第52話 アルトさんの相談事
僕とアルトさんは店の奥の方の席に案内された。
因みに入店拒否されるかと思われたスノウは、僕の隣にある椅子の上にちょこんと座っている。
何でも近年魔物使い職の冒険者が増えてきたとかで、ペット同伴でも入店可能になったとのこと。有難いね。
スノウはむやみやたらに飛び回ったりしないようだし、騒ぐような行動に繋がるアクションを起こさなければ大丈夫だろう。
注文を聞きにきた店員さんに僕は卵雑炊を、アルトさんはオムライスを注文した。
スノウにはメープルシロップがたっぷり掛かったパンケーキを。ドライフルーツを食べるくらいだし、パンケーキもいけるだろう。
運ばれてきた冷茶で喉を潤し、僕は話を切り出した。
「それで……御相談というのは?」
「はい」
アルトさんはスノウをじっと見つめ、答えた。
「スノウの……その竜のことです」
──何でも、スノウが懐いてくれないらしい。
冒険者ギルドで引き取ってからというもの、あれこれ手を尽くしたのだが、一向に懐く気配がなかったというのだ。
抱いても鳴き止まず、名前を呼んでも振り向こうともしない。
食事は与えれば一応は食べるものの、手から直接貰って食べることは絶対にしないのだそう。
これでは、魔物使いとしてこの子を使役しているとは言えないのではなかろうか。
アルトさんの仲間たちは、アルトさんには魔物使いの才能はないのではないかと言ったらしい。
ひょっとして、そうなのかもしれない……と考え始めた矢先。
僕を発見したスノウの挙動を見て、思ったのだという。
スノウには、心に決めた人が既にいるから、それ以外の者には靡かないのではないか、と。
「今の状態のまま無理矢理関係を結んでいても、きっとスノウは俺には興味を持たないだろうし、そんな俺は魔物使いであるとは言えない……双方にとって良くはないだろうと、思うんです」
運ばれてきたオムライスにスプーンを入れて、アルトさんは僕とスノウを交互に見た。
「それだったら、スノウが本当にいたい場所に返してやるのが筋なんじゃないかなって、そう思ったんです」
パンケーキと卵雑炊が運ばれてきた。
僕はパンケーキをナイフで小さく切り分けて、スノウの前に置いてやった。
スノウは鼻をパンケーキに近付けて匂いを嗅いだ後、手を伸ばして一切れ掴み、口へと持っていった。
あぐあぐとパンケーキを食べる姿は、竜にしては行儀が良い。
僕も雑炊を食べよう。
湯気が立っている雑炊の表面を軽く木のスプーンで掻き混ぜて、一口。
野菜と茸が良い出汁を出している。卵が絶妙に絡み合っていて、まろやかで美味しい。
病気の時は雑炊がいいってよく言うけど、これは病気でなくても食べたくなる味だ。
「鑑定士さん」
かちゃり、とスプーンを置いて、アルトさんは背筋を伸ばした。
「スノウを……引き取ってはもらえないでしょうか?」
「僕が……ですか?」
僕は口に運びかけたスプーンを器に戻して、スノウを見た。
スノウは口の周りをメープルシロップでべたべたにしながら、パンケーキを懸命に頬張っている。
アルトさんは頷いた。
「多分……スノウが1番いたい場所は、鑑定士さんの傍なんです。さっきの様子を見て、確信しました」
まあ、懐いてなければ抱き付いてきたりはしないだろうが……
僕は正面に視線を戻した。
「貴方はそれで良いのですか?」
「ええ」
ふっ……と何かを悟ったような、そんな表情をして、スノウを見つめるアルトさん。
「俺は魔物使いに拘らなくても冒険者としてやっていけますし。夢が叶わなかったのは残念ですけど……きっと、これが俺とスノウにとって1番いい選択なんです」
静かに。アルトさんは、僕に対して頭を下げた。
「スノウのこと、宜しくお願いします」
「……分かりました」
僕はスノウの背中を軽く撫でてやりながら、アルトさんの申し出を承諾した。
「責任を持って引き取らせて頂きます」
……本当は嬉しかった、なんて言えない。
きっと、思っていた以上に、僕はこの子に愛着を持っていたのだ。
卵から生まれた、その姿を見た時から──
一緒に暮らせればいいなと、自分でも気付いていないうちにそういう考えを抱いていたのだろう。
僕たちは互いに顔を見合わせて、微笑んだ。
アルトさん、吹っ切れたような顔をしている。
スノウのことで頭を悩ませることがなくなったからなのか。先までの表情とはまるで違う、爽風のような表情だった。
「……さ、料理が冷めないうちに食べましょう。俺、何だか急に腹が減ってきちゃいました」
言うなりスプーンでオムライスを豪快に崩して、大口で頬張った。
……口の横にケチャップが付いてる。
僕はスプーンを手に取って、器の底から掬い上げた卵の塊を口に含んだ。
──帰ったら、ヘンゼルさんに家族が増えたことを報告しなきゃあね。




