第62話 闇の中で蠢くもの
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案の定と言うか何と言うか、ウォーターエレメンタルはこのダンジョンの主ではなかった。
進んでいくと何匹も同じ奴がいたもんだから、僕は腰が引けちゃったよ。
ウォーターエレメンタルを見ると、足を射抜かれた時のことを思い出して、ついね……
軽くトラウマになってしまったようだ。
しかし現実は順調そのものといった様子で、ラーシュさんたちは出てくる魔物たちを次々と屠っていった。
特に、スノウの活躍がめざましかった。
火、氷、雷の魔法を的確に使い分けて、きっちりと魔物を倒していっていた。
これにはラーシュさんも感嘆の声を上げていた。
スノウは『もっといっぱい倒せるよー』と僕の肩の上で胸を張っている。
こう考えると、僕だけが本当に役立たずだな。
まあ、僕は冒険者ではないし。戦闘は戦闘ができる者に任せておくのが筋というものなのだろう。
僕は僕のできることをするだけだ。
そんなこんなで、僕たちはダンジョンの大分深いところにまで来た。
此処まで来ると、大分水の匂いが濃くなっていた。本当に奥まで来たんだなって感じがする。
壁一面にびっしりと苔が生えている。此処は特に水分で壁や天井が潤っているようだ。
ふわり、と通路の向こうから湿っぽい風が吹いてきた。
「……通路が終わってますね」
すん、と鼻を鳴らしながらラーシュさんが言う。
彼の言葉通り──
通路は終わり、だだっ広い洞窟のような空間が僕たちを迎えた。
此処には発光性の植物が自生しているようで、ほんのりとだが視界を照らしている。
足下は池のようになっており、大きくて丸い葉が幾つも足場のように浮かんでいる。
そして、空間の奥には。
蔦の塊のような植物が、葉を茂らせながらどんと鎮座していた。
わさわさと八方に伸びた蔓を揺らしながら、根を動かして地面をゆっくりと移動している。
あれは……魔物、なのか?
こんな時こそ鑑定の出番だ。
僕は植物に狙いを定めて、鑑定魔法を放った。
「鑑定眼」
『【マーシュランドアイビー】
湿地帯を好んで生息する植物型の魔物。実らせている果実に寄ってきた鳥や獣などを捕らえて餌とする習性がある。』
確かに……林檎のような果実が幾つも蔓に実っている様子が見て取れる。
あれを餌にして動物などをおびき寄せているわけか。
などと、感心している場合じゃない。
僕は鑑定結果をラーシュさんたちに伝えた。
成程と頷いて、ラーシュさんは剣を抜いた。
「ああいう植物系の魔物は、何らかの毒を持っていることが多いんです。捕獲されないように注意しなければなりません」
「足場が足場だし迂闊に接近するのは危険だな」
ロイドさんはルカさんの方に振り向いた。
「ルカ。此処から狙撃することはできるか?」
「もちろんよ。私の腕を見くびらないでちょうだい」
1歩前に出るルカさん。
くるる、と喉を鳴らしてスノウが言った。
『あれは何? 倒していいの?』
「ああ」
僕は頷いた。
「ただ、あれは毒を持っているかもしれないから、近付いちゃいけないぞ。遠くから、魔法を使って倒すんだ」
『分かったー』
スノウが僕の肩から降りた。
ぱさぱさっとルカさんの隣に飛んで行き、マーシュランドアイビーをじっと見据える。
「ファイアボール!」
ルカさんが魔法を唱える。
一瞬遅れて、スノウが炎の矢を何本も頭上に生み出す。
彼女たちが放った炎は、マーシュランドアイビーに着弾し、派手な火柱を上げた。
これで倒れてくれれば良いが──
しかし世の中はそう甘くはないようで。マーシュランドアイビーは、多少葉を焦がしはしたものの、まだまだ元気に動いていた。
それまで辺りを這っているだけだったのが、明確な意思を持って、こちらへとにじり寄ってくる。
自分に敵意を向ける存在に気付いたのだ。
ラーシュさんとロイドさんは各々の得物を身体の前で構えた。
「まず、邪魔な蔦を切り落とそう。本体に近付くのはそれからだ」
「おうよ!」
僕は皆から少し離れたところに身を置いた。
何もできない僕は、こうして皆の邪魔にならない場所にいるしかできることがない。
手にしたランタンを足下に置いて、ラーシュさんはマーシュランドアイビーに向かっていく。
蠢く植物との戦いの幕が、切って落とされた。




