第51話 思いがけぬ再会
流石錬金術ギルド特製の薬と言うべきか。昼になる頃には、僕の身体から倦怠感や喉の痛みは消えていた。
これなら食事は普段通りにできそうだと、僕は料亭に向かっていた。
とはいえ、風邪が治ったわけではない。刺激のある料理は避けるべきだろう。
無難に雑炊にでもしようか……そんなことを考えながら、料亭の入口をくぐろうとして。
びたっ、と何かが背中に当たったのを感じ、僕は足を止めた。
今背中に当たったのは何だ?
振り向き、背中を見ると。
白い蝙蝠のような翼が僕の背中に生えていた。
いや、違う。
翼のある何かが背中に張り付いているのだ。
「な、何だ?」
首を懸命に伸ばすが、これ以上は見えない。
手を回してみると、つやつやとした固い感触の塊に指先が触れた。
サーペントの革……あれに手触りは似ている。
しかしサーペントの革よりも柔らかく、弾力があった。
「みゃあ」
訝しがっていると、その塊は聞き覚えのある鳴き声を発した。
……あれ、この声って……
「こら、スノウ!」
通りから、誰かがばたばたと駆けて来る。
「すみません、うちの竜が失礼を──」
人混みを縫うように走ってきた彼は、僕の顔を見るなり目を丸くした。
「冒険者ギルドの……鑑定士さん?」
「──貴方は」
僕の中で、断片と化していた記憶がひとつの線に繋がった。
冒険者ギルドに竜の解体を依頼した冒険者パーティ。
その中の、リーダー格の若者だ。名前は確かアルトと言ったか。
では、今僕の背中に張り付いているのは──
背中から、それが離れて正面へと回ってくる。
「……はは」
僕の口から、小さな笑いが零れた。
「お前、大きくなったんだなぁ」
「みゃあ」
僕の言葉を理解しているのか、子竜はその場でくるりと宙返りをしてみせた。
体長は頭から尻尾の先まで大体40センチくらいある。
生まれた時が20センチくらいだったから……単純に計算して倍の大きさになったと言えるだろう。
爪もしっかりとして、頭の角も若干伸びている。
竜って成長早いんだな。
僕が右手を出すと、子竜は頭を指先に擦り付けてきた。
「スノウが自分からコミュニケーションを取ろうとするなんて」
スノウというのは子竜の名前だろうか。
お前、良い名前貰って世話してもらってるんだなぁ。
良かったな、のニュアンスを込めて僕はスノウの頭を撫でてやった。
くるる、と喉を鳴らして気持ち良さそうに目を閉じるスノウ。
そんな僕たちの遣り取りを見つめていたアルトさんが、意を決したような顔をして僕に言った。
「あの……御相談があるのですが、ちょっと良いですか?」
「相談?」
僕は訝った。
料亭の入口をちらと見やって、答える。
「立ち話も何ですし……中で軽く食事でもしながら如何ですか?」
「そうですね」
アルトさんは頷いて、スノウに手を伸ばす。
スノウはみゃあと鳴き声を発しながらするりとアルトさんの手を避けると、僕の右肩に止まった。
肩にずしっと重みが圧し掛かる。
見た目以上に重くなってるな、こいつ。
アルトさんは伸ばした手を引っ込めて、ふう、と溜め息のような息を漏らした。
……何か、訳ありみたいな雰囲気だな。
その辺もさり気なく訊いてみるか。
僕はスノウを肩に乗せたまま、料亭の入口を開いた。




