方には逃がすなよ!」
リーダーを務めているらしき銀の鎧姿の冒険者が、号令を掛ける。
魔道士たちが、ワイバーンの群れへと近付いていく。
討伐作戦が始まったようだ。
ワイバーンの群れは動かない。こちらの存在には気が付いていないようだ。
先制攻撃を仕掛けるには好都合である。
同時に始まる魔法の詠唱。魔道士たちが持つ杖の先端が、赤に、青に、緑に、紫に輝き出す。
「ファイアボール!」
「アイシクルアロー!」
「ウィンドカッター!」
「サンダーバレット!」
多種多様な魔法の光が、杖を離れてワイバーンの群れに飛んでいく。
「ギャアッ!」
着弾した魔法が炎や氷の欠片を散らす。
ワイバーンたちが、一斉にこちらを向く。
激闘が、今まさに始まろうとしていた。




