第59話 ジャムサンドとカツバーガー
「はっ!」
気合と共に振り下ろされたラーシュさんの剣が、飛び回っていた黒い影を袈裟に切り下ろす。
腹を大きく裂かれた蝙蝠の魔物は、内臓を零しながらべちゃっと地面に落下した。
──大分進んできたが、此処はダンジョンのどの辺りなのだろう。
こう暗いと何処まで行っても同じ景色が続いているかのような錯覚を覚える。
これは行きだけではなく、帰る時にも相当頭を悩ませそうだ。
剣を鞘に収め、ラーシュさんは蝙蝠を拾い上げた。
「イオさん、お願いします」
「はい」
僕は差し出された蝙蝠に手を翳した。
「コンプレッション」
掌サイズだった蝙蝠の全身が、縮んで米粒ほどの大きさになる。
蝙蝠系の魔物は、牙や翼が素材になることが多い。牙は彫金ギルドに、翼は革細工ギルドに需要がある一品だ。
収入が期待できそうな魔物の死骸は極力持ち帰るというのが、このダンジョンに入る時に皆で決めた決まりごとだった。
小さくなった蝙蝠を、ラーシュさんは腰のポーチに入れた。
「イオさんが圧縮魔法の使い手で助かりました。おかげでドロップ調査が捗りますよ」
ルカさんは、攻撃系の魔法は多く習得してはいるが、こういう便利魔法には明るくはないのだそう。
戦闘面では全く役に立たない僕だが、貢献できることがあって良かったよ。
「きりも良いし、この辺で休憩にしましょう」
言って、ランタンを通路の中央に置くラーシュさん。
そういえば、昼飯まだ食べてなかったな。
ランタンを囲って、僕たちは通路に腰を下ろした。
持っていた荷物を下ろして、食事を取り出す。
調理ギルドが作ってくれたバターサンドに、ジャムサンド、マヨネーズを和えたエッグサンド。
圧縮魔法で小さくしていたそれらを元の大きさに戻して、包みを開く。
「スノウ、どれがいい?」
並べたサンドイッチを指差して、僕はスノウに尋ねた。
スノウは小首を傾げてサンドイッチをじっと見比べ、喉を鳴らしながら答えた。
『卵が入ってるのがいい』
御所望はエッグサンドね。
包みを綺麗に取り、エッグサンドをスノウに渡してやる。
スノウは小さな手で自分の身体ほどの太さがあるエッグサンドを掴み、かぶり付いた。
『卵、不思議な味がする。美味しいね』
マヨネーズ味が好評なようで何よりだ。
僕はジャムサンドを選んだ。
使っているのは、苺のジャムか。赤いソースの中に、ぷつぷつとした模様の果肉が入っているのがちらりと見えた。
ラーシュさんたちの昼食は、揚げたカツを挟んだ白パンのバーガーだった。ソースが染みた厚みのあるカツが美味しそうな一品である。
「圧縮魔法が使えると食糧の運搬が楽そうで良いですね」
バーガーを齧りながら、ラーシュさんがそんなことを言ってくる。
確かに数日分の食糧をコンパクトに纏められるのは便利だと思った。
僕は冒険者ではないから、大量の荷物を運ぶ機会がそんなにはないのだけれども。
ラーシュさんたちのような冒険者は、日々の物資の運搬については結構頭を悩ませる問題だろう。
僕でも使えるくらいだし、ラーシュさんたちも何処かで圧縮魔法を教わればいいんじゃないかな。
「長くダンジョンに潜る時ほど、荷物の量も増えていきますからね。せっかくのドロップ品を諦めることも、結構あるんですよ」
いつかは圧縮魔法を使えるようになりたい、としみじみ語るラーシュさん。
頑張れ。
「今回はどれくらい潜ることを想定してるの?」
ルカさんの問いかけにラーシュさんは唸った。
「食糧に限りがあるから……いいところ3日、ってところかな。そこまで深いダンジョンじゃないことを願いたいね」
ダンジョン攻略で3日というのは、割と普通の日数らしい。
長くなると1週間とか、それこそ1ヶ月とか潜り続けるパーティもいるそうだ。
1ヶ月か……その間は風呂にも入れないんだよな。
改めて見ると逞しい人種だよ、冒険者って。僕には真似できそうにない。
『ねえねえ、ダンジョンの冒険はおしまい?』
エッグサンドを平らげたスノウが僕の顔を覗き込みながら言ってくる。
「まだまだこれからだよ」
『スノウ、もっと魔法撃っていっぱい倒すんだー』
どうやら暴れ足りないらしい。
可愛いスノウは、実は血気盛んで好戦的な竜だった?
暴れるのはいいけど、あまり無茶なことはしないでくれよ。僕の胃が痛くなるから。
「そろそろ先に進みますか」
食事を終えたラーシュさんたちが立ち上がる。
僕は食べ残っていたジャムサンドを口の中に押し込んで、鞄を肩に掛けてその後に続いた。




