第56話 白身魚のフライ定食
時間が時間ということもあって、料亭の中は多くの人で賑わっていた。
席に着いた僕は、鞄を向かいの席に置き、その上にスノウを座らせた。
さて、夕飯だが何を注文しようか。
メニューとスノウを交互に見ながら僕は考える。
昼間はスノウにパンケーキを食べさせたが、流石に2食連続で同じものを与えるわけにはいかないだろう。竜とはいえ食事に変化はあった方が良いに決まっている。
しかし、スノウが普通のメニューを1匹で食べきれるとも思えない。
此処は……僕が食べる料理を少しずつ与えるのが鉄板か。
そうなると、何を注文するべきか。
がっつり系の肉料理か……それとも胃に掛かる負担を考えて比較的あっさりとした魚料理にするべきか。
魚料理といえば、こんなものもある。新鮮な白身魚をさっくりと揚げたフライ定食。
ソースはお好みで野菜を煮込んで作ったブラックと、ほんのり酸味が利いたタルタルが選べるらしい。
因みに僕はどちらかと言うとタルタル派だ。
酸味のあるソースをスノウがどう思うかは分からないが、揚げ物は意外と腹に溜まりやすい。注文する料理としてはありだろう。
延々と悩んでいてもしょうがない。今回はこれにしよう。
店員さんを呼び、料理を注文する。
ついでに器をひとつ別個に頼み、冷茶を入れてもらう。
器はスノウの目の前に。
『これはなあに?』
すんすんと冷茶の匂いを嗅ぐスノウ。
「お茶っていう飲み物だよ。冷たくて美味しいよ」
『飲んでいいの?』
「いいよ」
スノウは鼻先を器に付けて、冷茶を飲み始めた。
『ほんとだ。冷たくて美味しいねー』
周囲の声に耳を傾けると、こちらの様子を見ているらしい客たちの話し声が聞こえてくる。
竜がいる、とか、あれが魔物使いなのか、とか。
残念、魔物使いじゃないんだなこれが。
まあ、悪意のある囁きではないし好きに言わせておこう。
そんな感じで待ち時間を過ごし、料理が運ばれてくるのを待った。
「お待たせしました」
複数の皿を載せたトレイが僕の目の前に置かれる。
流石定食と謳っているだけある。つけあわせが豪華だ。
タルタルソースがたっぷり掛けられたフライの他に、野菜スープと米を盛り付けた器がある。
フライの下に敷かれているのは定番のキャベツだ。ざっくりとカットされた葉が瑞々しい。
揚げたてなのだろう。フライからは湯気が立ち上っている。
さあ、冷めないうちに頂こう。
フライを食べやすい大きさに切り分けて、タルタルソースをたっぷり絡めて口へと運ぶ。
さくっとした軽い歯応え。ふわっと口の中に広がる魚の旨味とソースの酸味。
……揚げ物はやっぱり揚げたてが美味しいね。
僕はフライをもう一切れ取り、ソースを付けてスノウへと差し出した。
「スノウ。魚だよ」
スノウは匂いを嗅いだ後、ぱくりとフライを頬張った。
『この酸っぱいのが美味しいね。この味好きだなぁ』
どうやらスノウはタルタルソースが気に入ったようだ。
時々キャベツを交えながら、僕とスノウはフライの味を存分に堪能した。
野菜スープも仲良く半分ずつ味わい、米も完食する。
量としてはそんなに食べていないのに、満足感がある。やはり揚げ物は胃にずしっと来るな。
『お腹いっぱーい』
スノウも満足してくれたようだ。
食べられる食事がなくて困るなんてことにならなくて本当に良かったよ。




