第47話 マイペースな子竜
「戻りました」
冒険者ギルドに到着した僕は、いつものように一声掛けながら中へと入った。
カウンターには客人が来ていた。
「お帰り。イオちゃん」
「よう、イオ君」
錬金術ギルドのニエルヴェスさんである。
ニエルヴェスさんは僕の腕の中にいる子竜を見つめて、言った。
「それが例の竜? これはまた随分とちっさいね」
竜の話はヘンゼルさんから聞いたのだろう。僕が竜を連れていることにも驚くことはなかった。
「もう少し大きければ素材が採れたんだろうけどなぁ」
肩を竦めて子竜から視線を外し、ヘンゼルさんの方に向き直る。
「で、話の続きだけど。竜の血と肝をうちで引き取らせてもらいたいんだよね。金額に色を付けるから、何とか丸ごと引き取ってもらえないかな?」
「そこは依頼者さん次第になるわねぇ。最近は錬金術に明るい冒険者さんも増えてきてるし……」
「僕が直談判するのってあり?」
「それは構わないけれど……依頼者さんが来るのは夕方よ。ニエルヴェスちゃん、ずっと此処で待ってるわけにいかないでしょ?」
……どうやら解体した竜の素材についての話をしているようだ。
錬金術ギルドとしては、血や肝は是非とも欲しい素材だろう。
竜の素材は、あまり多くは世間に出回らない。竜の解体依頼はそう頻繁に来るようなものではないからである。
竜の素材は貴重品なのだ。
まあ、その辺の話はその道に明るい人に任せておくとして。
僕は子竜を抱えて2階の仕事場に移動した。
休憩に出る時に綺麗に片付けたはずの机の上には、見覚えのない品物が置かれていた。
ちょっと留守にしている間に、新たな鑑定依頼品が来たようである。
僕は椅子に座り、子竜を膝の上に乗せた。
子竜はしきりに僕の腹に頭を擦り付けている。
撫でろ、と言っているのだろうか。
指の腹で子竜の頭をちょいちょいと撫でてやる。
子竜は目を閉じて、随分と気持ち良さそうにしている。どうやら撫でられるのが好きなようだ。
この子が大人しくしている今のうちに、鑑定を済ませてしまおう。
僕は子竜の頭を撫でながら、空いている方の手で鑑定依頼品を手繰り寄せた。
今回の依頼品は武器が多かった。短剣が2本に、長剣が1本。指輪と、小さな鞄がひとつ。
鞄というのは珍しいな。ひょっとして圧縮魔法が封じられてる鞄だろうか。
もしそうだとすると一財産だな。
それを含めて鑑定するのが僕の仕事。早速、始めますか。
「鑑定眼」
まずは小さい指輪から。
……残念。魔法の道具ではなかったか。
使われている宝石はジルコニア。それも小粒なので、それほど価値のある宝飾ではなさそうだ。
多分買取案件になるだろうな、これは。
次に鞄を鑑定する。
使われている革はおそらくバッファローだろう。普段使いに良さそうなデザインの肩掛け鞄である。
こちらは……魔法の道具との鑑定結果が出た。
圧縮魔法が封じられている鞄だ。鞄自体の大きさがそれほどではないため持ち運びできる物量も大したことはないが、これはこれで価値がある。買取依頼に出しても良し、自分で使うも良しの一品だ。
と。
こてん、と腹に固いものが当たる感覚を感じ、僕は膝を見た。
子竜が目を閉じたままひっくり返っている。
ぴー、ぴーと深く息を吸う音が聞こえる。
……頭を撫でられるのが気持ち良くて眠ってしまったらしい。
外を出歩いて疲れたか。生まれて間もないもんな。
僕は子竜の腹を軽くぽんぽんと叩いてやった。
このまま夕方まで寝ていてくれると個人的には有難いんだけどね。
僕はふっと小さく笑んで、机の上の剣を手に取った。
さ、鑑定の続きだ。この子を起こさないように静かにやらないとな。




